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あ――――――――――――――……………………
まずいんじゃないかな……?すっかり忘れてた!
とりあえず微笑んでおく。日本人であり社会人である。
慌てたら余計な事を言って詮索されそう。
当たり障りのないお話をしよう。
「グリアは本当に立派な馬ですね。馬の神様みたい」
フフフと笑いながらいうとオリバーさんもフッと笑い
「皆が怖がるのは神だからかも知れませんね」
怖がる? 怖がられているの? あんなに人懐っこいのに?
「他の馬よりも大きいんです。私も他の騎士達よりも大きいので」
なるほど、オリバーさんは騎士様なんだね。
「だから私も怖がられてしまうのです……特に女性には……」
少し寂しそうにいう。
何て事だ紳士な騎士様が傷心していらっしゃる!
「みる目のない人を振り向かせる必要はないと思います」
オリバーさんが少し驚いた顔をしてこちらを見る。
私は頷く。そりゃそうでしょう。驚くことはない。
「……トーカ……さんは怖くはないのですか」
もちろん怖くはない。なんせ3mの巨大熊と対峙した経験があるのだ。
「鍛えぬかれた身体はその人の努力の証です。グリアが美しく健康でいられるのも大切にお世話をされているからでしょう。努力ができて動物を大切にできる人がどうして怖いのか私にはわからないです」
だからか。何となくずっと私に怯えているというかだいぶ気を遣われている気がしていた。
女性にはいつもこんなに気をつけて接しているのかな。
それはとても疲れる事じゃないのかな。
「私は始めから怖いなんて思っていないからそんなに気を遣わないで、お互い自然体でいかない? オリバー」
彼は一瞬驚いたように目を見開き、その後クシャリと泣き笑いのような顔になり嬉しそうに笑う。
……っ可愛いじゃないか……私の母性が刺激される。
「私は…………俺、そんなこと言ってもらえたの初めてだ。ありがとう。トーカ」
母性が溢れかえって、思わず立ち上がりヨシヨシとオリバーの頭を撫でてしまう。彼には幸せになってほしい。
撫でながらやってしまったと思ったがオリバーもされるがままだからいいか。
さて、この手をどうやって引っ込めようかと考えていると、風が吹き長い髪で視界がふさがり目を瞑る。
何も見えなくなったとたんバランスを崩す。
「きゃっ!」
「うわっ!」
転びそうになった時、唯一の支えであったオリバーの頭に捕まる。そしてそのまま倒れる……というか押し倒してしまった………
頭を打ってしまうと思いオリバーの頭を抱き締める。が、オリバーが頑張ってくれてゆっくりと倒れる。
素晴らしい筋肉だ。
「オリバー! ごめんなさい! 大丈夫!?」
押し倒した体勢のままペタペタとオリバーの顔と頭の確認をする。
顔が赤い……どこかぶつけた!?
「大丈夫だよ。ありがとう」
にこりと笑い私の髪に指を通しながら答える。
オリバーの表情が柔らかくて………
何か急に恥ずかしくなってきた。
オリバーが私の背中に手をまわし、私を支えてくれながらゆっくり起き上がる。
「フフフ……鍛えていてよかったね」
何となく可笑しくてこんなことをいうと
「確かに!」
あははと彼も笑う。
三毛猫さんを見るとやれやれと言いたげな目でこちらをみている。
グリアは……なんかモグモグしてる。
三毛猫さんと二人きりもいいけど誰かと一緒にご飯を食べるのも楽しいものだ。
こんなハプニングがありながらも思いの外楽しい夕食は終わり、オリバーの一言で現実に戻る。
「家まで送る」
「………………………」
忘れてた……何も考えていなかった!
迎えが来ると言っても迎えが来るまで一緒に待っててくれそうだし……街までと言ってもついでだからと家の前まで送ると言いそう……紳士だから………
あんな話も聞いちゃったし断りにくいよぉ……どうしよう!
しかもベール被ってないし……
三毛猫さんを見ると、どうするの? と言いたげなクリクリな可愛い目でこちらをみている……どうしよう三毛猫さん……可愛い……
ゆっくり片付けながら思い付いた。
教会へ送ってもらおう。住んでいるとは言わずに。
教会は町外れにあって街中までは行かないし人とすれ違う事もないと思う。特に今夜は街中お祭りだ。
暗くなってきたから万が一誰かとすれ違ってもこの髪も目立たないだろう。きっと。
それにもし、教会に住んで居ないとバレてもあの時はお祈りに寄ったと言える。
よし! そうしよう。
お皿にバレないようにクリーンをかけてバックにしまう。
「グリアに乗ってみるか?」
私、馬に乗ったことないよ
「私、馬に乗ったことないよ」
大事なことは声に出して言おう。
「俺が支えるから大丈夫だ。ゆっくり帰ろう」
グリアは私が知っている馬よりもだいぶ大きい。
オリバーが乗るにはちょうどいいけど、私が跨がるには……
だいぶ痛くなりそう……と考えていると
「トーカは前に横向きに座って後ろから俺が支える」
そうか……跨がらなくていいのか………ならば!
とりあえずグリアにお願いする。
「グリア、私も乗せてもらっていい?」
私の肩に顔をスリスリ。くすぐったいけど可愛い!
再び撫で回す。可愛い……可愛い!
気が済むまで撫でさせてくれた。
気が済むまでオリバーも待っていてくれた。
「よろしくお願いします」
オリバーとグリアに言うとオリバーがグリアに跨がり、こちらに大きな手を差し出す。
手を取るとあっという間に引き上げられる。何だか子供になった気分。
思ってたより高い!……そして……思ってたより近い……というか密着しているような……たくましい……は、恥ずかしい……
「三毛猫さん!」
三毛猫さんは華麗なジャンプで私の膝の上に着地する。
お見事です。三毛猫さんを撫でながら気持ちを落ち着かせる。
いざ……教会へ―――――――――




