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扉を開けると一瞬静かになりすぐにセオドア殿下に気が付いたご令嬢方がキャーキャーとお上品に騒いでいる。
それから隣の私に気が付いてヒソヒソと話し始める。視線が刺さるってこういうことか……
けれどもそれも一瞬でまた扉が開くとさっきよりも大きなご令嬢方の歓声……リアザイアからのお客様がご入場。
助かった。皆さんの注意が逸れた。
殿下三兄弟が騒がれるのはいつもの事だけれど、オリバーの人気も凄い。本人が一番驚いて戸惑っているかもしれない。
さすが実力主義の国だけあってたくましい男性も人気があるみたい。
騎士団長のガイル様もオリバーと同じくらい大きいしたくましい。
そしていつの間にか会場にいたリュカ様とノシュカトがお話をしている。
その周りをなかなか近づけないご令嬢方が囲んでいる。
その後、シュゼット様も到着されて私はご挨拶に向かった。
「初めまして、シュゼット様。留学生のノーマ・クロエルと申します」
シュゼット様は私を見つめ、コクリと頷きご挨拶を返してくれた。
私だと気付いている。
後ろにはコリンヌさんとティナ様が付いていたけれど、コリンヌさんからは探るような視線を感じ、ティナ様からはあんた誰よ、みたいな視線を感じた。
お二人とも私がノアだと気付いていない……ティナ様あんなに一緒にいたのに……
それからシュゼット様がこれからリアザイアの王子様方と騎士団長にご挨拶に行くので一緒に行きましょうと誘ってくれた。
ノバルト達の元へいき、シュゼット様とティナ様がご挨拶をする。
コリンヌさんは……いつの間にかいなくなっている。
私もご挨拶をしようとノバルトを見ると彼もこちらを見ていて目が合う。
正装のノバルトが素敵過ぎて鼓動が早くなる。
平静を装い設定通りのなまえを名乗るとノバルトも初めまして、とニコリと微笑む。
私の後にもご挨拶をしたいご令嬢方が並んでいるし、あまり親しげにも出来ないのでノクトとノシュカトとオリバーにも同じようにご挨拶をする。
みんなきちんと王子様や貴族をされていて何だか少しだけ遠くに感じて…………少しだけ寂しい…………
それからシュゼット様と一緒に席に着く。席は特には決まっていないけれど、何となく爵位が高い順にみなさん座っている気がする。
王族と一緒よりは目立たないけれどシュゼット様と一緒も目立つ気がする。
シュゼット様は留学生のお世話を任されているという体で私の代わりに周りの方の質問に答えてくれたりお喋りをしてくれたりしている。
皆さん席に着きエリアス陛下がご挨拶をする。お顔は隠したまま。食事も顔を隠したままできるのかな。
食事は……ほとんど食べられなかったからお酒を飲んでしまった……向かいに座っている男性はたくさん食べている……
女性達はやっぱりコルセットのせいであまり食べられないみたい……それでも慣れているからか私よりは食べられている気がする。
うらやましい。
ほとんど食べられなかった食事も和やかな雰囲気のまま終わり、男女別々の部屋に別れてお酒を飲んだりタバコを吸ったりお喋りをしたりするみたい。
私は外の空気が吸いたくなりそっとバルコニーへ出る。
お酒で火照った身体に夜風が気持ちいい……
みなさん相変わらずだったなぁ。こんな穏やかな時間が続くとこれから争い事が起こるなんて信じられない。
そんな事を考えていると後ろに気配が…………
そこにはドレスで着飾ったご令嬢が5人ほど立っていた。
全員知らない…………
「貴方、セオドア殿下とはどういう関係なのかしら?」
囲み取材が始まった……名前も名乗らずに……
「何の関係もございません」
キッパリと言っておこう
ご令嬢方がえっ? と戸惑っている。
「私は留学生なのでそれに関してはこちらの国にお世話になっておりますが、殿下とは先ほど扉の前で偶然お会いしただけです」
少し強引だけれどもお酒の勢いと空腹のイライラが重なり気が強くなっている。
ご令嬢方はそんなことある? みたいな反応だったけれどセオドアの日頃の行いがアレだからか、セオドア殿下ならあり得るかもとお話がまとまったみたい。
ご令嬢方は結局そのままご挨拶もなくお喋りをしながらどこかへ行ってしまった。
それにしてもそろそろ限界かも。
コルセットに慣れていない上に空腹……お酒も飲んでしまったし気持ち悪くなってきた……
セオドアが用意してくれた部屋に戻って着替えよう……でも1人では無理……
酔っている上に気分が優れない状態で風魔法をうまく使えるかな……とにかく今は部屋に戻りたい。
そんな事を考えながら廊下をフラフラと歩いているとノバルトが向こうから歩いてきて私に気が付いた。
「トウカ? 顔色が悪い……大丈夫か?」
久しぶりに呼ばれた自分の名前とノバルトの声に何だか安心してしまってポロポロと涙が溢れる。泣き上戸ではないはずなんだけれど……
どうしたの? と聞かれ
「コルセットが……ご飯食べられなかった……1人で外せない……」
しくしくと訳のわからない事で泣いている私の手をノバルトが引いて私の部屋まで送ってくれた。
すぐにでもコルセットを外して欲しい私は誰か呼んでくる、というノバルトの手を掴み
「お願い、外して……」
……酔っている。ノバルトもわかっているからか
「しかし……」
私も酒を飲んでいるのだが…………と呟きながらも泣き止まない私を見かねて背中の紐を解いていく。
全てほどくと背中があらわになる。
呼吸がしやすくなりホッとする。
ノバルトはすぐにタオルをかけてくれて着替えておいで、と言い一度部屋から出てくれた。
ワンピースに着替えて少し落ち着くとノバルトにしてしまった事を思いだし恥ずかしくなる。王子様に何をさせているんだ私は……
謝らなければ……とドアをそっと開けるとノバルトの他に、ノクトとノシュカト、オリバーとセオドア、シュゼット様までいる。
みんな私に会いにこっそり抜け出して来たらしい。
……こっそり抜け出せるメンバーじゃない気がするけれど……
晩餐会でテーブルにあったご馳走も持って来てくれている。
「トーカお腹、空いてるよね?」
天使ノシュカト!
いろいろな事が嬉しくて泣きそうになる。
いや、泣いてしまった……やっぱり酔っている。
そんなにお腹が空いていたの? とノシュカトに気の毒そうに言われた私を見て爆笑するノクトとセオドア…………
この2人…………似ているかも……
オリバーはたくさんお食べと言わんばかりにせっせとご馳走をお皿に乗せてくれている。
ノバルトは優しく微笑んでくれて、シュゼット様は慣れない場で疲れたでしょう、と労ってくれた。
ここでリアザイアのみんなにはノアとノーマ・クロエルと言う私の偽名を知られ……おそらく知っていたと思うけれど……
そしてセオドアとシュゼット様にトウカという名前を知られることになった。でも2人になら大丈夫。
今は名前だけ……他の事を話すかどうするかはまた後で考えようと思う…………




