35 ノヴァルト ノクト オリバー
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――― ノヴァルト ―――
夜、執務室で仕事をしていると城がにわかに騒がしくなった。
ノクトと入れ違いのように山へ向かったノシュカトが行方不明になった。
「どういう事だ」
近衛兵によると山の中で空模様が怪しくなり、早めに下山しようと歩いている途中ではぐれてしまったらしい。
周辺を探したがどこにも姿はなく、雨も降りだしてきたので急いで戻って来たのだと言う。
近衛兵がノシュカトから離れるとは考えにくい、恐らくノシュカトに何かがあったのだろう。
何かを見つけたか気になるものがあったのか……すぐに戻るつもりだったから何も言わずに離れたか……
だとしたらはぐれた辺り周辺にいるはずだが……
「兄上」
「ノヴァルト」
ノクトと両親が来た。
「はぐれた地点を中心に少しずつ範囲を広げて探してみようと思う」
さすが我が弟は頼りになる。だが……
「そうだな。捜索隊の編成は任せる。しかしこの天気だ。捜索は天候が回復次第開始とする。雨が上がっても地面はぬかるんでいるだろう。ケガをしないように気を付けるように。捜索中の城での仕事は私が片付ける」
父上と母上も反対はしない。
「……はい。この天気の中ノシュカトは無事でいてくれるでしょうか……」
珍しく弱気だ。よほど心配なのだろう。
「ノシュカトを……我々の弟を信じよう」
「私達も出来るだけ人員を確保しよう。お前達に任せている城での仕事もこちらに回して欲しい。カーティス領の領主にも手紙を出しておこう。あの子は強いし知識もある。大丈夫だ」
何処か不安げな母上を抱きしめ、父上は力強く言う。
ノシュカトも身体を鍛えていないわけではないからケガをしていなければ、山の中でも数日は大丈夫だろう。
ただ……彼は私達兄2人に負い目を感じている部分がある。
両親もノクトも気づいていないかもしれないが、それがノシュカトに無理をさせてしまうのだ。
十分に素晴らしい弟だとどうしたらわかってくれるのか。
帰って来たらたくさん話す必要がありそうだ。
雷が鳴り響く。もしかしたら数日降り続くかもしれない。
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――― ノクト ―――
すぐにでも探しに行きたい衝動を抑え兄上の執務室を後にする。
母上は今にも泣き出しそうだったが、王妃教育の賜物か兄上の執務室を出たとたん背筋を伸ばし気丈に振る舞う。
父上と母上は寝室に戻っていただき、俺は捜索隊の編成を始める。
その間、山から戻った近衛兵7名を休ませ、後程捜索会議に参加するように言っておく。
捜索隊のメンバーは討伐隊とほぼ同じになるだろう。
山へは行かなかったが森には慣れている。
それから父上が派遣してくれる兵を合わせて恐らく60名程で探すことになるだろう。
騎士団長のオリバーも夜中の呼び出しにすぐ来てくれた。
ノシュカトはオリバーに幼い頃からよく懐いていたように思う。
王族に近づくため、側近になるため幼い頃から小さな貴族達は私達と友達になろうと必死に話しかけてきた。
オリバーは口数も少なく真面目すぎるところもあるが、ノシュカトは気に入っていた。
2人でいるときも何を話すでもなくそれぞれの事をしているし、たまにノシュカトがオリバーに植物の説明や意見を求めていることもあった。
以前、なぜオリバーと一緒にいるのかきいたことがある。
「ノクト兄上、オリバーは植物のようなのです」
確かそう言っていた。
物静かでただそこに居てくれる。それがいいのだと。
オリバーもノシュカトを弟のように思ってくれている。
騎士団の方も概ね討伐隊の時のメンバーでいいだろうということになり話しはまとまった。
後は天候が回復するのを待つばかりだが、深夜になり雨音は強くなった。
どちらにしろ山の中での捜索は夜では難しいので、皆には休んでもらい明日の朝また集まることにした。
すぐに見つかるといいが、どうなるかわからない。
仕事を詰め込み時間を作ったがすぐには会えそうもない。トーカに手紙を出さなければ。
明日、雨が上がるといいが春の終わりと夏の到来の雨は長引くし嵐になったりもする。
雨が降っていようが夜になる前に探しに行きたいが兄上が首を縦には振らないだろう。
怪我人を出してはノシュカトも申し訳なく思ってしまうだろうから、捜索隊に無理はさせられない。
ケガはしていないだろうか……雨をしのげる場所は見付けられただろうか……どうか無事で……
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――― オリバー ―――
夜、城から呼び出しがあり向かうと第三王子のノシュカト殿下が行方不明だという。
すぐにノクト殿下と捜索隊を編成する。
はぐれた場所は山の奥へ向かっていたらしく、馬では進めないらしい。
山の経験がほとんどない我々でどこまで探せるかわからないが、見落としがないように慎重に進まなければならない。
ノヴァルト殿下の指示で捜索は雨が上がってからということになっているから、一旦解散して明日に備える。
幼い頃からなぜか俺に付いて回る事が多く、かといって一緒にいて何をするでもなかった。
俺が鍛練をしている近くで殿下は本を読む。
時々植物の本を見せてきて特徴や生息地の説明をキラキラとした瞳で長々とされることもあったが、不思議と心地のいい時間だったし殿下の博識ぶりに驚いたりもした。
大人になってからもその関係は変わらず、遠い地で珍しい植物を採取できた時は必ず俺の所にも来て見せてくれた。
素直になれない態度で誤解されることもあるが、思慮深く可愛らしい一面もある。
ノシュカト殿下は3兄弟の中でも一番多く各地の森へ入り野営も多くしている。
だから大丈夫だ。
早く戻って……また珍しい植物の話を聞かせてほしい。
しかしそれから5日間雨がやむことはなかった。




