野獣先輩降臨しすぎだろ
「うっ、ここは……?」
「ここはお前の精神内だ。」
俺が独り言ちたところ、なにやら聞きなれない声が帰ってきた。
「⁉」
「いちいち驚くことでもないだろう。サティスに聞いているのだろう?」
「…もしかして、あんたが能力の」
「ティムールだ。I’m using Go◯gle Pi◯el!!」
なぜこんなにいきなり顕れた⁉これまで音沙汰もなかったのに……
「八重と白夜の影響だ。」
「!!」
「我は先ほどまで眠っていたのだが何やら近しい気配を感じられてな。」
「…そういうことか。」
つまり俺の能力は白夜や八重の能力に影響を受け、顕れたのだろう。
「全く持ってそのとおりだ。」
「…なんでティムールはさっきから俺の考えていることを先に潰してくるんだ」
「そんなこと、思考を読んでいるからに決まっているだろう。」
「…やっぱりか。」
「とはいえ、精神世界限定だがな。」
その一言を聞いて俺は安堵した。それはそうだ。プライバシーのない生活などクソだからだ。
「なぜホッとしている…」
「プライバシーのない生活などクソだからだ。」
「思考と同じことを言われてもな。」
「確かに。それで、結局これは何なんだ?」
「それはここになぜ呼んだかと言う事か?」
「あぁ」
「それは我がお前の器を見定めるためだ。」
「品定めか。ちなみに、お眼鏡に叶わなかったら?」
「無論、我は眠る」
それってつまりお眼鏡に叶わなかったら力貸してくれないってことだよな。これってかなりまずいのでは…
「まぁ落ち着け。」
またしてもティムールは俺の思考を読んだのだろう。
「それはどういうことだ?」
「つまりまだ決められんということだ。なにせつい先程我は目覚めたのだからな。」
「それじゃ、いつまでに決めるんだ?」
「一ヶ月だ。一ヶ月のうちにお前の器を見定める。」
ティムールはそう言って指を鳴らした。と、同時に俺の意識が再び遠くなっていく。その最中、ティムールはボソリとつぶやくように言った。
「精々気張れ。」
そこで俺の意識は完全に途切れた。
「ん?あ、起きた‼」
覚醒と同時に心配性の母の声が聞こえた。
「あれ?どうして俺はここに?」
「ハルちゃんのお友達が家まで連れてきてくれたのよ。」
「え?」
なんで住所教えてないのに知ってんの?怖いんですけど。
「後でお友達にお礼を言っておくのよ。」
「わ、分かった…。」
あぁ、明日学校行きたくねぇ…。
ーー後日、学校で昨日のことを八重に教えられた。
「あんたはいざ出ていこうとしたタイミングで倒れたのよ。私達は原因を分かっているけど、あんたの母親はわからないでしょうから貧血って言っといたわ。」
とのことだった。住所の件は少し怖かったがどうやら白夜が知っていたらしい。
そういうのはもっと事前に言ってほしいものだな。とはいえ、彼らが俺を家まで運んでくれたのだ。感謝はしておかないとな。
ーー放課後、巨大秘密基地にて。
現在俺は地下の恐怖を体験しているところだッ!
具体的に言うとッ、少しッ…いやかなり衛生環境の悪いところで裸足かつナイフ一本で帰ってくるという鬼畜の所業を行っていたッ!。
無論、明かりなどありはしないッ!
クッ、いったいどうしろというのだッー八重ッ白夜アッー!!
「ドドドドドド…!」下水が地下に流れ込む音が聞こえるッ…。
「ファーーwwwwwwwWRYYYYYYYYYYYYYYYYYYwwwwwwww」
詰んだーーーーwwwwww。
これから一体どうしろというのだッ!場所は真っ暗闇の地下ッ。そのうえ靴もないからむやみに歩き回れないッ。
なのに一定時間がたつと下水が流れ込む。
…くそげーだろ。そう言って俺は下水に飲みこまれた。
「大丈夫??下水まみれで汚いけどwww」
助けに来たはずの八重が嘲笑しながらこっちに寄ってきた。
一瞬下水をぶっかけてやろうかと思ったが鋼の精神で耐える。
「…気分は最悪だ。大体こんな訓練なんの意味があるんだよ。判断パワーが足りん…!」
「それはね、まず夜目を鍛えられること。次に瞬間的に物事を判断する力を鍛えられること。そして最後に柔軟な思考を持つことよ。」
「思ったよりしっかりした理由(?)なんだな。」
「そりゃそうでしょ。何が理由だと思ってたの?」
「たとえば、非日常感を味わってHighになるためとか。」
「そんなわけ無いでしょ。ここをどこだと思ってるの?」
「痛い訓練場。」
「グッ、」
八重のSAN値が減った希ガス。
「た、確かにその通りよ。…でもっ!それだけでもないのよ!?」
「ならどんな事があるんだ?俺、頭悪いからわからないアル。」
「このっ、コケにしてぇ!!」
そろそろ八重が怒りそうなので弄ぶのもこれくらいにしておこう。
そんなことよりもこの地下の攻略法を考えなければ。
…取り敢えず八重と白夜に聞いてみるか。
「なぁ、八重。お前どうやって地下を攻略したんだ?」
「っち。私はここの道具をいい具合に使って脱出したわ。」
「???ここに道具なんて無いだろう。」
「頭が固い男ね。少しは自分で考えたらどうなの?」
少しかちんと来たが黙っておく。
「頼むよ。このとおりだ。俺は何も自分で考えたくないんだ。何でもするから。」
「下衆ね…ん?今何でもするって言ったよね?」
と、八重が悪魔のような笑みを浮かべる。俺は非常に悪い予感がしたが、ここで敢えて「漢に二言はない。」と言い張ってしまった。
それが間違いだった。俺は八重の策略に嵌ってしまったのだ。
「じゃ、地下に24時間軟禁で。」
「え、」
つまり俺に下水まみれの汚物になれというのだ。
しかも24時間。これは由々しき事態だ。
俺は思いのほかきれい好きだ。一日一回軽く掃除するくらいは好きなのだ。
そんな俺からして地下に24時間監禁など耐えられない。てか多分俺以外でも発狂する。
ーー24時間後
無事、爆発した。ていうか実際脱出はできたんだがな。
足の裏が切れてたり高熱だしたりしてな…散ったわ。
そしてどうやら八重は白夜にこってり絞られたいらしい。
しゃあないわな。
「まぁ、今回は俺が被害者だったな。」
「…ごめんなさいポン」
「え、なに八重。きもっ」
「あ゛?」
「なんでもありません。」
「…今回は私も悪かったわ」
「ですよねー笑笑」
「は?タヒね!てか、白夜がアンタ呼んでたわよ」
「白夜から俺に?」
「えぇ。何でも次の訓練に移行するって。」
なるほど。これは気になるな。
「分かった。ありがとう。」
俺はそう言って白夜のもとに向かった。
ーー白夜の部屋
「やぁ、君の地下での行動を見せてもらったよ。」
「出会い頭に監視の事後報告かよ…。」
「仕方ないじゃないか。こうでもしないと君の適性を探れないんだから。」
「適正って、訓練に適性まで関係あるのか?」
「もちろんだよ。僕はこうやって君たちをサポートするのも役目だからね。」
…どうやら白夜は俺の地下での行動を監視、傾向を探っていたようだ。
傾向も何も脳筋なだけなんだが。
「まぁ、どちらにしろ俺のためだってことは分かった。それから俺の次の訓練って一体何だ?」
「あぁ、それについて話そうか。単刀直入に言おう。君は身体能力が非常に低いんだよ。とは言っても平均男性くらいはあるんだけどね。でもそれじゃ魔王軍には到底太刀打ちできない。無論、僕たちもだ。だから僕たち3人は少し遠征するよ」
「…え?」
遠征って、一体どこに?てか、親にはなんて言えば…。
「あー、びっくりさせちゃった?心配しないで、遠征って言っても少し遠い県に移動するだけだから。君のご両親には教員の僕がなんとか言っておくよ。」
それなら大丈夫…なのか?まあ、気にするだけ無駄だな!!
「あ、それからもう一つ。遠征では僕たち以外の転生者達と合同で訓練するから。」
「まじか」
俺は思いがけずそう独り言ちた。