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休憩が終る頃ノクトが部屋へやってきた。
王妃様は仕事があるので少し外します、とノクトと入れ替りでお部屋を出ていく。
次はノクトが教えてくれるらしい。
私の前に立ち片手を差し出して綺麗なお辞儀をする。さすが王子様、指先まで優雅な動き。おぉ――と見とれていると
「私と踊っていただけますか?」
と言われた。いつもは俺なのにノクトが王子様してる。
私もドレスをつまんで軽く膝を折り
「喜んで」
と手を重ねる。
お部屋の中央辺りまでいき向かい合うと音楽がなり始める。
さっきオリバーに教えてもらった通りにステップを踏む。
「なんだ、結構踊れるじゃないか」
少し意外そうな顔をしている。ちょっと嬉しい。
「本当? オリバーの教え方が上手だったからかな」
「もう少し身体の力を抜いて俺に身をゆだねろ」
あっという間に俺に戻っている。
そうは言ってもこちらはまだまだ初心者な上に慣れないドレス。絶対筋肉痛になりそうなほどいろいろなところに力が入ってしまう。
そんな私をみてノクトが更に私を引き寄せて耳元で囁く。
「そのドレス良く似合っている」
サラリとノクトのサラサラストレートヘアが私の頬を撫でる。何かいい匂いがする。
「背中は……あぁホックか。外しやすそうだ」
耳元で囁かれるとゾクゾクする……押し返そうとしても力が入らなくてびくともしない。
クスクスと笑うノクトに
「力が抜けたな」
と言われ顔が熱くなる。悪ふざけが過ぎるノクトを睨む。
「っ……お前は俺を煽っているのか?」
いえ、睨んでいるんです。
程よく力が抜けて確かに踊りやすくなった。
「トーカ、最初に会った時より肌が綺麗になっている気がするな」
温泉と化粧水のお陰かな……?
ノクトってばこういうことに気付けちゃうんだ。
髪を1cmでも切ったらすぐに気付いてくれそう。
「そうかな? エヘヘありがとう」
誉められるとやっぱり嬉しい。
それからメイヒアのことや三毛猫さんのこと、熊さんと手合わせをした時の話とザイダイバ王国の話。
…………また……? 唐突にザイダイバ王国の話。
「ザイダイバ王国の王族と俺達家族は仲が良かったんだ。上2人の兄弟が同じ年ということもあって幼い頃はお互いの国を行き来していたのだ」
とはいっても近くはないから1ヶ月ほどの滞在を年に1、2回していたらしい。学生時代は留学などもあったとか。
「成人してからはお互い忙がしくなり会う機会は減っていたが、手紙のやり取りはしていたし、何よりあまり知られていないがザイダイバの前王妃様と母上は親戚にあたる関係でお二人とも仲がとてもいいのだ」
そうなんだ……そういえばザイダイバの街でみた絵姿の前王妃様とリアザイアの王妃様、似ているような気もする。
髪の色も同じだし。
小さな衝突はあったりはするが、王族同士の仲の良さもあり話し合いの場も頻繁に設けることが出来ていたので今まではどうにかなってきていたらしい。
「だが、近頃では母上でさえも連絡が取りにくくなっていてザイダイバが以前よりも閉鎖的になっているようなのだ」
そうなんだ……ザイダイバの街中を歩いた感じは平和そうだったけれど……でも国王の毒殺未遂の噂もあるしな……
「まぁトーカがどこで何をしているかは知らないが、これはお守りだ」
そう言ってオリバーと同じようにネックレスを首にかけてくれたけれど……これは……ザイダイバに行っていること知ってるよね?
さすがに二人続けては私も気付くよ。
ネックレスにはプレートではなく複雑なデザインに小さな青い宝石が1つ付いた小ぶりのペンダントトップがついている。
「ノクト……ありがとう。あの、もしかして」
「トーカ、次は僕の番だよ」
いつの間にかノシュカトが私の後ろで片手を差し出している。
ノクトが私をノシュカトに託して下がっていく。
すぐに踊り始めるかと思ったら少し休もうかとソファーへエスコートされた。
「トーカ、疲れてない? 足は痛くない?」
優しいコだ。
「ありがとうノシュカト、疲れてもヒールを使えば平気だよ」
そう言うと、ハァ……とため息をつかれた。
これは……怒られそうな予感…………
「トーカ、疲れた時は疲れたと言って欲しいしケガをした時は教えて欲しい。誰にも頼らない事に慣れてしまわないで」
お……こられなかった……けれど怒っているような……
いや、わかっている。心配してくれているんだ。
「うん。ありがとう、そうするよ」
嬉しくてエヘヘと笑いながらそう言うとノシュカトは少し困ったような笑顔を返してくれた。
それからお茶とクッキーを頂きながらお話をする。
「トーカが言ってくれた通り、留守の間頻繁にあの山の家に行っているけれど本当に大丈夫?」
「うん。全然平気だよ。キツネさん達にも会えてる?」
ノシュカトが複雑な表情をして全然平気……と呟いている。
「あぁ。キツネ達も元気に庭を走り回っているよ」
ノシュカトと、キツネさん達もせっかく仲良くなれたのだから会えているのなら良かった。
「トーカが集めてくれていた植物をみたよ。珍しいものが多くて驚いた。やはり人が足を踏み入れていない山は豊かだね」
確かに植物図鑑では絶滅しているとなっていた植物をリライの他にも幾つかみつけた。
「ザイダイバ王国にもね、植物の研究をしている人達がいるんだよ。もしかしたら向こうでも珍しい植物が生えていたり発見されたりしているかもしれないね」
ニコリと天使の微笑み。
そしてまたザイダイバ王国。
「研究者の中でもリュカ・デ・ランドームはとても優秀だよ。ランドーム公爵家の三男で僕と同じ年なんだけれど知識は僕以上かもしれない」
それは相当凄いのでは……
「トーカと会う前はリライを見つけられたら彼にも例の研究に協力してくれないか頼んでみるつもりだったんだよ。だからもしトーカが良ければ彼にも声をかけてみたいんだ」
駄目かな? と本人にそのつもりはなくても可愛い。
「その方……リュカ様は信用できる方なの?」
せっかく増やしたリライを根絶やしにされては堪らない。
「あぁ。彼は研究以外に興味がないからね。口は固い……というかもともと無口なのだけれど植物のことはよく喋るよ」
「ノシュカトが信頼している方ならお話して協力してもらおう。優秀な方が増えてくれたら研究も早く進みそうだし」
「ありがとうトーカ。暫くは仮説ということにして手紙でやり取りしてみるよ」
それからこれを……と繊細な植物モチーフのバングルを私の手首に嵌めてくれた。
「植物を研究している者のお守りみたいなものだよ」
「凄く綺麗……でもいいの? そんな大切なものを」
「トーカも綺麗だから似合っている。それに僕達は仲間だろ?」
「! うん! ありがとう」
ノシュカトってばサラッと…………
ノシュカトが微笑みながら手を差し出してきたので私の手を重ねる。
ノシュカトとも楽しくダンスを踊っているといつの間にか部屋にはノバルトが来ていて微笑みながらこちらをみていた。




