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第一話【目覚めるとそこは】

 ――眩しい。


 (まぶた)の裏に差し込む光が、意識を無理やり浮上させてくる。


 「……ん、ここは……?」


 最初に声を上げたのはハルヤだった。草の上で寝転びながら、ぼんやりと青空を見上げている。


 俺もゆっくり身体を起こし、辺りを見回した。


 そこにあったのは、見慣れた大学の校舎でも、都会に立ち並ぶビルの景色でもない。


 青々とした草原が広がり、その真ん中を一本の畦道(あぜみち)が真っ直ぐに伸びていた。


 風が(ほお)を撫で、鳥の声が遠くから響いている。


 「……おいおい、なんだよこれ」


 混乱しつつ言葉を漏らすと、ハルヤが呑気に笑っていた。


 「へへっ、なーーんか夢みたいじゃね?」


 「夢……にしてはリアル過ぎるな」


 俺は思わず苦い声を返す。


 夢だと片付けるには、五感があまりにも鮮明過ぎたからだ。


 「ん……? ここ、どこ……?」

 少し離れたところでマナも目を覚まし、不安げに辺りを見渡していた。


 さっきまで大学にいたはずなのに、気がつけば自然豊かな草原のど真ん中。当然の反応だ。


 「なあなあカケル! こんな広いとこに来たんだ、ちょっとその辺ブラブラしに行こうぜ! ほら、あっちに森もあるしよ!!」


 ハルヤが勢いよく立ち上がったかと思えば、木々の生い茂る森を指差し、子どものような曇りなき笑顔を見せる。


 「バカ言え。ここがどこかも分からんのに、歩き回るなんてリスクが大き過ぎる」


 俺は即座に否定した。


 「いやいや、ジーッとしてたって何も始まんねぇだろ! こういう時はまず動くに限るって!」


 「下手に動いて遭難でもしてみろ! お前は本当に計画性ってものが――」


 「だあーーっもう計画計画って、口ばっかで動かない奴よりマシじゃんよ!!」


 俺とハルヤが言い合いになり、空気が一気に騒がしくなる。


 「ふ、二人とも喧嘩しないで!」


 慌ててマナが声を上げた。少し泣きそうな顔だ。


 そんな騒ぎの最中――。


 「……あの、大丈夫ですか?」


 俺たちは思わず振り返った。


 畦道(あぜみち)の先から、一人の青年が歩いてくる。俺たちと同い年ぐらいだろうか。


 男子にしてはやや明るい茶髪、その身に羽織(はお)るはゆったりとした黒のローブ、そして片手には買い物袋のようなものをぶら下げていた。


 「こんな場所で騒ぎ声が聞こえたから何かと思ったんだけど。旅人……? なわけないよね」


 「……あんたは?」


 「僕はマックス。マックス・ウィザード・カーディナル。魔術士(まじゅつし)をしてる。この先にある家に住んでるんだ」


 魔術士(まじゅつし)――?


 俺たちは思わず固まった。冗談のような肩書(かたがき)だが、彼の顔は真剣そのもの。


 「魔術士(まじゅつし)って……あんた、からかってるんじゃないだろうな」


 俺が睨むと、マックスと名乗った青年は軽く手をかざす。


 次の瞬間、(てのひら)の上に小さな火球が浮かび上がった。


 炎は宙に浮いたまま、ゆらゆらと踊っている。


 「うそ……だろ……?」


 俺は目を丸くした。


 物理法則を無視した現象。トリックでも手品でもない、紛れもない『魔法』がそこにあった。


 「すっ……すげぇぇぇぇ!!!」


 ハルヤが叫び、マナは完全に硬直している。


 「はは、まだまだ修行中だけどね。その、もしよければ、うちに来ない? 見たところ行く(あて)も無さそうだし、それに僕の祖母がちょっとした大魔道士(だいまどうし)でさ、君たちの話を聞きたがると思う」


 「……ちょ、ちょっと待て。話が出来過ぎてないか?」


 俺は即座に口を挟んだ。


 「なんで見ず知らずの俺たちを家にあげる? ……新手の宗教勧誘か何かじゃないだろうな」


 見知らぬ土地で倒れていた俺たちを助ける、自身を魔術士だと名乗る心優しき好青年。しかもミドルネームがウィザードって……。おまけに祖母が大魔道士(だいまどうし)で、話を聞きたがってると来た。ドラマとかなら、どう考えても“罠のパターン”だぞこりゃ。


 「警戒するのも分かるけど……害意はないよ。ほら、この通り」


 マックスは苦笑しながら答え、ローブのポケットや持っていた買い物袋に武器らしきものが無いことをアピールした。


 「こんな辺鄙(へんぴ)なところで困ってる人を見かけたんだから、見て見ぬフリなんて出来ないでしょ?」


 「……カケルくん、この人、悪い人じゃなさそうだし、そんなに疑わなくても……」


 そうマナに諭され、俺はハッとなってマックスに詫びる。


 結局、他に手も無かった俺たちは、仕方なく彼の後について行くことになった。


 ◇ ◇ ◇


 案内された民家で待っていたのは――若い女性にしか見えない人物だった。


 念入りに手入れされた長い茶髪、透明感のある白い肌。メガネを掛けてはいるが、マナにも負けず劣らずのスタイルに肩出しファッションと、その姿はどう見ても十七、十八歳くらいだ。


 「あら、初めまして。私はモア。マックスのおばあちゃん……って言ったら驚く?」


 「……は、はぁ?」


 “大魔道士(だいまどうし)”なんて(だい)それた肩書(かたがき)に見合わないその容姿とフランクな話し方に、俺は顔を引き()りながら声を漏らした。


 「こんな見た目だけど、本当は四百年以上生きてるの。まあ、細かいことは気にしないで」


 いや、それもはやツッコんで下さいって言ってるみたいなもんだろ、と俺は言い掛けたが、ここはぐっと(こら)えつつ、一方で彼女は柔らかく笑い、奥にある温かい雰囲気のリビングへと案内してくれた。


 俺たちが事情を説明すると、モアは真剣な顔になり、静かに言った。


 「なるほどね……。話を聞く限り、あなたたちも空間(くうかん)(ゆが)みに飲まれて、ここに来たんじゃないかしら」


 「く、空間(くうかん)の……(ゆが)み?」


 「そう。私もまだ、詳しいことは解明できていないのだけれど、異世界から異世界へと繋がる穴で、それに飲まれた人やら物やらが時々流れ着くのよ」


 実に信じ(がた)い話だが、目の前で手から出る炎を見せられた後では、どうも否定しきれない。


 「なんならマックスちゃんも、この前歪みに飲まれて異世界へ行っちゃったものね」


 「そんなこともあったね。僕の場合、目が覚めたら“ニホン”ってところだったけど、優しい人たちばかりで、あの時は本当に助けられたよ」


 サラッと聞き捨てならない過去が明かされたぞ。……でもその経験が()きて、俺たちに手を差し伸べてくれたワケなら、ここまで親身になってくれるのも合点(がてん)がいく。


 「あ、それと目からビーム出してる人なんかが居て、アレには驚いたなあ」


 おい待て。なんだその俺の知らない"日本”にまつわる情報は。特撮のCG(シージー)合成か何かのことだろうか……?


 「とまあ、もし望むなら、私が研究して“元の世界へ帰るための転移魔法”を(いち)から作ることも……できなくは無いでしょうけど、それには相当な時間が……」


 モアからの思わぬ申し出に、俺たち三人は一瞬黙り込んだ。


 「か、帰れるならっ――」


 マナが口を開きかけたが、それを(さえぎ)るようにハルヤが叫ぶ。


 「いや、俺は残る! せっかく異世界に来たんだぞ!? ここでしかできないことを全部楽しむに決まってる!!」


 「……はぁ、そう言うと思った」


 俺は(ひたい)に手を当てる。


 「ふふ。なら、私は止めはしないわ」


 呆れる俺を横目に、モアは楽しげに頷いた。


 「……でも私、ちょっと怖いよ」


 マナは不安げに視線を落とす。


 その様子を見て、俺は改めて尋ねた。


 「ここは……一体どういう世界なんだ?」


 モアとマックスの説明を受けた俺たちは、しばし言葉を失っていた。


 人々が剣や魔法を操り、モンスターが当たり前に存在する――まさに「ファンタジー世界」。


 「やっぱ最高じゃん! こんなの冒険一択だろ! なあ!!」


 ハルヤの目は輝き、勢い余って椅子を蹴りそうな調子で叫んでいた。


 「……お前さ、本気で言ってんのか?」


 俺は深く息を吐き、現実的な言葉を投げる。


 「言っとくが、ここは観光地でもテーマパークでも無いんだぞ。目が覚めたら、リュックどころか財布もスマホも無い。言葉が通じるだけ奇跡みたいなもんだ。宿も食事も、全部どうするつもりだよ」


 「……私だって分かってる」


 マナが震える声で小さく呟いた。


 「……でも、もし本当にここが異世界なら、私は……帰りたいかも。 ほら私、いつも何時に帰るのかちゃんと伝えてるのに、遅くなるって連絡もしてないから、お父さんとお母さん、きっと心配してるはず……!」


 焦りと不安が入り混じる発言、あのマナのことだ。親御さんに心配は掛けたく無いのだろう。


 ハルヤは頭を掻き、気まずそうに一瞬だけ押し黙ったが、すぐにいつもの調子で笑みを浮かべる。


 「ま、確かに親のことは気になるよな。でもさ、俺たちは来ちまったんだ。そりゃあこの先、何が待ってるのかも分かんねぇし、マナがビビってる理由も分かる。だからって、あるか無いか分からねぇ帰る方法のこと考えたり、ウジウジ悩んでても、ぶっちゃけ何も変わんねぇだろ?」


 と、マナの肩に手をポンと置き、続けた。


 「だったら俺たち、ここでしかできないことを目一杯(めいっぱい)楽しんで、たっくさん思い出作った方が……なんつーか、(とく)じゃね?」


 「ハルヤくん……」


 こんな状況にも(かかわ)らず、良くも悪くも前向きなハルヤの言葉に、後ろ向きな感情に包まれていたマナの表情が少し(ほころ)んだ。


 「……まったく。ポジティブさだけは筋金入りだな」


 俺はこいつの底抜けな明るさに呆れと同時に少しの安心感を覚え、軽く頭を左右に振る。


 そこで、ずっと話を聞いていたマックスが口を開いた。


 「だったら、手っ取り早くこの世界を体験できる方法があるよ」


 「……というと?」


 俺が警戒気味に問い返すと、彼は真っ直ぐこちらを見て言った。


 「冒険者(ぼうけんしゃ)になるんだ」


 「冒険者(ぼうけんしゃ)?」


 思わず俺は聞き返す。


 「ああ。冒険者は、依頼人から依頼を受けて、魔物の討伐や物資の運搬、人探しなんかを行う職業だよ。危険はあるけど、生活の(かて)を得ながら世界を知るには最適な方法じゃないかな」


 「……なるほどな」


 要は“なんでも屋”的な仕事か。まあ少なくとも、この世界に順応しながら日銭も稼げるってのは、何もせず路頭に迷うよりはマシと言える。


 俺が頭の中で情報を整理していると、マックスは続けた。


 「そして、そうした活動を支援するのが“冒険者ギルド”。依頼の斡旋(あっせん)や報酬の管理もやってくれるんだ。ここから少し歩いた街に、僕がいつもお世話になってるギルドがある。もしよかったら、明日の朝そこへ一緒に行こう」


 「おお!! 行く行く! 絶対行く!」


 マックスの話を聞くや否や、ハルヤは飛び跳ねて興奮していた。


 俺とマナは顔を見合わせる。


 元居た世界や両親に対する気掛かりが残るが、ここまで浮かれているハルヤには、少なくとも今は何を言っても無意味だろう、と。


 「今日はもう遅いし、泊まっていきなよ。良いよね、ばあば?」


 マックスが穏やかに言い、モアに確認を取ると、彼女はにこやかに付け加える。


 「もちろんよ。それにいろんなことが起こって、お腹空いてるでしょう? 異世界初日の夜くらい、安心して過ごしてちょうだい。ささ、お夕飯にしましょ」


 ――かくして俺たちは、否応なく“異世界生活”なるものに突入してしまったわけだ。不安で仕方ないマナと、浮かれまくってるハルヤ。俺はその間で頭を抱え、胃を痛めつつある。……こんなんで本当に大丈夫か?

【今回の新キャラクター】


名前:マックス・ウィザード・カーディナル

性別:男

年齢:20歳前後

職業:魔術士(修行中)

特徴:明るい茶髪、黒いローブ姿。お人好しな性格。

備考:草原で出会った青年。手のひらに火球を浮かべるなど、本物の魔法を操る。祖母である大魔道士モアと暮らしている。過去に「空間の歪み」に飲まれ、彼にとっての異世界である“日本”に漂着した経験がある。


名前:モア(フルネームは現時点では不明)

性別:女

年齢:実年齢400歳以上(外見は17〜18歳ほど)

職業:大魔道士

特徴:長い茶髪に眼鏡。若々しい美貌と落ち着いた雰囲気。

備考:マックスの祖母にして大魔道士。原因不明の謎の現象「空間の歪み」を研究しているらしい。もし時間を掛ければ、カケルたちを元の世界へ送り返す魔法も構築できるかもしれない。



【今回の新情報】


 ・異世界と異世界を繋ぐ「空間の歪み」という現象が存在する。

 ・カケルたちはその歪みに飲まれ、異世界へ漂着したらしい。

 ・冒険者という職業があり、魔物討伐や依頼をこなして生計を立てる。

 ・それを支援する組織が「冒険者ギルド」。マックスは既に登録済み。

 ・翌朝、カケルたちもギルドへ向かうことに決定。

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