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その日の夜8時頃、レオンのいる宿へ向かうと宿の前にレオンが立っていた。
白シャツに黒いパンツとシンプルだけれどスタイルのよさもありカッコイイ。
そして……数人の女の子に囲まれている……これは声をかけてもいいのかな……?
迷っているとレオンが私に気が付いた。
ごめんね、とか、また今度、とか言いながら女の子達を解散させてからこちらへきた。
慣れているな。たぶん私が女の子達に敵意を持たれないようにしたんだよね。
「今晩はノア、先週はすまなかったね。手紙をみたよ、ありがとう」
「今晩はレオン。こちらこそごめんね、お手紙もありがとう。まだ報告することもそんなにないし、私に構わず女の子達とご飯を食べに行ってもいいよ」
金曜日の夜でもいいし。と思ってそう言ったのに
「ヤキモチかな? 嬉しいよ」
ニコリと笑い私の髪に触れながら言うレオン。
からかわれている……私も成長しているのだよ。
それくらいわかる。
「そんなこと言ったって許さないからっ」
ツンッとそっぽを向く。
からかい返してやるわ。焦るがいい。
「ノア、わかっているだろう?」
私の髪を長い指ですきながら
「俺の気持ち」
真剣な表情で後頭部に手を添えられる。
うろたえる私。
ね? と近づいてくるレオンの顔。
耐えられずしゃがみ込む私。
「フッ……ククク……そんな避けられ方初めてだよ」
笑われる私。
む、無理だった。レオンをからかうのはまだ早いみたい。
よいしょと立ち上がり、悪ふざけはここまでにして、どこでご飯を食べようかと言うと、個室のあるお店があるからそこへ行こうと言われた。
個室……? ドレスコードとか大丈夫かな? と思っていると、個室があるといってもカジュアルなお店だから安心してと教えてくれた。
お店に着くと確かにお客さんはお洒落をしているけれどそこまできっちりとした格好ではなかった。
感じのいい店員さんに個室へ案内された。
席に着き料理が運ばれて来るとレオンが話し始めた。
「ベルダッド家の様子はどうだい? 何か変わった事はあったかな」
「変わった事……というかベルダッド家は階級にこだわりが強い方々なの?」
「そんなことは無いはずだよ。平民でもメイドや執事での採用もあるみたいだしね。何かあったのか?」
確かに平民もいる。ということはベルダッド家と言うより使用人の間での事なのかな。
「大したことじゃないよ。それよりシュゼット様にお会いしたんだけれど、レオンはシュゼット様がどんな方か知っているの?」
少し考えてから
「ノア、君に先入観を与えたくないんだ。すまないがこのまま続けてくれるかな」
それじゃぁと
「シュゼット様がネコを飼っているのは知っている?」
少しだけレオンの表情が動く。
「あの部屋へ入れてもらえたのか?」
知っているんだ。
「どうしてあんなに弱っているの? 獣医さんにはみせているのかな?」
「あのネコは……おそらく病気ではないよ」
なるほど、レオンも確証がないのか。
「シュゼット様の侍女のコリンヌさんのことは知っている?」
「あぁ、数ヶ月前に入って優秀な方だとか……」
こちらも知ってはいるけれど言葉を濁している感じ。
「国王陛下の従者の方はどんな方ですか?」
「どうして?」
「コリンヌさんがその従者の方から聞いたという陛下のご様子を使用人用の食堂の噂話で聞いたのだけど、私は以前使用人には守秘義務があると教えられていたからそんなことあるのかなって」
「うん。確かに守秘義務はあるね。その従者はどんなことを言っていたのかな」
「まず陛下の毒殺未遂は本当にあったことなの?」
「残念ながら本当にあったことだよ」
「……そのせいで陛下のお姿が変わられてしまったというのも?」
「そうだね、それも本当だよ。毒には耐えたけれど黒いアザのようなものが残ってしまったらしい。顔の一部にもね。何人かの貴族達がその顔を見たときにあまりにも怖がるものだから隠すようになったと聞いているよ」
たぶんご自身も傷ついたんじゃないかな。
「確かに食堂でも似たような話を聞いたよ。それから呪いを受けているらしいとも」
「呪い?」
「うん。黒いアザがツタのように広がってきているとか」
レオンは少し考え込んでいる。
「エリアス陛下に宛てたシュゼット様の手紙を侍女が城まで届けているらしいから、その時にもしかしたら話をしているのかもしれないね」
シュゼット様お手紙を本当にだしていたんだ。
内容は噂通りかわからないけれど……
「エリアス陛下が毒を盛られる前はシュゼット様とのご関係はどうだったの?」
「……さぁ、次期王妃の最有力候補だったらしいし、定期的に一緒にお茶を飲むくらいはしていたんじゃないかな? 他の王妃候補にも言えることかもしれないけれど」
さすがに王城内の事までは詳しくないか……
「こちらでもいろいろ調べてみるよ。これでも商売がら顔は広いからね」
よろしくお願いしますと言い、それから
「私、シュゼット様にあのネコのいる部屋に入れてもらえた訳じゃないよ」
訂正しておかなければ。
先輩メイドに背中を押されて部屋に閉じ込められてコリンヌさんに怒られてシュゼット様に出ていきなさい。と言われたことを話したらお腹を抱えて笑われた。
ねぇ、レオン………………笑いすぎじゃないかな? ねぇ?
そんな夕食を終えて山の家に帰り、夜遅くに三毛猫さんと一緒に結界を張ってからゲートをくぐりあのネコさんのお部屋へ行ってみた。
レオンはおそらく病気ではないと言っていたけれど……どういう事だろう。
触れてみると温かい。呼吸もちゃんとしている。けれど反応がないし痩せている。
深い眠りについているような…………薬で眠らされている?
一体誰に? シュゼット様? 何のために?
もう少し様子を見た方がいいかもしれない。
三毛猫さんにもそう話すとジッとネコさんを見つめてから私を見て「ニャーン」と小さく鳴いた。




