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第一話
再び開けた視界に映ったのは麦藁色の筵だった。網目まではっきり見える。どうやら横たわって眠っていたようだ。
(……眠っていた?)
ふと浮かんだ思考に戸惑う。
なぜ眠っていたのだろう? この場所は一体どこだろう? 己はーーー。
(……俺は、なんだ?)
愕然とした。自問自答して何も答えが返ってこない。考えようにも考える材料すらない。記憶がまっさらになってしまった頭を抱える。……抱えようとしたが、こつんと予想していなかった物音と肌触りがした。
「……は?」
恐る恐る視線を向ければ、そこにあったのは黒い毛に覆われた腕であり、先端には艶やかな光沢を放つ一枚の爪。所詮蹄と呼ばれるものだった。
「なっ、なにこれーーー!?」
思わず立ち上がったものの、すぐに体は筵の上に崩れ落ちる。
ぐるんと頭ごと振り向けば己の体全体が黒い体毛で覆われていて、四足獣と同じ体躯の四肢が肉体を支えきれずに倒れ込んでいた。なんとか立ち上がろうともがくが、波打った長毛に足を取られるせいか、はたまた蹄が滑るせいか上手くいかない。
「なになになに。俺、いったい。これ、なに」