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お城でメイドとして忍びこ……勤め始めてから何日かたち、週がかわると今度はメアリさんと一緒に午後の当番に変わった。
陛下と王妃様には今週はお勉強を午前中だけにして欲しいとお願いしてみると、午前中に時間がある方だけがうちに来ることになった。
オリバーは朝食を持って来て一緒に食べてくれたし、ノクトは熊さんと手合わせをしにきた。
もはや遊びにきているような……あとしつこく午後は何をするか聞かれた。
何度も聞いて来るので
「女子のアレコレがあるんです!」
といったら顔を赤らめて
「そ……そうか……」
と言われそれ以上聞いてこなくなった。
……え――……?……午後からの女子のアレコレって何……?
ノシュカトはちゃんと研究をしに来てくれている。週に1度ではなく日数を増やせないか聞かれたから、今週は午後、家にいないと思うから鍵を開けておこうか? と聞いたらため息をつかれた。……なぜ。
私も植物の勉強と言うと大袈裟かもしれないけれど植物辞典をみながら研究に役立ちそうな植物がないか、あればどの辺りに生えているのか調べている。
山にも生えているものがあれば採取して庭と温室に植えておく。
ノシュカトが見れば何か思い付くかもしれないから私が居なくても来てくれていいのに……
ノバルトと王妃様はお忙しいらしく今週は来られないと。
午後からはゲートを使い使用人棟の自分の部屋へ移動する。着替えをして髪と目の色を変えて街で買っただて眼鏡もかける。
完璧。
メアリさんと食堂へ向かい昼食を一緒に食べて、午後のお仕事に取りかかる。
お城で働いている王族や宰相、騎士の方々などは午前も午後もお茶の時間があるけれど、午前中はお茶を飲みながら仕事をして午後はもう少ししっかり休憩を取るのでその給仕もする。
時間が合えばみんな集まったりと誰かと一緒にお茶をすることもあるみたい。
午前中に洗って干してくれた洗濯物を午後の私達が取り込んで片付ける。
畳み方としまう場所もメアリさんに教えてもらった。
それからは夕食の準備が始まり、テーブルセットと調理場で野菜の皮剥きや下ごしらえも少し教えてもらった。
夕食を頂いてお皿洗いをしてから使用人棟に帰る。
メイドの仕事は
午前 朝5時からお昼12まで
午後 お昼12時から夜7時まで
夜 夜7時から深夜1時まで
深夜1時から朝5時までは人数が減り、メイドと執事各3名になるけれどその分護衛の騎士様方の人数が増えるのだそう。
そういう訳で、今週はお昼から夜7時までお仕事をして帰るという流れで過ごしている。
そして、仕事終わりの温泉。フッフッフッ。
これが最高なんですっ!
温泉を見つけてから毎日通ってる。
昼間の温泉もいいけれどやっぱり夜の方が好きかなぁ。
夜の静けさと月明かりと星空。たまにお猿さんやカピバラさん。温泉といえば……なメンバー。
季節は関係ないんだね。
お酒も買ってしまった。(ノクト……お先に頂きます)
飲みすぎて倒れないようにお猪口一杯分くらいしか呑んでいないけれど程よくリラックスできて気持ちいい。
この解放感……素晴らしい! 誰かに教えたいような一人占めしたいような……
ご機嫌な私は温泉でしか歌えないあの歌をバンバンビバビバ歌うのが最近のお決まり。
ある日、月が雲に隠れていつもより暗い夜、いつも通り温泉に入って歌を歌っているとパシャリ……とお湯が跳ねる音がした。
湯気でよく見えないけれど、岩陰に何かいるみたい。周りの岩にはお猿さんが座っていたり、お湯に浸かったりしているしカピバラさんも寛いでいて警戒はしていないみたい。どちらかの仲間かそれ以外の動物かな?
気にせず全力で歌っていると
「フッ……ククク」
押し殺したような笑い声が聞こえたような気がした。
? 気のせいかな?
そう思ったけれど何となく気になって近づいて行くと、私の気配を感じたのか喋りだした。
「あぁ……すまない。驚かせたくなかったのに……貴方の歌が……フフッその……素晴らしくて……」
え? 少し混乱してしまう。
「お猿さんが喋った……?」
しかも小馬鹿にされているような……?
「フッハハハッ猿呼ばわりは初めてだ。俺は人間だよ」
そうか……でもまさかここに人間の男性がいるなんて思わなくて……
人間の、男性……私達、裸……
バシャバシャと慌てると
「怖がらないで。そちらには行かないから」
「だ、誰ですか!?」
訊ねながら髪と目の色を変える。
今夜は暗いしこの湯気の中だからこちらをはっきりとは見えていないはず。こちらからも見えていないし。
「今晩は。俺はレオンだ」
岩陰から返事が聞こえる。姿は見えない。
本当にこちらには来ないみたい。
「……今晩は。私は……ノアです」
何となく偽名を名乗ってしまった。
いつから居たのだろう。
まさか……いつもいたとか……?
「……レオンさんはよくここへ来るんですか?」
俺の事はレオンと……レオでもいいよノア。と言ってから
「以前はね。今夜は久しぶりに来たんだよ。そしたら……プッククク」
うん。失礼。でも良かった。
「ここで人に会ったのは初めてだよ。俺だけの場所だと思っていたのにな」
私だってそう思っていた。
「そうですか。私は最近よく来ているのですが……久しぶりと言っていましたがレオン……はまた明日も来ますか……?」
「しばらくは通おうかと思っているよ」
「じゃぁ……時間をずらした方がいいですよね? 私は後3、4日はこのくらいの時間になると思うのでレオンはそれ以外の好きな時間帯に来るということでどうでしょう?」
「そうだね。それじゃあそうさせてもらうよ」
という訳で、そういうことになった。
「ところで、ノア。君はどうやってこの暗い山の中ここへ来たんだい? ふもとの街に住んでいるにしても夜のこの山の中だよ? まさか山に住んでいるわけではないよね?」
住んでいます。この山ではないけどね……さて、どう答えたものか……
「…………秘密です。今知り合ったばかり……ですし」
何も思いつかなかった……
「それもそうか。帰りは大丈夫なのか?」
あれ? やけにあっさりしている。助かるけど。
「はい。大丈夫です。ご心配頂いてありがとうございます。それでは、私はそろそろ失礼します。レオンも気を付けて帰って下さい」
「あぁ、ありがとう」
これ以上余計なことをきかれる前に退散しよう。
温泉から上がり、パジャマを着て少し離れたところで結界を張り家に帰る。
ゲートを作ろうかと思っていたけれど人が来るならやめておいた方が良さそう。
まぁ、きっともうあの場所では会うことはないよね。
そう思っていた次の日の夜…………………………
時間ずらすことにしたよね?




