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プロローグ【足元に気をつけてね】

 今日も一日が終わる。


 平穏に。


 何事もなく。


 いつも通りだ。


 正直言って退屈に感じる時もある。


 別に生きるのは〈苦〉じゃあない。


 生活は安定してるし、人間関係も悪くない。


 ただ何か、自分の知らないもの、未体験のもの……表現が難しいな。


 つまるところ、刺激に飢えているのだろう。


 いっそのことパーっと海外留学とかしてみてもいいのかもしれない。


 午後の講義も全て終え、すっかり黄昏時だ。疲れで重くなった身体と荷物の入ったリュックを携えて大学の正門まで足を運ぶ。


 「このレポート課題は今日中に終わらせるとして、明後日のテストに備えて予め……」


 スマホに目をやり、既にびっしりスケジュールの組まれたカレンダーアプリを確認する。見慣れた液晶画面だが、心なしか眩しく感じたので明るさを落とした。


 ――後ろから靴裏と地面が幾度もなく触れ合い、擦れる音がする。嵐か、台風か、はたまた愉快なお祭り騒ぎの体現者か。


 「カぁーケぇールっ!! 一人で帰るなんて寂しいことすんなよおー! てかこの後ヒマ!? 一緒にメシ行かね!?」


 桐嶋(きりしま)ハルヤ。端的に言って俺の〈幼馴染(おさななじみ)〉。昔から、良くも悪くも明るく無邪気なうえに、人から好かれる性格の持ち主で身体能力が無駄に高い。頭の方は……はっきり言うと良くはない。なんなら悪い。


 「行かねーよ。それにテスト期間も迫って……」


 この訳分からんのにダル絡みされている俺は大月(おおづき)カケル。ここ私立(しりつ)本願寺(ほんがんじ)大学(だいがく)の二年生だ。


 「えーーーーメシくらいいいじゃんかよーー。奢るからさ! な!!」


 「いや話聞けよ」


 とまあ、こんな感じのやり取りを、少なく見積もっても十年以上は続けている。


 ウンザリしないのかって?


 いい質問だが、これはこれで安心感を感じている自分がいる。


 ……()れって怖いな。


 「ふふ。二人とも相変わらず仲良いね」


 本願寺(ほんがんじ)マナ。ハルヤと同じく〈幼馴染(おさななじみ)〉。大学(ここ)の学長の娘で、少し天然だが容姿端麗(ようしたんれい)かつ成績優秀。学内でも狙ってる奴をチラホラ見かける。


 「お、マナ! 今からカケルとメシ行くとこなんだけど、どうせなら三人で行かね?」


 「おい話を勝手に進めるな。まだ俺は行くなんて一言も……」


 マナだってテスト期間中で今は忙しい時期のはず。ハルヤの誘いでもさすがに――


 「わーいいね! じゃあいつものとこ予約入れとく!」


 ――断らないのかよ。


 「ああ君たち、ちょっといいか」


 三人で集まって騒々しくしている俺たちに、学内でも古株のお爺ちゃん教授が声をかけてきた。


 「明日の講義に使いたい実験器具を取りに行きたいんだが、ちょっと腰痛がひどくてね……。悪いが、人助けと思って代わりに取りに行ってくれないか」


 要するに荷物運びの雑用か。相手もそれなりの高齢で更に訳アリ。普通に考えて断るわけにはいかないだろう。


 「もちろんいっすよ!! パっと行ってビューって帰って来ますんで!!」


 「お、おい! まだどこに置いてあるか聞いてないだろ」


 行動力があるのは良いが、話を最後まで聞かないのは玉にキズってやつだな。


 俺は器具の場所を聞かずに駆け出してしまったハルヤを引き留め、しっかり教授にその実験器具の置き場所を聞いた。


 「西校舎の三階の物置にある。一階の講義室まで運んでくれると助かるよ」


 俺と教授は互いに軽く頭を下げると、三人で西校舎まで向かった――


 ――西校舎はこの大学で最も古い校舎だ。いくつか蜘蛛の巣が確認できるものの、そこまでボロくは無い。せいぜい時々停電が起こるという噂を耳にするぐらいだ。


 今週末に点検を行うらしい……今の俺たちには関係のない話だな。


 さっさと済ませてレポート課題とテスト勉強に時間を割きたい。


 「これだな。よし、手分けして運ぶぞ」


 俺とハルヤが大きい段ボールを二〜三つほど持ち、器具の部品が入っていると思われる小さな箱をマナが持つことになった。


 「しっかしこれ重いなあー。一体何が入ってるんだ?」


 積み重なった段ボールを両手で抱え、ハルヤが尋ねてきた。


「分からん。俺も実験器具としか聞いていない」


 中身の詳細は不明なまま、俺もハルヤと同じくらいの量の段ボールを抱え、一階に繋がる階段へと向かう。


「二人とも大丈夫? どれか持つよ?」


 前を歩くマナがこちらを向き、面倒見の良い姉か子思いの母親の様に心配してくれた。


「平気平気!! このぐらい余裕だって!」


 段ボールのせいでハルヤの顔は見えなかったが、声色からして昔から変わらない陽気な笑顔を浮かべていたのだろう。


 実際、重いには重いが、数百メートル歩くのも厳しいほどではなかった。


 ――そんな他愛もないやり取りをしていると、俺たち三人は階段の前まで到着した。


「二人とも、足元に気をつけてね」


 先に階段を降りていくマナが、下から俺とハルヤを見守っている。


 万が一、ちょっとした衝撃で段ボールの中の実験器具が壊れたりしないよう、俺たちは細心の注意を払って階段を一段ずつ慎重に降りて――


「うわっ!!?」


「な、何……!?」


「停電か……?」


 ――いくつもりだったが、突如として西校舎の電気が一斉に消え、周囲は暗闇となり俺たちはあっという間に視界を奪われた。


 どうせ数秒程度の停電だ。


 慌てたり、焦る必要はない。


「え、おい……この段ボールどうすんってどわああああ!!」


「きゃあああああ!!」


「おまっ…………!!!」


 階段を降りる途中で停電が起きたせいか、ハルヤが足を踏み外し、転倒した影響で俺とマナもそれに巻き込まれる形で盛大に階段を転げ落ちた。


 おそらく意識を失ったのだろう。


 俺が覚えているのはそこまでだ。


 ――そして、俺たち三人は見知らぬ異世界で目を覚ますことになる。

【今回の新キャラクター】


名前:桐嶋(きりしま) ハルヤ

性別:男

年齢:20歳

特徴:サイドに流した前髪

職業:学生

備考:私立本願寺大学の二年生。快活で前向きな皆のムードメーカー的存在だが、よく問題を起こす。段ボールに入った荷物を運んでいたところ停電が起き、足を踏み外して階段から転げ落ちてしまったことで幼馴染のカケルとマナ共々亡き人となる。目覚めると異世界にいた。


名前:大月(おおづき) カケル

性別:男

年齢:20歳

職業:学生

特徴:右目を隠した長い前髪

備考:私立本願寺大学の二年生。ツッコミ役を担うクールな常識人で、ハルヤに世話を焼いている。段ボールに入った荷物を運んでいたところ停電が起き、足を踏み外したハルヤに巻き込まれる形で階段から転げ落ちてしまった。幼馴染のハルヤとマナ共々亡き人となる。目覚めると異世界にいた。


名前:本願寺(ほんがんじ) マナ

性別:女

年齢:20歳

職業:学生

特徴:白髪おさげ

備考:私立本願寺大学の二年生で大学長の御息女。温厚で面倒見が良い皆のまとめ役だが、少し天然。段ボールに入った荷物を運んでいたハルヤが停電の影響で階段から足を踏み外し、それに巻き込まれる形で階段から転げ落ちてしまった。幼馴染のハルヤとカケル共々亡き人となる。目覚めると異世界にいた。


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