河童(5)ミスラ君が笑う
同じく「ある阿呆の一生」内にあった「しみじみ生活的宦官に生まれた彼自身を軽蔑せずにはゐられなかつた」「幸福は苦痛を伴ひ、平和は倦怠を伴ふとすれば、――?」という言葉、また河童内にある「特別保護住民(〝私〟こと畢竟芥川は河童の国に於いてはこういう待遇であったのです。即ち衣食住を保証され働く必要がなかった)」などの羅列が意味深です。もちろん、彼が家族を養うためにもの書きをする、日々小説執筆をせねばばならなかった〝生活人〟であったことは事実でしたが、その反面で、師・夏目漱石に見入出されて以来小説家としてのトントン拍子、出世し行く様には目を見張るものがありました。またそれは、実家の新原家から母フクの発狂ゆえに伯父芥川道章の元へと養子に出されたのですが、由緒ある氏族であった同家のもとでスクスクと育ち、第一高等学校から帝大まで(もちろん本人が優秀であったが故ですが)こちらもトントン拍子で進んだことともダブります。
この人生模様はまさに順風満帆、快進撃の人生というような気もしますね。しかしこれはそのう…凡夫の当てずっぽう、勘繰りではあるのですが恰も魔術、悪魔が何かを目当てに芥川に与えた幸運だった…というような気もするのです。それはちょうど芥川の小説「魔術」でミスラ君が主人公に魔力を与えたことや、「黒衣聖母」における祖母の顛末などともダブるのですが…。
どういうことかと云うとちらも同じく芥川の「煙草と悪魔」内でチャボ(悪魔)が「この植物の名を当てたらこの(煙草)畑をお前にやろう。しかしもし(期日迄に)分からなかったらお前の魂をもらうぞ」と言明しているのですがそれに類することです。




