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ノクトとノシュカトに行って来ます、と言い三毛猫さんとノバルトと一緒にこちらへ向かっている魔獣達の元へ向かう。
王都に向かい確かに血の跡が続いている。ノバルトも確認して頷く。
ここで血の跡を消してしまいたいところだけれどそれでは魔獣達がどこへ向かってしまうかわからなくなってしまう。
王都の上空を抜けると月明かりに照らされた平原が続く。
サワサワと気持ちのいい風が吹く……
こんなに静かな夜なのに…………
残酷な方法で付けられた赤い線をたどり三毛猫さんとノバルトと共に進んでいく。
不意に悲鳴のような咆哮が頭に響く。
ノバルトには聞こえていないようだけれども私は……頭が割れそうに痛い…………それ以上に胸が苦しいっ……
突然苦しそうに涙を溢す私を見てノバルトが驚いている。
三毛猫さんはじっと先の暗闇を見つめてから私の側まで来て寄り添ってくれる。
ノバルトが私を抱きしめて耳を塞いでくれる。
何かを察してくれたらしい。
少しすると咆哮は収まり静かな夜に戻る。
落ち着きを取り戻した私をみてノバルトが安心している。
「トウカ、大丈夫か」
「うん、ありがとうノバルト、三毛猫さんも。もうすぐ魔獣達の群れが見えてくるよ」
そう言ってしばらくすると真っ直ぐこちらへ向かってくる黒い群れが見えてくる。
ノバルトが私の手を握り
「一緒に行くよ」
と静かに言う。
私は頷いてそれから三毛猫さんを見ると三毛猫さんも
私の足元で落ち着いている。
「みんな危険だと思ったらちゃんと逃げてね」
わかった、とニャ――というお返事を頂けたので先へ進む。
魔獣達の姿が見えてくる。
魔獣化して元の大きさよりも巨大化してしまった熊や猪、狼の魔獣もいる。
大きいのに極端に痩せてしまっているコもいる。
コリンヌさん達が話していた眠らせていたコ達とはこのコ達とその子供達だったのか。数も十分揃っているとも言っていた。
2つの国を攻めるには……ということ…………
魔獣の群れの真上へ移動する。
魔獣達も何かを感じ歩みを止めてこちらを見上げている。
悔しいよね……ごめん……ごめんなさい……
私達の周りに光の粒が舞い魔獣達に降り注ぐ……
どうか……せめて安らかに……
光の粒が暖かい光を放ち彼らを包み込む。
魔獣化した動物達の気持ちが流れこんできてまた涙を流す私をノバルトが後ろから抱きしめてくれる。
半分ノバルトが引き受けてくれたかのように気持ちが少し軽くなったような気がする。
それからみんな一瞬元の姿に戻った……たくましくて美しくて可愛い姿…………光の粒と共に消えてしまった……
涙が止まらない……けれども赤い線は続いている。
この群れからはぐれても線をたどってこちらに向かっているコも多分いる。進まなければ。
やっぱり点々と群れについていけなかったコ達がいる。
手足が片方失くなっていたり、痩せすぎて動けなくなっていたりみんなボロボロで……それでも前へ進もうとしている姿が……悲しい……
浄化を続けながら進んでいくと途中待機を命じられ、本隊との戦いをすり抜けた魔獣達と戦った騎士団の分隊が見えた。
ケガ人がたくさんいる。おそらく死者も。
みんな疲れきっていて動けないみたい……とりあえず空からみんなにクリーンとヒールをかけて先を急ぐ。
オリバー達のいる前線に近づいて行くにつれてまた魔獣達が増えてきている。
……どうして…………
「トウカ、君はこのまま山を越えてリアザイアの城へ帰って欲しい。誰も責めたりはしないしむしろそうして欲しいと思っている」
「どうして?」
「この先を……トウカには見て欲しくない」
珍しく強い言い方をするノバルト……
本当にそう思っているのだろうけれど……ごめんなさい
「私はこのまま……進むよ」
後悔するかもしれないけれど、今は私の後悔よりも魔獣化してしまったコ達の苦しみを少しでも安らかな終わりに変えてあげたい。
それにオリバーにも……ガイル様や他の騎士団にもまだ会えていない。
……わかった、とノバルトはそれ以上何も言わずに頷いてくれた。
魔獣達を残らず浄化しながらしばらく行くとたくさんの灯りが見えてきた。
暗い中での戦いは不利になるからと騎士団が燃やしている松明だ。
魔獣達に応戦しているリアザイアとザイダイバの騎士団が見える。
倒れて動かない騎士達もいる。
すり抜けて行く魔獣の数も増えている。
なぜ……国境の街の方から魔獣達が途切れることなく向かってきている。向こうに何かあるの?
そちらへ行こうとすると
「トウカッ……私も行く……」
? ノバルトと三毛猫さんと一緒に向かう。
そう離れていない所にそれはあった。
大きな……とても大きな落とし穴が周辺にいくつかある。
ノシュカトが落ちたものと似ている……底には落ちた者が大ケガをする仕掛けがされている。
動物達を怒らせておびき寄せてこの大きな穴に落としケガをさせて閉じ込めていたのだろう。
穴の中で蠢く魔獣達……
切り倒した木を数本そのまま穴に斜めに立て、魔獣化した動物達が出て来られるようにしていたみたいだ。
けれども魔獣の多さに耐えきれなかったのか木が折れてしまって魔獣が落とし穴に閉じ込められてしまっている所もある。
ザワザワと込み上げる怒りと動物達の怒りが混ざりあい一瞬意識が途切れる……
「トウカ……」
ノバルトに呼ばれハッとする……
しっかりしなければ……このコ達を浄化したら騎士団の方に向かう魔獣はいなくなりそう。
私達は穴の上までいき浄化をしていく。
痛々しい姿に子供を奪われた怒り人間への憎しみ……胸が痛い……自分の怒りのように感じて怖くなる。
再び騎士団の方へ向かうと……見つけた!
オリバーが見えた!
グリアから降りて魔獣と戦ってい……る…………
……え?…………うそ……っ……
オリバー……オリバー左腕がない……? 嘘だ……嫌だっ……
涙でよく見えていないだけ……ここから見えないだけかもしれない!
急いで近づいてみるけれど……左腕は咬み切られていて……
魔獣化してしまった狼に剣を握っている右腕も咬みつかれて……血がたくさん……出ている……
足元には小型の魔獣達も噛みついている。
このままではオリバーが……死んでしまう……
ガイル様も近くにいるけれど他の騎士様達もそれぞれ対峙している魔獣で精一杯で誰かを助ける余裕がない。
騎士団が押されている……嫌だ……こんなのはもう……
オリバーの大きな優しい手……大好きなのに……
ポロポロと泣きながらオリバーの側までいく。
オリバーに咬みついている狼の魔獣にそっと触れる。
怒りが伝わってくる……
ごめんね……勝手なのはわかっているけれど大切な人なの……お願いだから離して……
狼は唸りながらも口を開けてくれた……小型の魔獣達も離れてくれた……ありがとう……優しい子達……
それから私は願う。
光の粒が地を這うように広がっていきフワリと浮かび上がり魔獣達を浄化する。
ノバルトが流れ込んでくる魔獣達の感情に震える私を抱きしめて一緒に受け止めてくれる。
オリバーに咬みついていた狼も元の姿に戻ったのが一瞬みえて光の粒と共に消えていった…………




