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3 瓜二つ

「さて、それじゃあ少し確認させてもらうぞ」


 俺が令嬢に近づくと、メイドが構えた小刀に魔術で雷を走らせた。


「なんだよ? 助けてやっただろう」

「感謝しております。ですがお嬢様に手を出すのはやめていただきたい。女をお求めでしたら、私がお相手いたします」

「は? いや、そういうのではないからな」


 人間としての娯楽を理解するにあたって、性行、食事、睡眠を積極的に行うようにはしているが、だからと言って誰彼構わず襲うほど性行に熱中しているわけではない。


「マーガレット。大丈夫です」

「しかしお嬢様」

「どのみち私達に彼を止めることはできません。違いますか?」


 包帯令嬢の至極真っ当な意見に、ようやくメイドは刃を下ろした。


「お嬢様に危害を加える気はないのですね?」

「ああ」

「分かりました。その言葉を信じます」


 メイドが道を開ける。俺はさっそく包帯令嬢へと近づいた。


「それで私にどのようなご用件でしょうか?」

「いや、お前に用と言うよりは……」


 顔と顔が触れ合わんばかりに近付くと、令嬢は後退しそうになった上半身を意志の力で押し留めた。


 う~む。やっぱり似てる。似てるのだが、顔に巻いた包帯のせいで自信が持てない。


「邪魔だな、これ」


 包帯を引きちぎると、その下から現れたのは腐敗した肉だった。


「いや! み、見ないでください」

「お嬢様。くっ、離れなさい」


 メイドが俺と令嬢の間に割って入ってくる。


「少し大人しくしてろ」

「なっ!? こ、これは?」


 魔術で作り出した黒い触手でメイドを拘束する。性行を主題にした本によく出てくるので憶えてみたのだが、今みたいに脆弱な生物の動きを止めるのに意外と便利で重宝している。


「マーガレット!? おやめください。貴方は何もしないと言ったではありませんか」

「お前には何もしないと言ったが、メイドに手を出さないとは言ってないぞ」


 触手を本来の用途として使ってみる。黒くて太い触手がメイドの全身を這い回った。


「ひゃっ!? やっ、そ、そんなところに入らないで……っく、お、お嬢様、お逃げください」

「ああ、そんな。私が代わりになります。ですからどうかマーガレットを解放してください」


 別にこの二人の都合を考慮してやる必要など俺にはないのだが……うーむ。この顔で頼まれると素直にいうこと聞きたくなるな。


 もう殆ど確信していたが、一応試してみることにする。


「分かった。メイドは解放するからその代わり少しおとなしくしていろ」

「は、はい」


 何やら覚悟を決めた様子の女の顔を両手で挟む。


「ひゃっ!?」


 軽く魔力を流して女の状態を調べてみた。やはりこの肉体の変形は呪術の一種のようだ。顔だけではなく服の下の肌も腐食したり、変形したりしている。女から漂うかなり強めの香水は腐った肉の匂いを隠すためなのだろう。


「……ついでだ。全部治してやるか」

「え? あっ!? な、なに? やっ……あっ、ああああ!!」


 急激に活性化する肉体。新生に等しいその感覚に令嬢が身をくねらせる。メイドが何やら叫んでて煩いので、その口に触手をぶち込んだ。


「よし。こんなものか」


 女の体を蝕んでいた異常は全て完璧に治した。


「ハァハァ……私に、んっ!? い、一体何をしたのですか?」

「んっ!? んんっ……ぺっ……ハァハァ……お、お嬢様……お顔が」

「え? 顔?」

「も、もし。そこのお方」

「もし? ああ、もしもし?」

「え? いえ、あの、非礼をお詫びします。ですので、どうか、どうかお離しください」


 やたらと必死になって懇願してくるので解放してやった。メイドは令嬢の前で短剣を鏡の様にかざす。刃の中で令嬢の紅い瞳が見開かれた。


「嘘!? こんな、ああ、こんなことが。マーガレット、顔が、私の顔が元通りに」

「そうですお嬢様。呪いが、呪いが消えております」


 何やら涙ぐむ二人。恐らくこれは感動の場面というやつなのだと思う。さっさと用件を済ませたいがこういう時は待つのがお約束らしいので、少しだけ時間をやることにする。一秒経過……十秒経過……あ、もう無理。


「取り込み中悪いが、ちょっとこっち見ろ」


 再び令嬢に近づいて、綺麗になった顔をこっちに向けさせる。今度はメイドも何も言ってこなかった。


「ああ。やっぱりな」

「……あの、私の顔に何か?」

「お前、リーナの身内か何かか?」


 呪いを消してやった令嬢の顔は、つい先日別れたばかりの教え子に瓜二つだった。


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