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翌日、ココさんがいなくなった事で騒ぎになるかもしれない、と覚悟をしながらティナ様とシュゼット様のお部屋へ向かった。
お部屋へ着くとコリンヌさんからシュゼット様は今日は寝室からお出になられないかもしれません、と告げられた。
「昨夜、シュゼット様の愛猫のココが亡くなりました」
まぁっ! とティナ様が手で口を覆い驚きと悲しみのポーズを取る。
私は一言お気の毒でございます……と言いコリンヌさんに何か聞かれるかと身構えたけれど何もいわれなかった。
シュゼット様が昨夜亡くなっているココさんを発見して使用人の誰かに埋葬させたと言っていたらしい。
気が動転していて誰に頼んだかも覚えていない……と。
もっと取り調べのごとく追及されるかと覚悟をしていたけれど、シュゼット様は私の事も守ってくれたらしい。
やっぱりいいコだ。
意外とあっさりとこの話が終わった事には訳があった。
コリンヌさんはそれどころではないらしい。
私がまだシュゼット様とココさんの事を考えているとコリンヌさんが話し出した。
「ミランダメイド長にもこれからお伝えしますが、約1ヶ月後リアザイア王国の王子様方がザイダイバ王国へいらっしゃいます。滞在は最短で2ヵ月、長くて3月程を予定しているそうです。その間騎士団の合同演習も予定しているとのことです」
へぇ――リアザイア王国の王子様方がねぇ…………
!? リアザイア……?
ティナ様が私を押し退けてコリンヌさんに聞く。
「リアザイア王国の王子様方ということは三兄弟皆様いらっしゃると言うことですか!?」
「そのようです。合同演習もあるので多くの騎士様方もいらっしゃるそうです」
きゃぁ―――――!! とティナ様大喜び。
はしたないですよ。と諌めるコリンヌさん。
もうシュゼット様の悲しみもココさんの死を悼む気持ちもどこかへいってしまったよう。なんだかなぁ……
「このような長期の滞在については通常少なくとも半年前までには先触れを頂けるものなのですが今回は何か手違いがあったのか……こちら側の準備は最低限でいいと言って下さっているようですが……そういう訳にもいかないでしょうし……」
コリンヌさんはため息をつき一番大変なのはお城でお勤めの方々でしょうが……
「私達もこれから忙しくなりますよ。お茶会に夜会に舞踏会、リアザイア王国一行がご滞在中は公爵家としてもやることがたくさんあります」
やっぱりリアザイア王国って言ってるよね……おかしいな? 毎週土曜日に会っているのにそんなこと一言も言っていなかったけど……
「コリンヌ様、私も参加できるのですか?」
「もちろんです。シュゼット様付きメイドではありますが貴方も貴族ですからね。シュゼット様のお側に付いても恥ずかしくないようきちんとドレスで参加しなさい。ノアは……どうするかシュゼット様とミランダメイド長と相談します。メイドの中で爵位のある方に変わっていただく事になるかもしれません」
かしこまりました、と私がいうとコリンヌさんは頷きお部屋を出ていった。
寝室にはシュゼット様がこもっているので、私達……私は応接室とココさんが寝ていたお部屋の掃除をする事にした。
いつもの通りティナ様はソファーに座りお喋りをしている。
「1ヶ月後なんて時間が足りないわ、もちろん常に美しさに磨きをかけてきたけれどそれに見合うドレスを1ヶ月……いえ、遅くとも3週間で作ってもらわなくてはいけないわ。今日お城から貴族の元へお知らせがいくはずだから仕立屋を押さえておかないと。何着必要かしら、とりあえず作ってもらうのは最低でも5着? 2ヵ月の長期となると20着は必要かしら」
何でそうなる!? 今まで作ってもらったのもあるのでは……こんな考えのご令嬢が一体何人いるのか……
これは仕立屋さんこれからデスマ――…………可哀想に……
それからティナ様は動物が死んでいた部屋なんて絶対にイヤッといってココさんのお部屋には入ってくれず、掃除は一人で済ませた。
その日はシュゼット様がお部屋にこもっていたのでティナ様と私のお仕事は早く終わった。
ティナ様は仕事が終わるとすぐにドレスを作らなきゃ、あとお買い物もしなきゃ、と出ていってしまった。
貴族も大変……いや、この場合は彼女に付き合わされる周りの方々が大変なのか……
私は山の家に帰ってココさんの様子を見に行く。
カゴの中を覗くと三毛猫さんも仲良く一緒に丸まっていた。可愛い。
三毛猫さんが私に気づき起き上がるとココさんも目を開けた。
良かった。お昼に一度帰った時は寝ていたから……今朝よりも元気そう。
何か食べるものを持って来ようと思いキッチンへ移動すると家のドアが開いてオリバーが入ってきた。
だから反射的に言ってしまった。
「お帰りなさい、オリバー」
オリバーが一瞬驚いた顔をしてから照れたように笑い
「ただいま、トーカ」
と嬉しそうに微笑む。可愛い。
なんか……新婚さんみたい……なんて思ってしまうと顔が赤くなるから思わないっ。……顔が熱いっ。
「ご、ご飯食べる?」
ダメだ……意識したらよけいそれっぽい事を言ってしまう。
「あ、先にお風呂がいいかな」
止まれ私の口。
オリバーをみると……赤くなっている。ごめんっ!
コホン、と仕切り直し
「オリバーもココさんの様子を見てくれていたんだよね。ありがとう」
「あぁ、今日はノシュカト殿下の手伝いで庭と温室の方へ行っていたから時々様子を見に行ったよ。ミケネコサンが付きっきりだしトーカが用意してくれていた食事も何度かに分けてだけれど全て食べられたようだ。徐々に体力も回復していくだろう」
「そっか、良かったぁ」
オリバーも微笑む。
「トーカ、お風呂は着替えがないからまた今度にするよ。ありがとう」
ソウダネ。
「夕食は一緒に食べてもいいだろうか」
もちろんです。
とりあえずココさんにご飯を食べてもらおう。様子を見ながら少しずつあげると食べてくれた。
そっと撫でると気持ち良さそうに目を細めている。可愛い。
しばらくそうしているとココさんがまたスヤスヤと眠りについたのでそっと部屋を出る。
それからオリバーに庭にグリアがいるから一緒に乗らないかと誘われたので庭に出る。すると私の姿を見てグリアがパカパカと駆けてきた。可愛すぎ。
可愛いねぇ可愛いねぇと撫でているとグリアも甘えてくる。フフフッ
オリバーと一緒にグリアに乗せてもらい庭をパカパカと歩く。
グリアは大きいから背中に乗ると視線が高くなって気持ちいい。
2人乗りのこの距離感にもだいぶ慣れた……ということにしておきたい。
グリアのたてがみを撫でていると後ろから頭を撫でられた気がした。
ん? と振り向くとオリバーの優しい微笑み。
「トーカも可愛い」
うっ…………顔が熱いっ……
オリバーの大きな手が私の髪から耳に指を滑らせ優しく頬に触れる。
くすぐったいようなゾクゾクするような……ピクッと反応してしまい恥ずかしくなり前を向く私の頭にオリバーがキスをした……ような気がした。
していないかもしれないし、ただぶつかっただけかもしれない。なんせ見えないから。
私も動物は可愛いからすぐ触りたくなるしチュッとしたくなるけれど人間はさすがに可愛くてもすぐには触らないしチュッとはしない……と思う。
教えた方がいいのかなぁ……でもオリバーって常識人っぽいし……こっちのスキンシップが元の世界より激しめだから私の方がアレなのかなぁ。
頭を撫でられながらそんなことを考えているといつの間にか家の前に着いていた。
オリバーが先にグリアから降りると髪に葉っぱが付いているのが見えたから手を伸ばすとオリバーが頭を差し出してきた。
葉っぱは取れたけれど…………オリバーが動かない……
そっとオリバーの髪に触れ、撫でてみるとやっぱり触り心地がいい。これは……と思いつい両手でワシャワシャと撫でると髪が乱れてワイルドな感じになってしまった。
いつもきっちりしているのに寝起きとかこんな感じなのかなぁ……とか思ってしまうと何かエ……ロ…………いけないものを見てしまったような気がしてそっと髪を元通りに整える。
オリバーも満足したらしく私をグリアから降ろしてくれた。
それから一緒に夕食を食べて外のゲートを使ってオリバーとグリアは帰っていった。
あ、ザイダイバに行く予定があるか聞くの忘れた……
まぁどちらにしろ土曜日に会うからその時に聞いてみよう。
それから私はココさんの様子を見ながら明日レオンに報告する事を考えていたらいつの間にか眠ってしまっていた。




