7.引きこもり三者面談
「……びっ……くりしたー!」
「16年ぶりですねー」
「ふぅ――、は、はい」
あ、女神で思いだした。最初の女性化は誤解だったことずっと言いたかったけど、まあ今となってはもういいかな。
「…………」
「えっと…………?」
「現状確認と報告をしにきました。私を責めないんですか?誤解だったんですよね?」
「え!?……知って……?」
「はい、実は最近監査が入り、上司から叱られまして。それに性別くらいは無償で選ばせてあげろと」
監査!?上司いんの!?
「……あーその、そちらの業界も大変なようで。でも元々オレが伝えられなかったのもありますし……オレのせいですよ。(ヘラッ)」
なんかご機嫌取りみたいになってしまった。でもあれはオレのコミュ力のなさが招いた失態だ、うん。
「そうですか……。ところで、この世界楽しんでます?」
「え、うーん……どうでしょう。正直引きこもっていて、あまりわかりませんね。」
引きこもりですみません。正座で膝を突き合わせてそんな会話をする。何これ。現状確認ってオレの引きこもり確認ってこと?
「……そうですか。やはり引きこもりは転生時のアクシデントが原因でしょうか?」
え、引きこもりの理由言うの?
「ど、どうでしょうね。……結局同じことしていたかもしれませんし、はは」
「………………。」
なんだこの重苦しい空気は。そうか……わかったぞ。このイベントはもしや!
「あ、えっと、もしかして性別が無償化なら、またスキル選べるとかですか?」
ドキドキ。
「それは無理ですね」
ガーン!じゃあ一体何しに来たのこの人。
「(ん?おにいちゃんの部屋から独り言かな?そっと……)」
「あれは転生時のみの、天性のスキルに関わるものなのです。それに転生後は原則女神の力は干渉できなくて、ごめんなさい」
「あーいえいえ……オレのせいなので」
…………引き続き気まずい。
「あの、気にしないで下さい。このままでも大丈夫なんで。まあニートなんですが。前世と同じだし慣れてますしね。」
「……このまま、というと、強くなりたいのでは?」
「あ、ああ、そうですね。そのうちなんとかしようとは考えていました。」
「……はぁ。……そのうちですか」
とうとうため息付かれたよ!
「なんか、すみませんね」
「……しかし今は以前よりやる気出てそうですよね?」
なんかやけに絡みついてくるな。あ、これあれだ。家庭訪問。不登校児を登校させるために仕方なく来てる先生みたい。引きこもりのオレを外に出そうと、女神までもが出動してくるとは。死にたくなってきた。
「……あーそうかもしれませんが、まだ分かりません。約束はできないというか。」
体も重いし。放っといてくれないかな。めんどくさくなってきたな。早くおわんないかな。
「……やる気があるわけではないと?」
「……無いわけでもないですが、今すぐじゃないっていうか、明日になったら本気出す的な、はは!」
………………。
「…………ああ、もー!」
「ふぇ?」
うそ、キレた?
「めんどっくさぁぁ!なんでそんな後ろ向きかなぁ!?ねぇ。自分の人生少しは良くしようと思わない?そりゃ転生された人生あなたの自由だよ。転生のアクシデントも起きてふて腐れもわかるよ!しかしねもう16年だよ。前世の記憶もったうえでの+16年!それだけでもアドバンテージ。色々やり直せたでしょ?もうちょっとこの第二の世界楽しんでみようとか少しは無いかなぁ?前世と同じことして引きこもって、後ろ向き過ぎない!?自分の人生軽視し過ぎじゃない!?転生なめてないー!?…………ハァハァ」
…………なんかすげー怒られたー!(ガビーン)
……はい。その通り正論です。
「すみませ……」
バンッ!急にドアが開く。
「ちょっと……何、あなたが女神さま?」
「え、リア……!聞いてたのか」
「女神だっていうから黙ってきいてれば。勝手なことを」
あれ?リアさん、なんかめっちゃ怒ってます?
「あなたにおにいちゃんの何が分かる!?おにいちゃんにはおにいちゃんのペースがあるの。良さだっていっぱいある。私のおにいちゃんは優しくて頭も良くて色んなゲームすぐにクリア出来て、たまにキモいけど、きれいで、優しくてかっこいいんだから!昨日だって心配して来てくれて守ってくれて優しくて!おにいちゃんの事情とかペースがあるの!邪魔しないで!!…………ハァハァ……」
……………………。
リア……優しくてが多いな。あとたまにキモいって思ってたのか。
「……う、ぐすっぐすっ」
…………リア泣いちゃった。修羅場感やば……。何これオレの引きこもりが原因で争うのはやめてくれ。居た堪れない。
「ああ……やってしまった……ごめんなさい!私が悪かったです。私としたことが、こちらの事情だけで、怒りをぶつけてしまいましたね。……はぁ。あなた方のペースがあるのにも関わらず……干渉してしまいました……女神として失格です」
「いや……その……事情?」
「……アニーさん、妹さんに大切にされてるんですね」
「……それはそうかもです」
「リアさん、ごめんなさい。あなたのおにいさんにひどいことを」
「グス……いえ、兄の事情も分かって頂ければ。こちらこそ取り乱しちゃってごめんなさい。たまにキモいのはその通りです グスッ」
「女神さんはキモいとは一言も言ってないからね!?」
ふぅ、よかった、リア、切り替え早いな。オレはリアにヨシヨシする。
「……分かりました。これにて現状確認を終わりとします。用件を言いますね。じつは、アニーさん、あなたに少し幸運になるスキルを与えることが出来ます。取り乱しはしましたが、そのための女神の審査でした。」
「ふぇ?」
審査だったのか。どうりで家庭訪問かと。
「……あれ、原則干渉できないんじゃ」
「ええ。流石にスキル選択の自由も何もないのですが。こちらの転生時の落ち度も半分はありますし、やや例外的ですが。ちょっとした願掛けくらいに思って頂ければ。なので過信は禁物です。」
「いえ、無いよりはすごくありがたい、です!」
「…………女神の幸運は」
「……?」
「前進している運命を助けるものです。悪や堕落、ネガティブな運命には、授けられない決まりがあるのです」
「ああ、なるほど……だからこその審査。オレはその点セーフ……なのですか」
「……まあアウト寄りでしたが、近しい者からの想いのの強さ、そして先日の勇気ある行動、これが運命を前に向けたと見て良いでしょう。合格ですよ。リスクが無ければリターンもないように、また前を向いてないと幸運もこちらを向いてくれないのです。……今更女神っぽく取り繕うのもあれですが……はぁ」
「はは……」
「……ふふ、では私はこれで。あなた方に幸運がありますように」
「……あ、あの!妹がすみません。オレを思ってのことで、で女神さんも、その、不甲斐ないオレのために言ってくれたかもしれないというか……」
「……おにいちゃん……」
「……!(ふふ)……いえ、妹さんが正しいですよ。私は八つ当たりの押し付けでしたから。でも、ありがとう」
「あ、はい……」
女神が消えていく……。
「ユニークスキル【ジンクス】とお呼びください」
消えた。
「ユニークスキル、ジンクス……」
「は〜……、今更だけど女神様初めて見たよ。とにかく良かったねおにいちゃん」
「うむ」
――――上空。
「……はぁ。あんまりネガティブだったから、これじゃあげられないってつい、素が出ちゃったなぁ……反省。運にも限度があるしね。でも、あんなに想われてるんなら、大丈夫でしょ!久しぶりにビリビリきたぁ」