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夜会 (1)

 話が違う。

 『ある物』を見つけてしまったマリーは、再会を喜ぶ友人たちを笑顔でかわしつつテラスへと逃げ込んだ。


***


 久々に足を踏み入れた社交の場は、相変わらず喧噪に満ちていた。

 いくつも吊るされたシャンデリアの眩しさに思わず手をかざしつつ、マリーは大広間を進んでいく。

 化粧と香水、虚栄と野心の混ざり合う独特の空気。

 数ヶ月前には友だったその熱気が、今は圧迫するかのようにマリーを包む。

 特徴的な紫水晶の瞳が姿を見せると、一瞬静まった招待客たちがさわさわと噂話を始めた。


 ──何故、しばらく夜会に姿を見せなかったのか。


 ──かつての名家の娘は、両親を喪ってどうしているのか。


 ──社交の場に舞い戻ったのは、婿探しのためだろうか。


 内容は大方こんな所だろう。

 扇子の影から小声を交わし合う婦人たちに苛立つが、以前には自分もああしていたのだと自覚し、自己嫌悪に似た感情を覚える。

 決心を固めて来たにも関わらず、思わず大きくため息しそうになったとき、


「まあ、マリー! 今までどこに?」


 そんな声を筆頭に、周囲にぞろぞろと人が集まってきた。


「お久しぶりですミュートス嬢。ご機嫌いかがですか」

「レイデンの華、ローズマリー・ミュートスがいない夜会は退屈でしたわ」

「ローズマリーさん、ぜひ私と一曲」


 覚えていてくれたのだ。

 マリーがふさぎ込み、閉じこもりきりだった間にも夜会は幾度もあっただろうに。

 それが単にミュートスという名のもたらしたものであったとしても、マリーは嬉しかった。

 友人たちに笑顔と挨拶を返して、そのまま歓談に興じようとしたその時、『ある物』を見つけたマリーの表情が凍りついた。


「ねえ、マリー」

「ごめんなさい、久しぶりの華やかしさに酔ったようです……また後ほど」


 残念そうに肩を落とす友人たちをあとに、ローズマリーは何かを恐れるようにテラスへと逃げ込んだ。

 華やかな音楽に包まれた大広間とは違い、かすかな音色と月の光のみが差し込むテラス。

 喧噪から離れ、マリーはようやく一息ついた。

 話が違う。

 叔父の話では軍属のいない、ごく小規模な夜会ということだった。

 それがどうだ。見知った顔の元貴族にとどまらず高名な音楽家、果ては新聞などでしか姿を見たことのない政府要人までいる。

 そして。


「何故クローネの軍人がいるのですか……!」


 亡き母が知れば卒倒しそうだが、マリーはぎりっと爪を噛んだ。

 大広間に点々とその姿を見せている、黒い軍服を睨みつけて。

 そう、年齢や位階の違いこそあれ、彼らは皆クローネの軍人だった。

 マリーにとっては直接的、間接的に両親を奪った死神にも等しい存在。

 アンソニーがこのことを知っていたかどうかは定かでないが、今となっては叔父の優しさが恨めしかった。


 ふ、と息を吐き出すと、そろそろ冷え始めた空気がそれを白く染める。

 これからどうしようか。友人たちの事を考えれば、いつまでもテラスにはいられまい。

 かと言って、大広間に出て黒い軍装の者に声をかけられて冷静に対応出来る自信もない。

 いつかの夜会で紫水晶と形容された目に、うっすら涙の膜が張りそうになり、慌てて首を振る。

 泣いてはいけない、ちゃんと決意してここに来たのだから。

 軽く両頬を叩いて広間に戻ろうとした時、マリーの背後から声がかけられた。


「失礼。レイデンの華、ローズマリー・ミュートス嬢とお見受けします」

「きゃっ?!」


 突然のことで、思わず悲鳴を上げた。

 恥ずかしさでうっすらと頬を染めつつ振り向くと、声の主の端正な顔立ちが月光に照らし出される。

 黒い軍服に身を包んだ銀髪の青年が、マリーに微笑みかけていた。

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6/25 お礼閑話更新しました。(一種類)
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