50 冬華 ノシュカト
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―――― 冬華 ――――
ノシュカトが穴に落ちた時に着ていた服も持って行こう。クリーンで綺麗になっているけれど槍で開いた穴はそのままだ。
因みに落とし穴も結界を張ったまま現場保存をしている。
山の動物達が落ちたら大変だし。
出発をする前に結界を張る。ノシュカトの結界はアイマスクのイメージで周りが見えないようにしてあるけど怖くないかな。
「トーカ、この状態で浮くのは……少し怖いです。移動するときはトーカにくっついてもいいですか?」
……キュン……
小さい頃、私と弟達が迷子になったとき、私の両手に弟達がギュッとしがみついてきてそのまま一緒に両親を探し回った時の事を思い出してあの時は歩きにくかったなぁなんて思っていると……後ろから
ギュッ……って。
いわゆるバックハグ状態です。
「そ……うですよね。視界が遮られると怖いですよね。でもそんなにくっつかなくてもだい」
「トーカ……触れていていないと不安なのです」
「っ……」
耳元で切なげに囁かれゾクゾクしてしまう。
ノシュカトは私の肩に頭を乗せて震えている。
何だか可愛そうなことをしている気がしてきた……
「ノ、ノシュカトわかったから落ち着いて。捕まっていていいから」
「ありがとう。トーカ」
そう言って今度は私のウエストに片腕を回し、もう片方の手で後ろから顎をおさえられる。
ホールドされてしまった。
ノシュカトよ……刷り込まれていないか……確かに私は親鳥が如くご飯を口に運んだけれど私は親ではないぞ。
落ち着かせようと手を伸ばし頭をなでる。
「不安にさせてごめんね……すぐに慣れると思うから……」
静かにそう言うと身体をくるりと回されて今度は正面から抱きつかれる。
ぐぇっ…………そんなに怖かったか……ヨシヨシと背中を撫でる。
そのままフワリと浮かぶとノシュカトの手に力が入る。
ドアを開けて外に出る。庭の結界に雨が通らなくする。
ドアを少し開けたままにして三毛猫さんとキツネさん達が外に出られるようにしておこう。
これで熊さんが来たら一緒に遊べるね。
ノシュカトに抱きつかれたままお城へ向かう……
いや誰にも見えてないからいいけどね…………?
いいのかなぁ?
―――― ノシュカト ――――
目が覚めると部屋にトーカは居なかった。
泣いているところを見られなくて良かった。
ベッドから降りて立ち上がって歩いてみる。本当に治っている……あれほどのケガを一体どうやって……
ノックがしてドアが開く。トーカに足は大丈夫かと聞かれた。
彼女が……治してくれたんだよな……トーカも詳しくは話さないし……どうやってかは気になるがまずは礼を言う。
トーカはどうやら昼食を持ってきてくれたようだが、僕が動けるのを確認するとダイニングで一緒に食べようと言ってくれた。
トーカが用意してくれた服に着替え部屋から出る。
リビングに向かうが……家の中はあまり見ない作りのような気がする。
向かい合い席に着く。キツネ達や変わった色の猫も一緒に食べている。
トーカの作ってくれるご飯は美味しい。
そう伝えると、お城の食事に比べたら……と言われてしまった。やはり知っていたのか。
知っていてもトーカの態度は変わらない。
周りにはいつも必死で近づいて来ようとする者達ばかりだったのに、トーカはどちらかというと関わるかどうするか迷っているように感じられる。
こちらからトーカを探るような事をすると逃げてしまいそうなそんな距離感を感じるのだ。
僕はもっと彼女に近づきたいのに。
トーカがフフッと笑うのでどうしたのかときくと
「ここで誰かと食事をするのは初めてだから嬉しくて」
っ……そうか……僕が初めて……
1人にしてはこの家は広い……1人なのか……
ミケネコサンとキツネ達と熊も時々来ると言っているが人は来ないのだな。
寂しくはないのだろうか……僕がこのまましばらくトーカの側に……い、一緒に暮らしてもいいのだが……
そんな事を考えながらも食事を終え、話があるというのでリビングに移動する。
アンミルのハーブティーを一口飲み、お互い一息つくとトーカが僕を城に送ると言う……
僕はもっと一緒にいたい。
だから雨が降っていてまだ危ないと言ってみた。
「ノシュカト、昨日お兄さんのノバルトとお話をしました。詳しい事はお城に着いてからお話しますが、まずはノシュカトが無事なことをお知らせしないと雨が上がり次第捜索隊が出動してしまいます」
ノヴァルト兄上!? 兄上と話したのか!?
昨日と言うことは僕が目覚める前だ。トーカは一体いつから……どうやって兄上と……城に行ったということか。
知らないことが多すぎる。聞きたいことがたくさんある。
しかし今は……確かに僕の無事を知らせなければ捜索隊が動き出してしまう。
長雨で普段よりも山は危険なはずだ。そんな中僕の為に隊を動かす訳にはいかない。
トーカが僕の両手をとる。
「私はまだしばらくはこの家の場所を知られたくないのです。その理由の一つが………」
僕は驚き目を見開く。
フワリと2人の身体が浮き上がる。
そしてゆっくりと床に降りる。
僕を見上げるトーカを見つめながら納得した。
彼女以外の人間がいないのなら一体どうやってあの穴から僕を連れ出したのかと思っていたがこういう事か……
さらに彼女は続けて
「驚かせてしまいすみません。結界も張るので雨に濡れることもありません。この力でお城に向かおうと思います。その間……申し訳ありませんが、周りの景色が結界によって見えなくなります。大丈夫でしょうか……?」
結界? 物語の中でしか聞いたことがないが……いや、たった今身体が宙に浮いたのだ。
彼女ができるというのならそうなのだろう。
この力……そうか。それで人との関わりがなく居場所も知られたくないのか。
しかしノヴァルト兄上とはどうやって……
詳しくは城で話してくれると言う。ここで質問責めにしてもトーカを困らせてしまうだけか。
ため息をつきどうにか自分を納得させ、仕方がないので、またここで一緒に食事がしたい事だけは伝えると、彼女は微笑み頷いてくれた。
トーカが僕の周りに結界を張るとモヤがかかったように辺りの景色が見えにくくなる。不思議な事に怖いとは思わなかったが、このままでは怖いのでくっついてもいいかと聞いてみる。
彼女の姿が見えなくなるのだ。せめて触れていたい。
少しの間返事がなく考えているようだったので、その隙にトーカがいた辺りに手を伸ばすと肩に触れた。
そのまま抱き込むとトーカは少し驚いていたが振りほどくような事はしなかった。
トーカを抱き締めると花のいい香りがする。
掴まっていていいというのでウエストに腕を回し、トーカの顎に触れる。
見えていないとこうも大胆になれるのか…………
いや見えていないから余計に如何わしい事をしているような気にもなる。
トーカは僕が怖がっていると思ったようで頭を撫でられ子供扱いされた。だから今度は正面から抱き締める。
フワリと身体が浮き城へ向かうようだ。抱き締める手に力が入る。城へ戻ったら二度と会えなくなる訳ではないよな。
ノヴァルト兄上はトーカと連絡が取れるのだろうか。
次はいつ会えるのか……
トーカが結界のモヤを晴らし城下町の上空辺りで視界が開けた。
高さに少し驚き、そのまま怖がるふりをしてトーカを抱き締めたまま進んでもらう。
花と森の香りが心地よくずっと抱き締めていたいのに……城が近づいてくる…………




