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魔祓令嬢、駆ける ~駆け出しですが、がんばります~  作者: 野崎昭彦
第三夜 魔祓令嬢 対 歌劇場の魔人
8/28

闇に舞う

挿絵(By みてみん)

 かつ、かつ、かつ。

 暗い廊下に、足音だけが木霊(こだま)する。

 大友七海(おおともななみ)今田(いまだ)メリーは頼りない手燭(たしょく)を頼りに寄宿舎の廊下を歩いていた。

 劇団の寄宿舎は作りこそ新しいものの、明かりを消してしまえばしんと冷たい闇の(とばり)に包まれる。

 二人の部屋からお手洗いまではほんの二十メートルほどだが、それでも二人にとってはおっかなびっくり行かなくてはならないほどの距離だった。


「ねぇ、ちょっと怖いわ……」

「平気へいき、怖いことなんてありはしないわ」

「でも、でもさ……」

「んもう、そんなに怖がるなら、今からでも部屋に帰ればいいじゃない」


 七海は怖がるメリーにそう言い放つと、自分でも少し震えながら一歩、またいっぽと進んでいく。


「だって、部屋にはお手荒いがないじゃない……」

「だったら一緒に行くしかないの。さ、行きましょ」


 二人はおっかなびっくり、暗い廊下を進んでいく。

 やがて、手燭の光に白い布の塊のようなものが照らし出される。


「あれ……? 七海、あれ……」

「な、なんだ、ろう……」


 七海は足音を忍ばせながらその布の塊に近付く。


「七海、そ、それ、なに……?」

「これは……布、ね。たぶん、衣装に使う布だと思う」

「そっか、良かったぁ……」

「脇に避けておいて、明日の朝にでも衣装部屋に届けとこ」


 七海は廊下の脇に布の塊をどかすと、またお手洗いに向かって歩みを進めた。

 一歩、また一歩。他の部屋の人々を起こさぬよう、抜き足差し足。

 ようやくお手洗い前の常夜灯のもとにたどり着くと、二人はほーっと息を吐いた。


「やっと着いた……」

「さ、はやく済ませましょ」


 二人がお手洗いを済ませて再び廊下に出てくると、さっき脇にどかしたはずの布の塊が消えていた。


「あれ? 誰か拾ったのかな?」

「そうかも知れないわ。あたしたちがお手洗いにいる間に、通りかかった誰かが持っていったのよ」


 二人は不思議そうに首を傾げながら、部屋までの道程(みちのり)を引き返していく。

 暗い廊下はしん、と静まりかえっている。

 ふと、七海は物音を聞いたような気がして足を止めた。


「な、七海さん?」

「あ、うん……さっき、なにか聞こえなかった?」

「なにか……って、なに?」

「うん……なんだろう? なんか、衣擦(きぬず)れのような……?」


 七海は不思議に思って後ろを振り向いた。

 しかし、当然ながらそこにはしんと静まりかえる廊下があるだけだ。


「うーん……たしかに聞こえたんだけど」

「もう、早く部屋に戻ろう……」

「そうね……」


 七海とメリーは周囲に目を配りながら、部屋に向かって再び歩き出した。


「ねえ、今度の演目、自信はどう?」


 不安を紛らわせたいからか、メリーが急にそんな話を振ってきた。

 劇団の次回公演では、先の戦役における悲恋物語を上演する予定だ。

 その、主人公と相思相愛になる敵国の御令嬢役を、七海が射止めたのだった。


「うーん……まだわからないな」

「でも、相手役はあの桜花(おうか)さんだし……」


 劇団の男役スターである春風桜花(はるかぜおうか)の相手役、という重圧は七海の細い肩にのしかかっていた。


「相手役が桜花さんっていうのもあって、やりがいがある役だと思うよ。それに、ヒロイン役なんてそう滅多に()れるものじゃない……でも、うまくいかなかったらどうしようって不安なんだ」


 七海は小さな声でそう言った。


「じゃあ、もしそうだったらさ……役を交換してみない? きっとあたしの方が、うまく演れると思うの」

「役の交換かぁ……。でも、そんなこと監督がいいって言うかしら?」

「まあ、普通は言わないよねぇ」


 部屋が近いせいもあって、二人はくすくすと笑った。

 その瞬間だった。

 突然、背後から飛びかかってきた白い布がメリーの体を包み込んでしまう。

 急なことで七海はつかの間唖然(あぜん)としたが、すぐにその布に飛びかかる。


「めっ、メリー!」


 七海は必死に布をほどき、まるごと包まれたメリーの顔を引っ張り出す。


「ふはっ、なな、み!?」


 息が通ったメリーが中から、そして飛びかかった七海が外から巻き付いた布を引き剥がそうと動くと、やがて布はメリーの体を離れて天井近くまで舞い上がった。


「あれって、もしかしてさっきの布……?」

「そんな! 布だけが動くなんてそんなこと、あるわけがない……」


 七海とメリーが見ている前で、布はひらひらと舞っていき、暗闇の向こうに姿を消した。

 二人には、その布を追いかけようという気持ちがあろうはずはなかった。

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