1.転生
カチカチ、カチ(マウス音)
暗い密閉された部屋。ここは転生後の異世界。その無表情の女性の眼には、プレイ中のゲーム画面が映っている。
――――遡ること16年前の転生時、女神の空間。
「あの……すみません。もうちょっとだけ考えてていいでしゅか?」
「(でしゅ?)……はい。もちろんですよ。(ニコッ)(でも、早めに決めてほしいなぁ。)」ヒマヒマ
噛んだ!そろそろ気まずいし。早く考えないと……。タマシイ姿のオレは、女神のいる謎空間で1時間ほどスキルについて考え込んでいた。
「あーでもないこーでもない……ブツブツ」
生まれ持つことのできるスキルは1つ。第二の人生、ここは慎重に決めるべき。定番のチート級の能力?もちろんそれも考えたが……オレは前世を思い出す。
前世であんなにやってた、いわば異世界シミュレーションである、MNORPGでの生活は、どんな感じだったか?そう、ひたすらソロプレイ。たとえチート級の能力を頂いても、結局ソロで過ごすのは必然。異世界でちやほやされる輩は、コミュ力がある前提なのだよ。
「クックック」
「(なんか、笑ってる……?ゾクッ)」
たとえ、力があってもコミュ障はな、1人で冒険して、1人で魔王倒して、そして誰にも気づいてもらえず1人でひっそり孤独死なのだ。
仮にチート級能力を得た場合を想像してみよう……
例えば、ギルド。冒険はここからはじまる。言うまでもなく当然のことだが、コミュ障にはPパーティ募集できない。あとなぜか誘われない(陰キャオーラか?)。結果、冒険では、黙々ソロ。
魔王に至っては「勇者よ。貴様、我に対して1人か?クックック笑わせるな。見え透いた陽動だな。全員でかかってくるがよい!」(ソロ)
凱旋時は、衛兵に「1人で魔王を倒した?証人は?お仲間とか。えっと、PT募集ならそこですよ?がんばってくださいね!」(→帰宅)
そして平和は訪れ数年後、自宅にて「あれ、オレ本当に魔王倒したんだっけ?なんか暇だなぁ。あ、チート級の早さでお湯沸かそ」(死んだ目)
「いひやあああぁぁぁぁぁぁぁあ!」(悲痛な叫び)
「ビクゥッ!(……びっくりしたー。もう!なんかヤバい人なのかなぁ)」
ハァハァ……あ、あぶない。前世のトラウマ再来的な未来想像に意識が刈り取られるところだった。つまりだ……。異世界ライフを幸せにするのは、もはや力の強さではない。
ずばり、最高のコミュ力!まあ、最終的には異性の?女の子ともパーティを組める、最高レベルのコミュ力。これ……!総合的にこれが攻守最強!第二の人生はこれ……!強さなんか要らない!これだー!ハァハァ……!
「……き、決まりましたか?」オズオズ
「あ、はい」
コホン
「あの、異性……おん、女の子ドゥフとごにょごにょ///(照」←徐々に小声で聞き取りづらい。
「(……うわぁ、なんかこの人キモイなぁ)」
うはぁ……これは恥ずかしい!よくよく考えたらコミュ力欲しいとか、低レベル過ぎだし、オレの考えた異世界ライフ戦略も説明すべき?いや聞きたくないだろ。ああ、しかもコミュ障であることがばれてしまったかもな!
「えっと、女性になりたい、と?」
「は、はひ!………ん?なん、い、今なんて」
「わかりました!ではさっそく!」
神々しい光があたりを満たす。
「えっ、うぇ、もう? ちょま ちがぁぁぁぁ」
「(ふふ。スキルよりも、女性として生まれてみたいだなんて。第二の人生それもいいじゃありませんか。がんばってくださいね……遠い目)」←もう聞こえてない。
ぁぁぁ…………。(フェードアウト)
「転生処理完了!…………最後なんか言おうとしてたかな?気のせいかな。ともあれ、あなたの転生に幸運がありますように。」