100 変わりゆく時
ナーディアとイレーヌはそれぞれの家に戻ることにした。
ユークリッドが次期王となることが確定したことで、トレファン侯爵邸に現王派の攻撃があるかもしれないからだ。
アルチュールは、らしくないなと思いながらも馬を駆らずにはいられなかった。
王都は夜になっても喧噪の渦の中であった。国が大きく動いている。街のあちらこちらで諍いが起きていた。
王宮からイースデン公爵邸まではすぐに着いた。
先触れも出してないが、一目でもナーディアに会いたかった。
二人を城前広場からトレファン侯爵邸に送ってから、王宮に戻っていたのだが、二人が実家に戻ると聞いて不安になったのだ。
イースデン公爵もヴィスタル侯爵も王宮に登城している。
警護や使用人がいるが、夫人と娘だけになっていることを考えると不安が尽きないのだ。
それはイレーヌも同じはずだが、イレーヌは次期王の婚約者ということで王宮から警備が手配された。
イースデン公爵邸に着くと、アルチュールはサロンでナーディアを待っていた。
扉が開いて顔を上げれば、元気そうなナーディアと視線が合う。
「アルチュール、どうされたの?」
昼間に城前広場一緒にいたのだ。わざわざ来るほどの何かがあったのかと不安になる。
「公開処刑で人々は興奮しているところに、あまりにいろいろな事があった。今夜は王都が騒がしいだろう。何が起こるかわからない。僭越だが、今夜は僕が番をしよう」
「我が家には警護の騎士がいることをご存知でしょう?」
「ああ、優秀なことも知っているが、僕がナーディアを守りたい」
ナーディアはアルチュールを見る。
宰相補佐であるアルチュールには、今日の事でさらに仕事が増えたのであろう。
常に自分の装いや肌の状態が最優先事項だったはずなのに、馬で駆けてきたので額には汗が滲み、衣服も乱れている。
心配されてる。
それが、とても嬉しい。
「ありがとうございます。けれど、アルチュールもとても疲れているはず。
警備の番などと言わずに、少しでもお休みください」
ああ、こういう事が幸せと言うのだ、とナーディアは感じた。
自分と王太子バーミリオンの間に不足していたものだ。
ナーディアは微笑んでいたらしい。
それを見たアルチュールが頬を染めた。
「その表情を見れただけで、来たかいがあった」
少しずつ近づく気持ち。
それが、心を温かくさせてお互いの存在が大切になっていく。
「私も、アルチュールが心配で来てくれたことが嬉しい。
でも、王宮はまだ混乱の中でしょう?
こちらは大丈夫だから、伯父様をお願いね」
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