106 ユークリッドの懐柔
王宮に着くと、ユークリッドはイレーヌを私室のベッドに座らせた。
「昨日は寝てないのだろう? ゆっくり休むがいい。
私は会議に戻るけど、夕食は一緒に取ろう」
「ユークリッド様」
イレーヌが顔を上げれば、ユークリッドが屈んで、何だい?と表情をする。
「大事な時なのに、会議を抜けさせて、申し訳ありません」
頭を下げようとするイレーヌの方に手を添えて、ユークリッドは止める。
「私にとって、イレーヌが一番大事だからね。
国を作り替えるんだ、時間も人も何もかもが足りない。だから私の側にいて欲しい。イレーヌがいれば、頑張る気になるから。
それに、私は傀儡でもいいと思っている。
優秀な黒幕がいれば、私はお飾りの王としてイレーヌとのんびり暮らせる。
一人で何もかもするより、優秀な人間を使う方が、もっと上手くいく。
たとえば、イレーヌの兄君のようなね」
研究の為に屋敷を空ける事の多いユークリッドは、侯爵家の実務を使用人に振り分けていた。
国も同じと考えているのだ。
適材適所を選ぶのが仕事だと思っている。
「王に成るユークリッド様には、子供が必要です。
私は閨が出来ないかもしれない・・」
イレーヌが元婚約者に暴行されて傷つき怯えているのを、ユークリッドは知っている。
「もちろん、イレーヌに産んでもらうさ。
でも、それは今じゃない。
私もイレーヌを抱きたい欲はある。当然だろう? イレーヌを好きなんだから」
ユークリッドの言葉に、イレーヌがピクンと身体を震わす。
「そういうのは、イレーヌの同意のうえでだ。
私がイレーヌを愛したいと思うように、イレーヌに私を愛してもらいたいからね。
急ぐ必要はない」
「私がユークリッド様を愛す?」
好きという気持ちでなく、身体的なことだと分かっているが、イレーヌには想像もつかない。
「そうだよ。
好きな人と愛し合う行為は、幸せなことだと思うよ。
イレーヌが恐くなくなるまで待つから、私を幸せにしておくれよね」
さすがは、人生の先輩である。
イレーヌに嫌悪感を与えないようにしながら、自分の欲望を伝える。
「じゃ、会議に戻るよ。後で侍女に来るように伝えておくから、イレーヌは少し休んだらいい」
ユークリッドが部屋から出て行っても、すぐに寝れる訳ではない。
イレーヌはベッドから降りて、居間のソファに横になった。昨夜ほとんど寝てないせいか、すぐに寝息が聞こえる。
侍女がブランケットをかけたのも気がつかないぐらい、深く眠りに落ちていた。
もう逃げることはできない、それがわかったら、前に進むしかない。
私に資格がなくても、ユークリッド様を幸せにできるかもしれない。
そう思うと、イレーヌの心が温かくなるのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
おじさんのユークリッド、頑張っています。




