109 ルシンダ
ルシンダは短剣をイレーヌに向けた事で、重犯罪者として取り扱われ、軍の地下牢の中でも厳重な牢に収監された。
カビと血の臭いが充満する独房で、ルシンダは膝を抱えて震えている。
「殿下は、イースデン公爵令嬢より私を愛してるって、何度も言ってくれたわ」
同じ言葉を繰り返している姿に、王太子を魅了したかつての輝きはない。
「どうして、あそこにイースデン公爵令嬢がいないの。
イースデン公爵令嬢が殿下を隠しているのにちがいないのに」
ルシンダはあの部屋にいた女の姿を思い出していた。
何度かヴィスタル侯子を見たことがあるが、彼と同じぐらい美しかった。
王太子が最近冷たいのは、あの女に目移りしたのかもしれない。
自分の部屋より王宮の中心部で豪華な部屋に女が入るのを見て、バーミリオンが連れ込んだ女なら追い出してやろうと思って短剣を隠し持って行った。
イースデン公爵令嬢が戻ってきたかとも思った。
王太子バーミリオンがルシンダに興味を失い離れたのは、誰の目にも確かなことだったが、当人のルシンダだけは認めずに、自分に都合のいいように考えていた。
いつまでも、バーミリオンがルシンダを側妃にすると公言した時のままでいた。バーミリオンからのたくさんのプレゼントが届く毎日。王宮に部屋を与えられ、周りの人々がルシンダの顔色を伺う日々。
ルシンダは過去の栄光の時から進歩はない。
周りが変わっていくの認めようとしないから、変わっていく周りと差が大きくなるという事に気がつかない。
バーミリオンがルシンダを側妃にすると公言したものの、正式な手続きがあったわけでもなく、王家も世代交代でバーミリオンは王太子でさえなくなる。
ルシンダは男爵令嬢のままであり、王宮に居場所はなくなる。
城前広場からの騒動も気にせず、自分は関係ないと思い込んでいる。
「囚人の様子はどうだ?」
ユークリッドが派遣した武官が、様子を確認するために地下牢に来た。
「はっ。独り言を言っております」
牢の監視は、敬礼をとりまながら報告をする。
「侯爵は、たいそうお怒りだ。
もっとも小物過ぎて、私に一任された」
尋問室に連れて来るようにと、監視の一人に指示を出して、男は尋問室に向かった。
イレーヌの安全が確保できたら、ルシンダにかまう時間などない。
ルシンダは極刑が確定している。
読んでいただき、ありがとうございました。




