40 冬華 ノシュカト
40
―――― 冬華 ――――
10通めと11通目は2通目以降とさほど変わらないないようだったけれど、12通目。
最後の12通目は様子が違っていた。
弟のノシュカトが山で行方不明になり、同行した近衛兵だけが帰ってきたこと。
兄のノヴァルトが指示を出し、捜索隊を編成し、すぐにでも探しに行きたいが雨が降りだしたので天候が回復するまでは動けないこと。
仕事を終わらせ時間を作ったが、やはりもうしばらくは逢う事ができなさそうだ。申し訳ない。寂しいだろうが俺も寂しい…………
って私達は付き合ってるんか――――い!
冗談が言えるならよかった。
ノクト……残念ハンサムだな。
お兄さんもいるのか。ノブァ?ノブ……ノバルトさん……やっぱりあのお城で目があった金髪さんかな。
それにしても困った事になったなぁ。
雨が上がったら捜索隊が山に来てしまう。
雨が上がる前に、彼……ノシュカトさんが無事な事を知らせたいけれど、出来れば彼が目を覚ましてからの方がいい。
眠り続けたままだと無事とは言えないし……
身体の具合……特に右足が大丈夫か確認したい。
ドアをノックする。返事がないのでそっと中に入る。
キレイな顔……眠り続ける眠り姫のよう。
…………と言うことは……キ、キスで目が覚める……とか?
ハッとして後ろを振り返ると三毛猫さんがドアの隙間からジッとこちらを見ている。
……ごめんなさい。
タッと庭に戻って行く三毛猫さん…………
彼に視線を戻すと涙を流している。苦しそう。
何が悲しいの? 何が苦しいの? 何が怖いの?
手を握り頭を撫でながら、
「大丈夫 大丈夫 早くキツネさん達に元気な顔を見せてあげて。右足もちゃんと治っているから起きて確かめてね」
…………一瞬、前にも似たような事があったような気がしたけれど、そうしているうちに私も瞼が重くなりベッドにもたれて気持ちよく眠りについた…………
※※※※※※※※※※※※
―――― ノシュカト ――――
「兄さま、兄さま、秘密とは何ですか? 早く教えて下さい!」
ノヴァルト兄さまの部屋に3人で集まり秘密の集会を開く。
ぼくはその秘密を早く知りたくて、兄さまたちを急かす。
そんなぼくの様子を見て兄さまたちはクスクス笑いながらぼくの頭を撫でる。
兄さまたちが大好きだ。お父様とお母様も大好きだ。
ぼくはこの家族の元に生まれて本当に幸福だ。
それなのに大好きなのにあんな素っ気ない態度を取るようになってしまった。自分でこの大好きな居場所を壊してしまっていたのかもしれない。
こんな自分が帰っても……帰っても? ここに居るのに……?
「今から話す事は3人だけの秘密だ。誓えるかい?」
ノヴァルト兄さまが話し出す。
「もちろんちかいます! ぼく、誰にもいいません!」
兄弟3人だけの秘密なんてワクワクする!
「ノシュカトが生まれた翌年、私が高熱を出して寝込んでいたことは知っているね?」
「はい。原因がわからず大変だったとか」
「そうだ。ノヴァルト兄さまは何日も寝込みどんどん痩せて弱っていき、お母様も毎日泣いていて本当に死んでしまうのではないかととても怖かったのだぞ」
ノクト兄さまが少し怒ったように言う。
「あの時は本当に心配をかけた。秘密と言うのはその時私に起こった出来事なんだ」
どんな話だろう。寝たきりのノヴァルト兄さまの身に起きたこと……
「私もあの時は本当に弱ってしまっていたけれど、大型の魔獣が立て続けに現れて周りの皆も疲れ果てていたんだ」
ぼくは黙って話を聞く。
「熱に浮かされ食事も出来ず苦しくて眠る事すら出来なくて、1人ベッドの上でただ弱っていく私の元に、いつからか女神様が来るようになったんだ。夜に現れ私の頭を撫で手を握り一緒に寝てくれた。けれど朝が来る頃にはいなくなっていて、誰に聞いてもそんな女性はいないと言うんだ」
兄さま……それはゆうれいと言うものでは……
「最初は夢か幽霊かと思ったのだけど、彼女が来てから私は眠れるようになり、熱も徐々に引きはじめ、食事も取れるようになったんだ」
…………
「彼女が来た夜は部屋が甘い花の香りと爽やかな森の空気で満たされた。彼女が私の手を握り、大丈夫 大丈夫 と繰り返し頭を撫でてくれるたびに私の身体が楽になっていった。そして、私が睡眠も食事も取れるまでに回復し始めたころ彼女は現れなくなった。やはり誰に聞いても彼女の姿をみた者はいなかった」
「兄さま、どうしてその方が女神さまだと思われたのですか?」
「彼女は私の病を治してくれたのに何の見返りも求めてこなかったんだよ」
それに…………と少し間があり
「とても美しかったんだよ。どこの国にもいない真珠色の肌に夜の闇よりも深い艶やかな黒髪に黒曜石のような黒い瞳。それに彼女が現れる瞬間をみたのだけれど、キラキラと光の粒と共に現れたんだ」
「そんな美しい女神さまがいるのならぼくもお会いしたいです!」
「俺だってそんな素晴らしい女性がいるなら会いたい」
ノクト兄さまも続く。
「そうだね、私ももう一度会ってお礼が言いたい。それから私と結婚して欲しいとプロポーズをするつもりだ」
少し恥ずかしそうに、けれどぼくたちをまっすぐに見てそう言う兄さまが大人びて見えて何だか羨ましくなった。
ノクト兄さまもそう思ったのかもしれない。
「俺もその女神様と結婚する!」
「ぼくも!ぼくも女神さまとけっこんします!」
(わぁい! 私、モテモテだぁ! ウフフ)
どこからか声が聞こえたような気がして3人で驚いた顔を見合せ、キョロキョロと辺りを見回すけれど、誰もいなかった。
3人で顔を寄せあいクスクスと笑う。
「それじゃぁ私達3人の秘密の花嫁だね」
幼い頃の小さな約束だった。




