【第8話】—押し売り専門店—
月曜の朝と言えば誰もが、いや大体の人が憂鬱になる瞬間である。
よって俺は憂鬱である。Q.E.D.
俺が憂鬱な理由。それは3日前に遡る。
あの金曜の夕方、早速押し売りがやって来た。
「どうも押し売りです」
朝に会った挨拶活動(略してアイ〇ツ)の先輩だった。その実態は警備である。
「すっげぇ分かりやすいな」
思わず素が出た。
「よく住所分かりましたね。凄いですね。帰ってください」
ドアノブを引いた。
「まぁまぁ。そう言わずに」
ドアが閉まる直前に靴を挟んできた。
「……」
ドアノブを強めに引いた。
「ちょっと?何してるの?閉める力が強いんだけど?痛い!痛いから!痛いって!痛い!」
先輩は挟んだ足を抜いた。
「まぁとりあえず投函しとくねー。お代はゼロ円」
と言って立ち去った。
「要くんの所に行ってるねー」
という言葉を聞き、俺はドアを開けた。
「先輩」
既にいなかった。要の家って確か警備員居たからシバかれる気がするんだけど。
5分後、要から電話が掛かってきた。
『あのさ、朝に会った先輩居るじゃん?』
「うん」
『家の前で、どうも押し売りです、って言って警備員に捕まってんだけど』
「うん」
『これヤバい奴?』
「大丈夫、お代はゼロ円だから」
『理由になって無いんよ』
「とりあえず荷物は受け取るように言っとけ」
『おけー』
「あ、でもお前が受け取った方が良い」
『りょ~』
ブツッ
電話が切れた。
先輩。ご愁傷様です。
そうだ、さっきの荷物。
郵便受けには茶色い小包が入っていた。手に取ってみたら思ったより重い。
ガサゴソと小包を開ける。
中には段ボール製の小箱と、ケースに仕舞われたナイフ、それに『月曜にこの二つを持って行ってください』と書かれたメモ用紙が入っていた。
小箱を開けた。拳銃とそのマガジンが入っていた。
「エアガン?」
マガジンの底のガスを注入する穴が無い。それに、マガジンのフィード(それとも口?)を見る限りだと、どうもこれはガチの奴らしい。
という事があって、今日どうやって持っていくか。悩んでいるわけで。
月曜の朝に考え事はしたくない。単純で居たい。つまり憂鬱|(???)、と言うのが早いだろうか。
普通に堂々と持って行ったらアウトだし。かといって隠す場所も無いし。
ピロリロリロリロリン♪
要からチャットが来た。
“アタッシュケースで良いって”
15年先の会長の『水が入って来ると穴は一気に裂け~』という言葉を思い出した。
なぁ。穴、出来てないか?
「ありがたいが怖いぞお前」
“だって同じ事で悩んでるし”
“でアタッシュケースがどこにあると?”
一家に一つ、アタッシュケース。そんな時代は来て欲しくないものである。
“そっち寄るからその時に渡すが”
「遅刻するだろ……」
時折ツッコミを入れながら返信する。
すると正面からドヤられた。
“5時半起きだが何か?”
すかさず返信を入れた。
“5時起きだが何か?”
現在時刻:6時
「んでさ」
“何?”
「おぉ怖っ」
少なくとも盗聴器はありそうだ。
「その情報何処で知った?」
“モモちゃんから聞いたよー”
「誰?」
“そうそう、モモちゃん優しくてねー”
「だから誰?」
“ほんとそれな。金曜なんてさ、困ったなら連絡してください、って連絡先くれたんだよねー”
「だからそれが誰なのかって聞いてんだろうが!」
“そっか朝日陰キャだもんね……連絡先すら聞いてないよね……”
「おい字面で哀れむな」
“ごめんね。もしかしたら話が嚙み合ってないかも”
「聞こえてないのかよ」
“桃音ちゃんって知ってる?”
多分聞こえてないですわこれ。
“城山桃音ちゃん。一番前の列の真面目で大人しい子。その子”
“いるな。で?”
“ウッソ。気付かない?昨日門番してた子”
“あぁ。知ってたぞ”
“絶対気付いてなかったろ。極刑”
はて。俺はとっくに気付いてたが?
なお、遅刻はしなかった。
Later……
「それを貸してください」
俺は校門の目の前で引き留められた。
「今日は担当違うんだな」
「関係ありません。荷物検査です。貸してください」
女子部員(ここではBと名付ける)にアタッシュケースを渡した。
小さくアタッシュケースを開けた。
「……」
一瞬視線が刺さる。俺は唾を呑んだ。
そして視線を戻し、アタッシュケースを閉めた。
「OKです」
今日の放課後、演習かぁ……
寝たかったな。
Later……
「……来てください」
放課後になるや否や、目の前の少女、《城山桃音》に、俺と要は二人してどこかに連れていかれた。
「……アタッシュケースも持ってください」
廊下を歩きながら、桃音(※の外見)を分析した。
ショート?ボブ?の黒髪。これに落ち着いた雰囲気が意外と合う。
俯き気味で身長も小さめ。更には前髪も長めなので顔がよく見えないが、多分顔立ちもいい。顔のラインがそう言ってる。
所謂隠れ美人的な奴だろうか。その思考が俺の好奇心を掻き立てる。
「あのさ」
「……はい」
こちら側を振り向き、見上げられた。
口。鼻。標準以上に整っている。切れ長の目。細い眉毛に強い感情は無い。だがそれが良く、落ち着いた雰囲気が強調される。前髪は一部切り揃えられていて、真面目な雰囲気も漂う。キチッと整えた制服が誰よりも似合うだろう。そして場違いな程な桃色の瞳に愛嬌がある。ピンクではなく、桃色である。若干下がり眉なのも庇護欲が刺激されて良い。
「急がなくて良いのか?」
適当に、思っても無いことを言う。
「……最初は顧問と会って、それから部室の案内をするので」
と言ってスタスタと歩き出した。
変な質問にも真面目に答えてくれたことで俺の罪悪感が刺激された。
すると隣の要に肘を当てられた。
「(ん?どうした?)」
「(オイオイわざとらしいにも程があるぞ)」
「(ご尊顔を拝めたし良いじゃないか)」
「(うーん否定はしない)」
桃音は校長室の前で立ち止まり、ノックした。
「失礼します」
中には男性が居た。この人が現会長という事らしい。やはりと言うか、知らない顔だった。
「二人が例の新入部員だな?」
肘をつき、胸の前で指を組んでいる。
「「はい」」
男性の威厳と気迫に押し潰されそうになる。
部屋には独特の緊張感が漂う。
「……あの」
「何だい?桃音君」
「……会長ってキザなんですね」
「「⁉」」
場の空気が凍り付いた。
「(モモちゃん⁉何言ってるの⁉)」
要が桃音を嗜める。男性は組んだ指を解き、ため息を吐いた。
「ハァ……桃音さん。初対面の相手には格好良く在りたいじゃないですか」
「「誰⁉」」
10秒間で築き上げた尊厳がたった一瞬の内に崩れ落ちた。
「お二人さん。……出来れば触れないで欲しいですね」
「あっ、はい。会長」
要は反射的に頷いた。
「それで、桃音さん。何故ここに?何かがあって来たんですよね?」
「……入部したらまずは顧問と会うものではないのですか?」
「急に来られて驚きましたよ。誰かが来たと思ったら新入部員のお二人さんだったとは」
ん?待てよ?
「あれ?という事は」
校長室にいる時いつもあの座り方で居るのか。
「出来れば触れないで欲しいですね」
二度目の切実なお願いだった。
「質問です」
「答えましょう。人が入って来た時にある意味、話のネタとして使えますからね」
「⁉」
心を読まれた……?
「答えましょう。タネはこれです」
そう言ってジャケットのポケットからUSBメモリを取り出した。
見覚えのある黒の長方形に、銀色のラインが入っている。
「それは……!」
「現在うちで生産されてるUSBです。少なくとも15年経っても廃れていないようですね」
そうして、顧問との顔合わせが終了した。
Change perspective……
その日の帰り道。駅から出て、路地に入ったところだった。
後ろから肩を叩かれた。
「……?」
振り向くと、高校3年生位の男子が居た。
「ちょっと来て」
あたしは逃げ出した。
走り出す直前に、意識を狩られた。
Change perspective……
「……旭さん。緊急事態です」
要は今日学校に来ていない。
「……要さんが誘拐されました」
投稿した直後ですがそこの読者様。
寝ましょう。遅いです。多分私もう寝てます。
寝たくない読者様。牛乳を飲みましょう。喉が渇きました。
楽しんで頂けたなら幸いです。
私は年中寝ています。
おやすみなさい。