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23 疑問

「師匠が口うるさいから、もうこれやらないと落ち着けなくなったよね」


 ピピナは片手でベッドを持ち上げるとその下を確認する。


「そうね。でもそれくらい大切なことだわ」

「ええ。不意をつかれることほど恐ろしいことはありませんから」


 冒険者として一人前にして欲しいと依頼した私達に対して、グロウさんがまず教えてくれたのは戦闘技術ではなく徹底したサバイバル技術だった。それは何も自然の中の生存術だけではなくて、街中で受ける不意打ちへの注意だったり、呪いや毒に対する対処など、とにかく勝つことよりも生き残ることに主眼を置いた術を徹底的に教え込んでくれた。そしてそれはお城で試合形式の練習ばかりしていた私達には何よりも必要なものだった。


 いつも通りの手順で部屋の中を確認すると、私達は思わず互いの顔を見合わせていた。


「えっと、これさ、どう思う?」

「どうって……真っ黒としか言いようがないのだけど」


 フローナが魔力を流せば、それに反応して壁に文字が浮かび上がった。それは巧妙に隠されていた遠視と遠音の魔術、その術式だ。


「盗み見に盗み聞き。これって僕達を狙って仕掛けたのかな?」

「あるいは偶然?」

「そんなことありますか? いえ、ないとは言い切れませんが」


 色欲に取り憑かれた魔術師が遠視と遠音の魔術を覗き目的で使用することはたまに起こる問題だ。なので私達とは無関係な悪意が部屋に仕掛けられていた可能性は否定しきれない。


「ひょっとしたらさ、ラーズが僕達の安全を考えて設置したのかもよ」

「だとしたらラーズは会わないうちにすっかり変態になってしまったのね。術式、浴室やトイレまでびっしりよ」

「うわっ。てっことはやっぱり魔女の仕業かな。ベッドの下にこんなのあったし]


 そう言ってピピナが私たちに見せたのは魔法陣が刻まれた小さな人骨だった。


「ピピナ、呪術の触媒に触れるときはちゃんとグローブをはめなさい。いくら貴方が魔術の影響を受けにくい体質だからといって魔女の呪いを甘くみてはダメです」

「は~い。じゃあ、悪いけどこれ持ってて」


 人骨がロンググローブの上へと移動する。掌のそれを見て、フローナがため息を一つついた。


「魔女が関わっているなら、やはり魔帝国の刺客かしら」


 魔女。それは悪魔と契約した人類の裏切り者。奴らは魔界に住まう邪悪なる者達の力を借りて、魔術とは異なる超常の力を駆使する。


「恐らくは。しかし対応の早さが気になりますね」


 フローナが相槌を打つ。


「私達が数年ぶりに剣王国と連絡を取って、まだそれほど時間は経っていない。にも関わらず、この魔女は護衛の行動を先回りして宿に罠を仕掛けている」

「魔女なら不可能ではない……かもしれませんが、やはりこのタイミングは気になりますね」


 そもそも何故私の存在がバレたのか。考えられる可能性はーー


「分かった。ラーズ達の誰かが魔女と通じているんだ。師匠も仲間の裏切りには注意しろって言ってたし」

「裏切りや不和を誘発させるのも悪魔の得意とすることです。迂闊なことは口にしないように」

「え~?」

「ピピナ」

「は~い。気を付けまーす」


 とはいえ、正直なところピピナの言葉を簡単には否定できない自分がいた。悪魔は人の欲望につけ込む。清廉潔白だった騎士が堕落した話は枚挙にいとまがない。


「私達、というよりもラーズ達がターゲットという線も考えられるわよ。特にゼニーヌは王妃の護衛なのだし、彼女を捕らえてよからぬことを考える輩がいても不思議ではないわ」

「なるほど。ちなみにフローナ、どんな呪術が込められているか分かりますか?」


 私の質問を受けて、紫の瞳が淡く輝いた。


「おそらくは深い眠りの呪い、それと金縛りね」

「なら目的は誘拐?」


 それならゼニーヌがターゲットという線も幾分か可能性が上がる。


「そうかなぁ。単にこいつ、僕らが寝ている間にいやらしいことするつもりだったんじゃない?」

「「…………」」


 そうであってほしくない可能性を前に、私とフローナの眉間に皺がよった。


「何はともあれ、この宿に泊まるのは止めたほうがいいでしょう。ラーズ達に言って移動しましょう。それと私達とは関係のない魔女の仕業という可能性もあるので、出発の前に店主に事情を説明します」

「そうね。それがいいわ」

「じゃあ僕ラーズ呼んで来ーー」


「ぐぎゃああああ!!」


「る……って、え? 何?」


 部屋の外から聞こえきた声はまるで獣の断末魔。


「リーナ」

「ええ。行きますよ」


 私達は廊下に飛び出した。

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