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1 石集めのお嬢様

前作からずいぶん間が空きましたが、新作を連載いたします。

公爵令嬢として何不自由なく暮らしているナーディアが一つの石を拾った時から、運命が始まる。

それは、新たな出会いを導き、ナーディアの周りを変えていく。

『こっち』


聞こえた小さな声に、ナーディアは周りを見渡した。

馬車に並走している護衛騎士のガビドーは異常を感じないようだが、何故だか確認しないと不安になってくる。

「馬車を止めて、少し戻ってちょうだい」

声をあげたナーディアに、ガビドーは辺りの気配を確認してから馭者に指示を出した。


「お嬢様、どうされましたか?」

ガビドーは帰り道のルートを思い出しながら、ナーディアに確認する。

「気になることがあって、確認したいの」

ナーディア自身もどうして気になるのかわからない。

ただの空耳だったのかもしれない。本当に声が聞こえたとしても、馬車の外の(ざわ)めきだったのかもしれない。


ナーディアは、声が聞こえた場所まで馬車を引き帰させると馬車から降りようとして、ガビドーに止められた。

「お待ちください」

ガビドーは先に安全を確認してから、ナーディアを馬車から降ろす。

馬車の反対側を騎乗で護衛をしていたエルファンは馬を降り、歩き出したナーディアの後ろを警護する。

ナーディアはガビドーとエルファンの二人の護衛に守られて歩いていく。


17歳のナーディア・エトワール・イースデン公爵令嬢として護衛二人は少ないが、ガビドーもエルファンも公爵の信任厚い騎士である。


あの声は聞こえるような聞こえないような、耳に集中すると声が聞こえるような気がする。

ナーディアが戸惑いながら歩いて行くのは、大通りから離れた方向だ。

二人の騎士はナーディアを止める事はないが、辺りの気配を探りながら警護する。


ナーディアが辿り着いたのは、王都を流れる河川の河原である。

令嬢の靴では河原を歩くのは困難であるが、幸いにして今日のヒールは太く低かった。

ガビドーが手助けしようと手を差し出したが、ナーディアはそれを断って自力で歩いた。


すぐに赤黒い小さな石が目に入った。

手に取ると、ほんのり温かい。

『私は、おまえを待っていた』

声が聞こえた。

間違いないこの石だ!

『探してほしい』

「何をさがすの?」

ナーディアの声で騎士の二人はギョッとしてナーディアを見るが、石に話しかけているようにしか見えない。

声はナーディアにしか聞こえていないのだ。

だが、少女が人形や花に話しかけるように、ナーディアも石が気にいったのだろう、と納得する。

聡明な公爵令嬢のナーディアであるが、まだ17才なのだ。可愛い一面があったとしても不思議ではない。

騎士達はナーディアが手に乗せた石に話しかけても、令嬢もこのような可愛い事をするのだと思うだけで不審には思わない、それよりも河原という場所で危険が無いように周りに注視する。

ナーディアが河原を歩いて他にも同じような色の石の欠片を集めているのを、見守っていた。


石を持って立ち上がったナーディアは振り返って川を見た。馬車を降りてからずいぶん歩いたことと、石を探すのに時間がかかった為に陽が沈みかけている。

対岸は逆光で黒いシルエットとなり、(あし)が穏やかな風に揺れている。川面(かわも)はオレンジ色に輝き、水の流れで小さな光の粒が()ねる。

護衛も自分もオレンジの光に染まっていく。

身分も姿も関係なく皆が夕陽に彩られ、暮れゆく陽が暖かく感じられた。

王都の外れに来たのは初めてだったが、こんなに美しい景色があるとは思わなかった。

弱い風が頬をかすめ、河原の葦を揺らして、その音が優しい(ささや)きのように聞こえて、気持ちが落ち着く。

馬車の窓からは、見ることが出来ない風景。

自分で歩いて来たから、この景色を見ることが出来た。

「きれい」

ナーディアから言葉が溢れ出る。



ナーディアは屋敷に戻っても石を握りしめ、食事の席でも両親にお披露目をする。だが、さすがに声が聞こえたとは言えない。石の声が聞こえるなどおかしい、という常識はもっている。

「ね、お父様、この石を入れる箱が欲しいの」

ナーディアが可愛くおねだりすれば、父親のイースデン公爵ゼグウェイも目尻を下げて頬がほころぶ。

「明日、ロザンヌと好きなのを選べばいい。ジェルマン宝飾店なら気に入るのが見つかるだろう」

河原で拾った石を、宝石の付いた箱に入れればいいと言うのだ。

「あなた、甘やかしすぎですわ」

母親の公爵夫人ロザンヌは注意するが、明日ナーディアと買い物に出かけるつもりでいる。


「ありがとう、お父様。いいでしょ、お母様?」

ナーディアが微笑めば、ロザンヌも笑みを浮かべる。

「仕方ありませんね」

ゼグウェイは、王宮では内務大臣として厳しい立場にいるが、家庭を大事にするよき夫であり父であった。

留学中の兄を含め、イースデン公爵家は、高位貴族の中でも家族仲のいい家庭である。


読んでいただき、ありがとうございます。

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