33 ノシュカト
33
ノクト兄上が大型の魔獣の討伐を終えて帰ってきた。
無事で良かった。
剣の腕が立つ故、危険な任務を多く引き受けてくれるノクト兄上にはいつも感謝している。
その危険な任務を任命しなければならないノヴァルト兄上。
父上は現役で国王ではあるが、息子である私達の成長に合わせて様々な方面の仕事を経験させてくれた。
そのお陰でそれぞれに合う役割が見えてきたし、皆一通りの仕事が出来るようになった。
ノヴァルト兄上は広い視野があり、先見の明がある。
何より人を見る目が恐ろしいほどある。
ある貴族が言うには、ノヴァルト兄上は人の心が見えているよう、ではなく見えているのだと。
そういう事もあり、今では父上と同じように仕事をこなしている。
だから危険な任務につくように命じるのも、厳しい判断を下す事も、適材適所を見極めてノヴァルト兄上がする事が多い。
ノヴァルト兄上はこだわっている様子もないし、むしろ消極的に感じる事さえあるが、次期国王はノヴァルト兄上と私達家族の中では自然と納得ができている。
そんな二人の兄上の役に少しでも立ちたかったけれど、僕には兄上達のような才能がなかった。
だから自分が一番夢中になれる植物について研究し始めた。
絶滅寸前の薬草を増やせた時は、家族全員が喜び、多くの人が救われると誉めてくれた。
だが、これではまだまだ足りない。
兄上達はもっと凄い。
もっと役に立たなければ。
だから今回は山まで行こうと決めた。
すでに絶滅したとされるリライや他の希少な薬草が何処かに咲いているかもしれない。
家族からはくれぐれも気を付けるようにと言われているが、必ず見つけて持ち帰りたい。
今、森の中には小型の魔獣の姿も見えなくなっているときいた。
これまで小型の魔獣も一匹も見なくなると言うことはなかった。
魔獣がいないから安全と言うわけではなく、原因不明なので警戒が必要だろう。
初日は念のため、森の湖近くを拠点に山側を探索してみる計画だ。
本当に魔獣が現れなければ、拠点を更に奥へ移し山の中も探索したい。
近衛兵7名と共にノクト兄上から森の様子を聞き4日間の野営の予定で準備を整えていたのですぐに出発する。
人数も荷物も討伐隊よりも少ないので昼過ぎに出発し、日が暮れる頃、湖に着き野営の準備をする。
明日は朝から山のふもとへ向かい調査をする予定だ。
食事を済ませ、見張りを交代で立て休む。
日が昇る少し前、早めに起き交代で水浴びをして目を覚ます。
朝食も済ませてから荷物を全てまとめる。
空が白み始める頃山へ向かうと、やはり魔獣は一匹も現れない。
一体何が起こっているのか。
山に入り少しずつ進みながら探索するが、相変わらず魔獣は出ない。森からそう離れていないからかもしれない。
植物も目新しいものはなさそうだ。
拠点を山の入口近くに移す事にして、もう少し探索を続ける。
魔獣はいないが、野生の動物達を森よりも多く見かけるようになった。
やはり山は豊かなのだな。
山に人はほとんど入らないので道はない。
もう少し奥へ行くと馬で進むのは難しいだろう。
今日は馬で進める範囲を広く見てまわり、明日はまたこの辺りまで馬で来て、さらに奥へ進むためこの先は歩きになるだろう。
やまの傾斜もあるので中々に大変そうだか薬草を見つけるためだ。
しばらく探索した後、山の入口近くにテントを張り野営の準備をする。
明日は更に体力を使うことになるだろうから見張りの順番を決め早めに休むことにする。
夜の森は息を潜めているようで活発だ。
今夜は山も近いから様々な気配を感じられる。
昼間みたリスや小鳥、ウサギなどの小動物達。その可愛らしさ故に密猟者に狙われてしまう。
あれほど小さく可愛い動物達が魔獣化してしまう程の苦しみを与えてしまうのが自分と同じ人間かと思うと吐き気がする。
今回探しているものの1つにリライという万能薬になると言われている植物がある。
書物によると、欠損部位も治るほどだとか。
それを魔獣化してしまった動物達に与えたら元には戻らないだろうか。
どうにか奪われた子供を取り戻しても、魔獣化してしまった親の元に返す訳にはいかず、結局魔獣は討伐され、子供は動物を保護する施設で人間が預かることになる。
ある程度成長したら森へ返してやるのだが、親を奪ってしまった罪に代わりはない。
過去に動物保護施設の職員が貴族と結託し、まだ小さい動物の赤ちゃんや子供達を横流しして私腹を肥やしていたという不正もあった。
その時はノヴァルト兄上が、不正に関わった職員全員をクビにして、主犯格の貴族と動物達を不正に買った貴族を降格の上、相当な額の罰金を払わせたそうだ。
罰金を払えない貴族は屋敷も全て売り払いその金を持って姿をくらませた者もいたらしい。
魔獣化した動物を元に戻せないか…………今まで何度もいろいろな分野のもの達が考えてきた事だ。
そして実現できていない。
そもそも密猟者をどうにかしなければならないのだが、捕まえてもまた新たな密猟者が現れきりがない。
リライは絶滅してしまったとされている。
これも金になる、と乱獲した人間のせいだ。
だから誰も考えもしなかった。
もし、書物にある通りの効果があるならば、そんな奇跡のような事が起こるなら、魔獣化した動物にも何らかの効果が期待できるのではないだろうか。
リライがまだたくさん生えていた頃、こう考えた者もいたかもしれないが金にならない研究をするより、より多く金に変える事を考える者の方が多かっただろう。
リライが無くなってしまった今にいるのが悔しい。
だが諦めてはいない。探していないところはまだたくさんある。
もし、見つけられたら気を付けなければ。
また人に取り尽くされてしまうだろう。
だから僕はまだ、この考えを誰にも話してはいない。




