11 父と娘
イースデン公爵邸では、ナーディアが父親のゼグウェイから叱責を受けていた。
「王宮にしばらく行かなくてもいいと許可したが、河原に日参して人々に嘲笑されるなどと公爵令嬢の品位を失くすつもりか!?」
イースデン公爵の情報力では、早々に噂を入手していたが、噂の元をたどるのに時間を要したのだ。
「お父様、今更ですか?
私は王太子妃教育を受けて噂の対処法も身につけたつもりですが、今回は気にしてません」
つーん、と横を向くナーディアに、子煩悩な公爵も強い言葉を言うしかない。
「嫁ぐまで領地に行きなさい」
「王太子殿下との結婚まで、ということですか?」
「噂の元は、その殿下だ」
ナーディアが確認すると、公爵は苦虫を潰したような低い声で答えた。
王太子は、イースデン公爵家を敵にまわしたらしい。
「殿下は私に非を作って、イースデン公爵家側の瑕疵で婚約破棄にもっていこうとしているのですね?」
そして、その噂を広めているのは王太子の恋人達なのだろう。ナーディアは短絡的な作為に、夢でみた冤罪での処刑を連想する。
「私が王太子妃として失格としたい人々がいる、ということはわかってます」
高位貴族と懇意にしているイースデン公爵家であるが、全ての貴族を掌握しているわけではない。
貴族には王太子妃を狙う家門もある。
イースデン公爵家と成り代わりたい家門もあるだろう。
低位貴族であるなら、なおさらだ。
広大な領地と強い商業圏で、巨万の富を築いたイースデン公爵家は、国内で抜きん出た権力を持っている。
今更、王家と縁続きになる必要はないが、王家と貴族間のバランスの為の政略結婚である。
それは、ナーディアもよくわかっているが、邪魔者を消すために冤罪で処刑されてはたまらない。
「王太子殿下は、イースデン公爵家が気が触れた娘を妃として押しつけようとしていると、イースデン公爵家の非道を見せたいのでしょうね」
父親の表情が変わらないのを見て、ナーディアは父親も同じ事を考えていると確信する。
「我が娘は、気が触れてなどいない。
河原で石集めなど貴族の令嬢として褒められた趣味ではないが、異質であることと異常とは違う」
ゼグウェイはナーディアの行動には意味があると思っている。
「だが、中傷されるのも腹立たしい。片がつくまで領地に行きなさい。
その前に王宮の舞踏会には出なさい」
「お父様、舞踏会には出ます。でも、河原にはもう少し通いたいの」
ナーディアは、父親に宝石商で買った箱を取り出した。中には集めた石が入ってるいる。そして、今日見つけた石が入っている袋を取り出した。
箱を開けると、一つの石が入っている。
昨夜の夢に、アーニデヒルトが出てきて、『石が増えたので、少し力が使えるようになった』と言ったので、起きて箱を開けると、小さな石がたくさん入っていたはずなのに、まるで引っ付いたかのように、一つの石になっていたのだ。
ナーディアは、箱の中に袋から取り出した小さな石をバラバラと入れた。
そうすると、ナーディアとゼグウェイの目の前で、小さな石は吸い寄せられるように動いて、箱の中にあった石に溶けるように引っ付いた。
「なんだ、これは!!」
ゼグウェイが驚きに声を荒げた。
「磁石ならば引っ付くだけだが、これは溶け込んだぞ!」
まさか石に呼ばれたとは言えず、
「どうしてだか、わかりません。これを河原で探してます。もう少し探したいのです」
ナーディアは首を横に振りながら言うしかなかった。
公爵は一つ息を吐いて、ナーディアを見つめた。
「許可しよう。
だが、誰にも言ってはいけない。
そして、誰にも理解されないから、誹謗が続くかもしれない。それを耐えれるか?」
ナーディアは静かに首を縦に頷いた。
もちろんです、これを集めないとアーニデヒルトから悪夢見せられて寝れないんです!
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