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それからミランダメイド長は今度こそ宜しくお願いしますね、といいこの場からいなくなった。
「驚いたわねっ」
フフッと私に笑いかける顔に悪気はないように見えるけれどつねられた腕は痛い。
「ノア、仕事が早いようだけれどちゃんと洗ったのかしら」
そう言って私の手をみる。荒れてしまった手をみて満足げに微笑む。
その後、残りの洗濯物を干すのは本当に手伝ってくれた。
次の仕事場に早く行かないと……らしい。
移動した先はキッチンの洗い場……荒れた手に追いうちをかける気かぁ……よく思い付くな……
ティナ様は他のメイドさん達とお喋りに夢中だから、お皿を洗い始める前にヒールをかけた。
お昼になり午前の仕事が終わり昼食は使用人棟の自分のお部屋に持って帰ってきた。
「フッ…………フフッ……いじめられているかもしれないっ! 三毛猫さんに報告しなくちゃっ!」
ゲートを作る。結界を張る。
ドアを開けると三毛猫さん。
「三毛猫さん一緒にお昼ごはんにしようか」
「ニャン」
安心するぅ――――! 三毛猫さ――――ん!
「私ね……いじめられているかもしれないの。フフッ貴族のご令嬢からのいじめ……」
三毛猫さんてば大丈夫なの? と何で笑っているの? が混ざった複雑な表情…………可愛いっ。
平和ボケしている私の気を引き締めてくれるスパイスのようなもの。
お城での平和な雰囲気が当たり前になってしまっていたので忘れていた。
こういう世界があると言うことを。
でも……どうしてかがわからない。お互い知り合う間もなく始まった……何かした覚えもないし……
まさか……いや、それなら正直ガッカリだなぁ。
明日からはもっと気を引き締めて行こう。
そして今から温泉に行こう。
公爵家のメイドさん達もお城と同じ時間割になっているようなので次の日の朝早くに本邸へ行き仕事を始める。
ミランダメイド長にテーブルセットは完璧です。と誉められた。嬉しい。メリッサメイド長とメアリに感謝。
それから調理場のお手伝いを少しして朝食をいただく。
食堂ではやっぱり噂話が聞こえてくる。
「またメイドが1人クビになったらしいわよ。シュゼット様がクビにしたみたい」
「またなの? 一体何人目かしら?」
「恐ろしいわ。紹介状も書いてくださらないのよ。もうお屋敷のメイドとしては働けないかもしれないわ」
「私達貴族はそれだけでは済まないわよ。結婚するまでの花嫁修業のようなものなのに公爵家のメイドをクビになったなんて噂が広がったら上流階級の方々には見向きもされなくなるわ」
お城、公爵家、侯爵家でのメイド経験はポイントが高いらしい。
「シュゼット様は何が気に入らないのかしら? クビになったメイド達は一体何をしてしまったの?」
「何もしていなくてもクビになってしまうのよ。シュゼット様はエリアス陛下が呪われてしまう前までは次期王妃様候補だったけれど、エリアス陛下が人前にお顔を出さなくなってからは全ては白紙になってしまったでしょ? お手紙を出してもお返事が頂けないみたいだし苛立ちがつのっているのよ」
呪い? 毒ではなく? 呪いなんてあるの?
「八つ当たりで私達の人生が変えられてしまうのは納得できないわ」
「それにしてもエリアス陛下は毒でお姿が変わられてしまったときいていたけれど、呪いなの?」
「シュゼット様の侍女のコリンヌ様がエリアス陛下の従者にきいたらしいのだけれど……お顔の半分に黒いツタのような模様が浮き出ていて徐々に広がっているらしいの。とても毒のせいだけだとは思えないわ」
あれ? 守秘義務は?
「酷いことをするわね。犯人はまだ捕まっていないのでしょう? エリアス陛下に近づいて同じ目にあうのが怖いから皆さん離れていったのね」
「それにやっぱりお世継ぎよ。社交界ではあれだけエリアス陛下にお近づきになるために必死だった令嬢方が今は皆さんセオドア殿下に近づこうと必死だわ」
「でもセオドア殿下はお城にいらっしゃらないことも多いから今お年頃のお嬢様がいる貴族は自分の娘をルシエル殿下に近づけようと画策しているらしいわ」
「シュゼット様はなぜエリアス陛下にお手紙を出し続けているのかしら?」
「言いにくいけれど……シュゼット様はエリアス陛下とご結婚されるつもりでいたのにこんな事になってしまって……貴族の中では結婚するのにいい時期を逃してしまっているから……だからエリアス陛下には国王の座を辞してもらってセオドア殿下を国王にしてご自分を王妃にと要求しているらしいわ」
「そんな……エリアス陛下に追い討ちをかけるようなお手紙を……ひどいわ」
「でも現実問題、呪われた方の子を産みたい令嬢はいないでしょう? エリアス陛下も今のところ無理矢理お妃様を選ぶような事はなさらないみたいだし……」
「ノア、仕事に戻るわよ」
ティナ様に呼ばれてしまい噂話はここまで。
今日も洗濯やお皿洗い、お風呂などの水回りのお掃除を押し付…………任せるわと言われた。
昨日と違うのは1人ではないこと。昨日私が洗濯場に取り残されたときにクスクスと笑わずに下を向いていたコ達が一緒に残されている。
これでわかった。いや……自己紹介の時点で薄々感じていたモヤモヤがこれでハッキリした。
貴族か平民か。ティナ様ガッカリです。
残ったのは平民出身のメイドさん達。
1人なら魔法で片付けられるけれど、こうなると魔法は使えない。使えるところはこっそり使うけれど。
でも……これがいつもの事なのか一緒に働いているメイドさん達の手をみると痛そうなほど荒れている。
本当はもっと人数がいて負担も少なくなる筈なのにティナ様達貴族は手が荒れるのが嫌なのか水回りのお仕事はしてくれる気配がない。
昨日より時間がかかってしまったし手も痛いけれど何とか終らせてお昼ご飯を食べに食堂へ行くとティナ様達貴族出身のメイドさんがすでに席について楽しそうに談笑している。
近くの席が空いていたのでそこに座ると彼女達の話し声が聞こえてくる。
「皆さんはどれくらいこちらにお勤めになるのかしら」
「私は子爵家の長男との婚約が決まったのであと1週間程で帰れますわ」
「まぁ! おめでとうございます。確か貴方のお家は男爵家だったかしら? 良かったわね」
階級が上がるから良かったのかな?
「ティナ様は子爵家のご令嬢でいらっしゃるしお美しいから身分の高い方からのお話がたくさんおありになるのでしょう? 羨ましいわ。どなたか気になる方はいらっしゃるのですか?」
「そうね。やっぱり実家の階級よりも高いところがいいわ。こちらのベルダッド公爵家のアーロン様も第二王子のセオドア様もリアザイア王国の殿下方も独身でいらっしゃるし、お会いできる機会さえあれば私の事を気に入ってくださると思うのだけれど」
すごい自信。そして身分の高い方ばかり。
確かにティナ様は可愛らしい顔立ちだけれど……
そんな高位貴族に嫁いだら大変じゃないのかなぁ。
でも……頑張るのは自由か!
「早くこんな生活終りにしたいわ。私はこんな事をするような身分でもないし婚約者が決まらなくてもある程度続けて適当に辞めるわ。パーティーや夜会に出席する方が出会いがあるもの」
メイドのお仕事、私は気に入っているけどな。
制服は可愛いし美味しいご飯も食べられるし、お茶会で余ったお菓子も頂けてお給料も貰えるんだよ!
ティナ様のようなご令嬢が更に高位の貴族に嫁いだりするのかぁ……
私にはどうしようもないけれど。
でも、今日一緒に働いたメイドさん達の荒れた手はどうにかできる。
山の家から持ってきたバリバナで作った軟膏に少しだけムカの葉の液を混ぜたものを手に塗ると痛みが引いていく。
良さそうなので皆さんにもお裾分けすると喜んでもらえた。嬉しい。
それから昨日はごめんなさい、と言われたけれど彼女達にもどうしようもない事だとわかっているので気にしないでと伝えた。
また明日、と皆さんと別れて午後から山の家に帰って三毛猫さんや熊さん親子、キツネさん親子や温泉に癒されながら過ごした。




