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使用人さん達の部屋の窓を後にしてフヨフヨと漂う。
すると見覚えのあるバルコニーが。ここって……
やっぱり! ここは私が初めてこの世界にきて落下した時に通り過ぎたバルコニーだ。
降りて見る。そして想像してみる。上から人が落ちてくるところを…………うん。怖い。
あの時の人、ごめん。
バルコニーから外を眺める。
帰ったらもう一度ヒールをしてみようか…………もし目覚めなくても明日、どうにかして無事を伝えるか、このお城に連れてきてお医者様にお任せするか……
どちらにしろ私の事をどう説明すればいいのか…………
バルコニーの窓が開く。
!!
誰か来る……見えていない事はわかっているのに動けない……
思わず息を潜めてしまう。
あの時の人が出てきた。たぶんノクトのお兄さん。
?
……な んか……こっちみてない? 目があっている気がするんだけど……
いやいや! 見えてないから! ちゃんと結界張ってるから!
雨が降っているのに出てきた……濡れるよ?
何でこっちに真っ直ぐ来るかなぁ!?
なんか……怖くて動けないっ……
私の目の前で止まった。
恐る恐る顔を上げると目が合う。いや合っている気がする。
金髪にアンバーの瞳……髪も服も雨に濡れて余計に色気が出ているような………顔がいい……
迂闊にも見とれていると
「捕まえた」
捕まった。
抱きしめられてしまった……
悪意がないなら結界を通り抜けられる仕様になってたんだった……
何で……? 見えないはずなのに…………彼も魔法を……?
「貴方は……数日前空から落ちてきた女性だね……姿を見せてはもらえないだろうか」
声もいい……
それどころじゃない……やっぱり見えていないみたい。
どうしよう……
「聞きたいことがあるのです。弟の事で。……もし何か知っているのなら教えて欲しい……」
私の肩に顔を埋めてすがるような泣きそうな声で言われてしまった。
今夜見た限り王家はいい人達みたいだけど……
本当はもっと時間をかけて調べたかった……仕方がない。
結界を解く。
彼が少し驚いた顔をしてニコリと微笑む。近い。
「やはり貴方だ」
両頬を彼の大きな手で包まれる。近い。
顔が熱くなる。雨が冷たくて気持ちいい。
何も喋れないから離れて欲しい。
しかし彼は雨に濡れてしまうからと流れるように自然な動きで私を横抱きにして部屋の中へ歩いて行く。
彼は背が高くて思わず首にしがみつく。
しがみついたつもりが抱きついているような体勢だと気がついて、恥ずかしさのあまり離せなくなってしまった。
私が離さないものだから彼は私を膝に乗せたままソファーに座ってしまった。
「………………………」
は、……恥ずかしいぃ!!
「……あ……の、降ります。ソファーに座ります」
やっと言えた。
「残念です。私はこのままでもいいのですが」
私が慌てていると彼がクスクスと笑う。
この笑いかたどこかで…………?
「私はリアザイア王国の第一王子ノヴァルト・アーク・リアザイアと申します。貴方の名前をお聞かせ願えますか」
初めてフルネームで名乗られた……どうしよう……私もフルネームで名乗るべきかな……少し迷ってしまう。
「…………私は……冬華です。神木 冬華。姓が神木で名前が冬華です」
「トウカさん。カミキ トウカさん。私のことはノヴァルトとお呼び下さい」
いや、お城で王子を呼び捨てにはできないよ。
「ノブァ……ノブ…ブァ…………ノバルト殿下、私のことはトウカとお呼び下さい」
彼の肩が震えている……寒いのかな? タオルで軽く拭いたけど風魔法ならすぐ乾く。
けれど様子見はまだ続いているので今はまだ余計な事はしないでおこう。
「トウカ。ノヴァルトです。敬称はいらないよ」
またハードルの高いことを…………
それにしても彼は私の名前を日本語に近い発音で呼ぶんだなぁ。何だか懐かしい気持ちになる。
「ノブァ……ノバルト」
ノバルトは頷くと1度席を立ち、隣の部屋からひざ掛けを持って来てかけてくれた。
それから温かい紅茶を入れてくれた。
「王子様って紅茶入れられるんだ……」
「一通りの事は小さい頃に使用人達に教えてもらったからね」
しまった。声に出てた。
ノバルトはクスクスと笑っている。笑い上戸なのかな。
紅茶を一口頂くと、ノバルトが話し始めた。
「4日程前に末の弟のノシュカトが山へ向かいその後行方不明になってしまいました。弟の身長は180cm程で癖毛の銀髪に私と同じ色の瞳をしています。服装は上下黒に茶色の革のブーツを履いていた。この雨の中捜索隊を出すわけにもいかず……こんな話をされても困らせてしまうかもしれないが……何か知らないだろうか……」
ノシュカトさんは愛されているなぁ……私も家族に会いたくなる。
「彼は……ノシュカトさん……はおそらく私が保護している男性です」
「……おそらくとは……? 名前を言わないのですか? それとも記憶に問題が? …………まさか……意識がないのですか……?」
「ケガの手当てはしたのですが、私が彼を見つけてから2日間意識が戻りません。ですが、彼は先ほどノバルトが言ったような特徴をしています。……瞳の色はわかりませんが……」
「意識が……ない。発見した時のケガはどの程度でしたか。弟を動かす事は……私が迎えに行く事は可能ですか」
たぶんノヴァルトは私について余計な事は聞かないでくれている。
「彼は……彼を見つけた時…………」
私はその時の状況を説明する。
これほどのケガを治したとは信じてくれないと思うし聞いたら余計に早く連れて帰りたくなると思う……けれど
「早くご家族の元に返してあげたいのですが、治療経過も気になりますし、出来ればこのまま意識が戻るまで私のところで預からせて頂きたいのですが……」
「………………」
ノヴァルトが考え込んでいる。
得たいの知れない私に言われても…………だよね……




