56
56
泣きながら移動してきたからまだ目が腫れている。
お城に着く少し手前でヒールとクリーンをかける。
これでよしっ!
結界を解いてあのバルコニーに着地する。
すぐにノバルトが気づいて窓を開けてくれた。
私の格好……おそらくスカートの丈に驚いたはずだが、そんな様子も見せずに中へ入れてくれる。
中へ進むと皆さん揃っていた。
窓から入って来た私に驚いているところ、ノバルトが陛下と王妃様に私を紹介してくれた。
ノクトとノシュカトは全体的にお母さん似で、ノバルトはお父さん似だな。
「お初にお目にかかります。神木冬華と申します。トウカとお呼び下さい。突然の事にも関わらずお集まり頂きまして有り難うございます」
就活と仕事で養ったきれいなお辞儀をする。
「はじめまして、トーカ。私はこのリアザイア王国の王ノイガルト・アーク・リアザイアである。そしてこちらが妻のエイベルだ」
王妃様が一歩前に出て
「トーカさん、息子を……息子達を救ってくれてありがとう」
そう言って王様と王妃様とこの部屋にいる全員が私に頭を下げる。
「あ、あの頭を上げて下さい。ノシュカトさんが救ったキツネさん達が居場所を教えてくれたので……後は私が出来ることをしただけなので……」
ん? 王妃様今息子達って言った? 雨上がりでぬかるんで危険な山に捜索に行かずに済んだことかな?
「トウカ、まずは君の話を聞かせてもらえるだろうか」
ノバルトにそう言われ、深呼吸をする。
「信じてもらえるかわかりませんが、私の身に起こったことをお話します」
初めから話した。帰宅途中の暗闇からお城の屋根に着地して落ちたこと…………ついこの間の出来事なのに振りかえるといろいろあったなぁ。
ノクトとオリバーとの出会いと私の都合で口止めや嘘をつかせてしまったことも謝った。
ケガをしたノシュカトをどうやって落とし穴から家まで連れ帰ったかは、ノシュカトの手をとり実際にその場で少し浮かんで見せた。
それからケガもヒールという不思議な力で治したけれど、しばらく意識が戻らなかったので、リライも使ったと言ったらノシュカトが一番驚いていた。
そういえば言ってなかったかな。
この力についても、こちらの世界に来てから使えるようになったので私もわからないことが多いことも伝えておいた。
私がいた世界の事はざっくりと説明した。こちらの世界に何か影響があったりしたら……そこまで心配しなくていいかな? 長くなりそうだし詳しい話はまた後でとお願いした。
この服の事は言っておかないと!
さっきからノシュカトとオリバーは見ないように努力してくれている。
陛下と王妃様とノバルトは何も聞かずにいる。
ノクトだけずっと足をみている……さすがだ。
「この服ですが、私のいた世界ではよくある服装の一つです。これは仕事用なので、お休みの日はもう少しラフな格好をしたりします。スカートの丈が短いと思われるでしょうが元の世界では普通でした。今日はこんな突拍子もないお話を少しでも信じて頂けるようにと思い着て来ました」
王妃様が近づいてくる。
「少し失礼して触れてみてもいいかしら」
もちろんです、とシフォンのブラウスとフレアの入ったスカートに触ってもらう。
「確かに……見たこともない生地だわ。それにこのお裁縫技術、とても素晴らしいわ」
誉められた。私が作ったものではないけれど、作ってくれた人に伝えたい。異世界の王妃様に誉められましたと。
そしてこちらからも質問をしてみる。
「今まで私のような者が現れた事はありますか?」
「この国では現れた事は無いが念のため過去の文献も調べてみよう。他国からもそのような話は聞いたことがないが今この場のように王族や信頼できる者のみが知り得ることならばあるいは……」
「不思議な力や魔法を使える人はいますか」
「その様な力を持つ者はいない」
魔獣について。
「元の世界では魔獣はいませんでした。魔獣はどの様な存在ですか?」
試すような聞き方で申し訳ないが、どう考えているのか知っておきたい。
続けて陛下が答えてくれる。
「魔獣は悲しき存在であり、人間の罪の証である。私利私欲のための密猟は酷いものでその方法は残酷だ。私達も生きるために狩りをする。子がいるとは知らずに狩ってしまうこともあるが、その場合子を保護し施設でひとり立ち出来るまで育てる。密猟者から保護した子も同じようにするのだが……」
陛下が深いため息をつく。
「その施設にまで腐敗が進んでいたとは。全く面目ない話だ」
もしかして、
「もしかしてその施設に熊の子は保護されていませんか?」
「貴方はノクトが討伐するはずだった熊の大型魔獣を浄化してくれたと聞いている。おそらくその熊の子だろう。密猟者から雇い主の手に渡る前に保護しているよ。大型の動物が狙われる事は珍しいからね。すぐに報告がきたのだ」
今度は質問される。
「トーカ、魔獣を浄化する時はどの様に感じるのだ?」
「魔獣化したコ達の苦しみが伝わってきて……彼らを包み込むイメージをすると温かい光の粒が彼らを包み一瞬元の可愛らしい姿に戻り光の粒と共に消えていきます。最後の瞬間は苦しみからは解放されているように感じますが……都合のいい考えなのかもしれません」
「そうか……」
皆さんそれぞれ何か考えているようで、少しの間沈黙する。
それから陛下が
「トーカはこれからどうしたい? 息子を救ってくれているのだし相応のものも用意しよう。何か望みはあるか」
望みは一つだ。
「私は静かに暮らしたいです。今あの山で暮らしているのですが、このまま住み続ける事をお許し頂ければと思います。それから保護されている熊の子を母熊が探しているので引き取らせて頂けませんか?」
2つだった。
熊の子は諸々の手続きがあるので今すぐには難しいのと、疑う訳ではないが出来れば母熊に会わせる時に立ち会わせて欲しいと言われた。
山は大きいし結界も張っているから家の場所の特定はまずされないだろう。
「このままここに住んでもいいのよ。女の子1人山での生活なんて寂しいでしょうし、心配だわ」
王妃様優しい。
「ご心配ありがとうございます。動物の友達もいますし時々街に買い物に出たりもしているので大丈夫ですよ」
「でも……それでは私とも友達になってくれるかしら。時々お茶を飲んだり食事をしたりしたいわ」
ここはほら……男性ばかりでしょう? と可愛く言われたら…………くっ……断れない。
こちらの世界の事や女性のアレコレも教えてくれるらしい。
それから…………と王妃様は続ける。
「会いたい時はどうすればいいかしら?」
そう……これ。手紙を教会に送ってもらうのはもう止めにしよう……ノクトの手紙の多さがコワ…………王族からの手紙を預かる教会の方々の心労を考えて。
「それについては考えがありますので少し時間を頂けますか。早ければ明日またこちらに伺います。遅くとも2、3日以内には必ず参ります」
今夜はもう遅いので、と解散することにした。
皆さんに見られて何だか恥ずかしいけれど、挨拶をして窓を開けてもらう。
結界を張り姿を消してからバルコニーに出る。
フワリと浮かび山へ向かう。
熊さんの子供を見つけた。これだけでお城に行って良かったと思う。




