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25 触媒

 速いですね。


 襲い掛かってくる男の様子はどう見ても尋常ではない。歯が砕けんばかりに噛み締められた口からは泡がぶくぶくと溢れており、左右の瞳はいったいどこを見ているのか、それぞれが別々の方角を見つめていた。


 明らかに正気を失っている。なのにその身のこなしはまるで獣の如き俊敏さだ。


「すみませんが無傷での拘束は諦めます」

「GAAAAAA」


 片手で振われる上段からの袈裟斬り。力任せのそれを回避しすると同時に私は男の手首にナイフを突き立てた。そして男の握力が緩んだ一瞬の隙をついて剣を叩き落とす。


「GAAAAA」


 痛みを感じないのか、男は怯まず血に濡れた手で私を押し倒そうとする。


 力比べは止めときますか。


 ピピナほどではないが膂力にはそれなりに自信がある。だが男の尋常ではない様子を考慮して、ここは逆らわずに押し倒されーーつつも、男の腹に足をあてて回転の勢いで背後へと投げ飛ばした。


「おーい、ラーズの治療終わったよ。そっちは大丈夫?」


 ピピナが部屋に入ってくる気配がするが、今は返事をする余裕はない。思った通り、男は直ぐに立ち上がってきた。


 魔力を両足に集中して、狭い室内で一瞬だけ全力の動きをする。


「GA?」

「こっちです」


 男の両膝を蹴りで破壊する。続いてーー


「すみません」


 地面に倒れ伏した彼に追撃をかけて意識を遮断する。そこで廊下からピピナがひょっこりと顔を出した。


「あっ、ちょうど終わったところ? ん? あれ、ポポトが襲撃者だったわけ?」


 ポポト・ゴルルラ。気の良い笑みを浮かべて自己紹介していた時の彼の姿が思い浮かんだ。


「ゼニーヌに斬りかかっていました。恐らくは呪術で操られていたのでしょう」

「解呪できそう?」

「分かりません。触媒が見つかればいいのですが」


 呪術は『呪いを込めた触媒の上で寝た者を金縛り状態にする』と言ったように、特定の条件を満たした場合に発動するケースが殆どだ。そういう意味では魔術に比べて即効性は少ないが、型にはめればどのような強者でも倒しうる可能性を秘めた恐ろしい術でもある。


「操られていた彼も心配ですが、それよりも出血の酷い彼の方がーー」


 青い顔をした金髪の青年が部屋に飛び込んできた。


「リーナ様!!」

「ラーズ、怪我はもういいのですか? それとゼニーヌは?」

「体は問題ありません。ゼニーヌはフローナが見てくれています。それよりもポポトから離れてください」


 こちらに近づいてくる彼の手には抜き身の刃。


「……彼は呪術で操られていただけです」

「そうかもしれませんし、そうではないかもしれません」

「何々? それってどうゆうこと?」


 ピピナが私を守るようにラーズの前に出る。


「自分で自分に呪術をかけて暗殺をする。それで成功すればよし、失敗しても呪術をかけられた被害者として油断を誘える」

「あっ、なるほど。ラーズのくせによく考えてるじゃん」

「僕も騎士団の一員として魔女とは何度か戦ったからね。奴らは非常に狡猾で邪悪だ。そんなわけない。とか、これくらい大丈夫だろう。という人の心理を巧みに利用する」


 悪魔は不和と裏切りを誘発させる。そのことはよく分かっている。分かっているけれどーー


「ラーズ、剣王国の第一王女として命令します。剣を収めなさい」

「……畏まりました」


 ほんの少しの躊躇は見せたものの、ラーズは素直に剣を鞘に収めてくれた。


「で? これからどうする気?」

「まずはゼニーヌが使っていたベッドを調べて呪術の触媒を探しましょう。それから店主に事情を説明して、その後に移動します」

「リーナ様、今からだと夜間の移動になります」

「それくらい良いじゃん」


 ピピナの言葉にラーズはポポトと床で倒れているもう一人の護衛を見た。


「僕達はね。でも怪我人と容疑者を連れてでは……」

「あっ、そっか。どうする?」

「……分かりました。今日はこのままここに泊まります。ピピナ、フローナとゼニーヌを連れてきてください」

「了解」

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