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凡人の鬱屈


 探索者になれば成功できると思っていた。

 スキルを獲得してダンジョンを攻略し、金も地位も名誉も手に入れられるのだと。そんな空想をしながら探索者育成学校へ入った。

 だがそんな夢もすぐに潰えた。

 入学後最初のダンジョンアタックでスキルを獲得すると、誰が凡人で誰が天に選ばれたのかが明確になったのだ。

 良いスキルを得た者は順調に攻略階層を伸ばしていき、それに伴ってスキルレベルも上がっていく。

 そうでない者は浅層で地道にスキルを育て、貯めたお金を装備に突っ込み、そうしてようやく一層、また一層と進むしかなかった。


 加瀬聡太が獲得したスキルは「身体強化」だ。

 シンプルで使い勝手が良さそうに思えるが、それが強力なスキルとなり得るかは強化の倍率に左右されるだろう。

 そして身体強化の倍率はスキルレベルに依存する。

 その結果加瀬は、レベル1の低い強化倍率では強い敵と戦えず、強い敵と戦えないからスキルレベルが上がらず、そしてスキルレベルが上がらないから強化倍率は低いまま、という悪循環に陥った。

 このスキルを生かすには武芸に秀でているか、安全マージンを捨てて格上に挑みスキルレベルを上げるという胆力がなければならないが、加瀬にはそのどちらもなかった。


 しかし、それを抜きにしても身体強化は評価の高いスキルではない。

 その原因は「派生スキル」にある。

 そもそも世間一般的に言われるスキル、すなわち初めてダンジョンに入った際に獲得できるスキルとは、むしろ「スキル群」という表現の方が正しい。

 それは、どのような系統の派生スキルを使えるようになるかを表すタグのようなもので、実際に能力として表出するのは派生スキルの方である。


 身体強化スキルのレベル1では、「身体能力上昇」という派生スキルが使え、レベル4になると「耐久力上昇」という派生スキルが使えるようになる、といったように。


 そして、身体能力上昇は身体強化以外のスキルからも派生するのだ。

 ゆえに、身体強化スキルは色々なスキルの下位互換として扱われる。


 しかし、それでも加瀬は少しずつスキルレベルを上げ、装備を更新し、その結果卒業後にはクランに就職することができた。

 当然、前線部隊などではなく、クランの基本収入を支える平アタッカーとしてではあったが、そこそこ大手のクランではあったのだ。

 加瀬は、クランから支給される装備の質の高さもあり、中層での活動ができていた。

 このままスキルレベルを上げられれば、いずれ自分も深層に潜れると、そんな希望すらあった。

 汚職の罪を着せられクランをクビになるその時までは。


 ダンジョン都市では、企業やクラン同士での争いも激しいが、内部での競争も相当なものだ。

 加瀬はその内部闘争の中で知らぬ間に誰かの身代わりにされ、退職させられたのだ。

 この街では、力のない者は奪われるだけだと、加瀬はその身をもって理解させられた。


 それらの出来事は加瀬からやる気も向上心も奪った。

 自分は身体強化というスキルを獲得してしまったあの日、弱者としての人生を確定させられたのだと。

 支給された装備も剥奪され、今では自分の実力で安全が確保できる浅層のみを探索している。

 他の職業の給与から考えれば高額な換金額は、見かけ上は探索者としての矜持を保っているが、装備の手入れや消耗品の補給を引くとぎりぎりの生活だ。

 それでも、今更探索者として以外の生き方を探すこともできず、あるいは昔探索者に見たその夢を捨てきれずに、今日も加瀬は死んだ目をしながらダンジョンの浅層に潜っていた。


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