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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 七島戦役 四幕 戦の恐怖

 その日、戦いが始まった。

 始まったものは終わりがなければ続く。

 その終わりがどこにあるのかさえ分からないまま、何度も戦火が上がり、何度も人が死ぬ。

 七島は日本に敵が攻め込まないようにするために最終防衛ライン。

 インスマルトとのファーストコンタクトを果たした日から、そこを守るための戦いが続いていた。


「森次、急げ!」

「はい!」


 戦いがしばらく無かったことにより、世界的に兵の練度は落ちている。

 そんな中、士官学校を首席卒業した森次の存在は大きかった。

 テストパイロットのはず……などとは言っていられず、正パイロットと交代制で出撃を行うことになったのだ。

 事実上正規パイロットへの昇格を果たしたような状態だ。


「森次サン……整備は済んでいます、頑張ってください……!」

「ああ、任せろ!」


 だが今のコパイは樹里ではない。

 樹里は元々データ取りの為に乗っていただけで、パイロットではないのだから当然なのだが……。

 しかし、理由はそれだけではない。

 七番機墜落の衝撃により、打ち上げられた死体……。

 それがカメラの前に飛んできた瞬間、それがトラウマになって言うなればコックピット恐怖症とでも言うべき状態になってしまったのだ。

 心的外傷後ストレス障害……俗に言うPTSDとして診察を受けているが治しきることはできず、しかし優秀な技術屋を寝かしておく訳にもいかないという戦時の辛みにより、整備員として動き続けている。

 そんな樹里を見るのは、森次にとっても痛みとなっていた。

 表には出さないが、心に痛みを抱え……。

 戦いよ、どうか早く終わってくれと戦い続けるが……終わりは見えない。

 戦って勝てば次の敵が来る、それを倒せばその次が……終わり無い繰り返し……。

 先が見えないというのはそれだけで大きな負担となる。

 隣に立っていた僚友が、後ろに座っていたコパイが……。

 彼らが明日もいるとは限らないのだ。


「……」


 まるで二つ折りにされたような形で破壊され、格納庫で修理を待つ戦闘機……飛鷹二式を見る。

 勿論、搭乗者は機体ごとお陀仏だ。

 二日前には一緒に夕食をした仲間が、昨日こうしていなくなった。

 自分がいつ、こうなるかは分からない……。

 しかし逃げるように退役したところで、それはいずれ来る死を待つだけになるかもしれないのだ。

 そう思うと、戦い続けるしかこの不安を拭う方法はないと思えた。


「……う……ダメだ、倒れるな……」


 疲れによる目眩を感じ、森次は息を吐く。

 今は他に出撃できる者がいない以上、倒れてはいられないのだ。

 頬を叩き、出撃する森次。

 その背後にあるコパイ席から通信が飛んでくる。


「大丈夫ですか? 無理そうだったらすぐ交代しますからね」

「ああ、ありがとう……その時は操縦権限を委譲させて貰う……」


 返事をすると同時に、怪物の姿が見えてきた。

 基地の近くまで来られていたらしい……それだけ押されているのだろう。

 敵は海鳥と羽毛恐竜を合わせたような怪物だ。

 先制攻撃と言わんばかりに、七番機は前額部レーザー砲を放つが……回避されてしまう。

 そのまま怪物が組み付いてくるが……そこへ、すかさず頭部に付けられた無線形式のカッターを飛ばす。

 以前話していた新機軸の実弾兵器、頭部細断刃だ。

 刃は勢い良く飛び、怪物の首にめり込む。

 そのまま肉に入り込み、切り裂いていく刃……怪物はその首と胴体を二つに分けられて血を飛ばしながら命尽きた……だが、同時にその体が破裂する。

 まるでナパームのような激しい爆発だ。

 それにより機体が損傷してしまう。


「……うおっ……!?」


 怪物はただの生体兵器ではなく、捨て身の爆薬だったのだ。

 あっさり倒せたのではなく、あっさり倒された。

 全ては計算尽くだったということ。

 その狡猾な爆発により七番機が大きく飛ばされ、七島の海岸に墜落する。

 周りに人はいなかったようだが……ブースターがいかれてしまった。


「大丈夫か……!?」


 動かなくなった機体から、なんとか脱出する森次。

 そのままコパイに通信を飛ばすが……応答がない。

 もしかしたら、昏倒しているのかもしれない……そう考えた森次は本部へと通信を飛ばす。

 そこへ、樹里が走ってきた。


「森次サン!」

「樹里、どうしてここに? 整備の仕事は……」

「はあ、はあ……墜落を見たら、居ても立ってもいられなくて……」


 褒められたことではないが、しかし喜ばしくも感じる。

 そんな気持ちを森次が噛みしめたときだ。

 突如、水が跳ねる音と共に海水が二人にかかった。

 秋が過ぎ、冬が来ていたため海水は肌に刺さるような痛みを与える。

 嫌がらせにしてはたちが悪すぎるものだ。


「……誰だ!?」


 銃を向ける森次、そのアイアンサイトの中にいたのは……あの日通信を寄越した半魚人だ、それも二人居る。

 彼らの種族名を、森次は忘れもしない。


「インスマルト……」

「な、なんでここに来たの……?」

「交渉だ、大人しく我々の言うとおり、悪しき文明を捨てるならばもう攻撃はしないと誓おう」


 インスマルトはそう言い切り、腕を組む。

 だが信用は出来ないだろう、彼らは先に攻撃してきたのだ。

 そもそも、彼らの動機が不明瞭すぎる。

 それでは信用することも、受け入れることもできはしないだろう。


「ダメだ……僕にそれを決める権限はないし、有ったとしてもお前達は信用なんて出来ない」

「言っただろう、悪しき文明を育てればいずれ災厄が訪れると、もはや猶予はないのだ」

「その言葉の証拠は?」


 問いかけに、返ってくる言葉はない。

 そのままにらみ合いが続き……そして銃声が響き渡った。

 だが銃声の主は森次でも樹里でも、インスマルトの二人でもない。

 基地側から歩いてきた人物……桐山司令だ。


「なっ……! 貴様……後悔するぞ……!」

「その言葉、二度目だね……生憎と侵略者の戯れ言に興味は無いんだ」


 つかつかと歩み寄り、笑顔を崩さない桐山司令。

 何故だろう、笑顔だというのに……背筋が凍るような威圧感を覚える。

 そんな不気味さをインスマルトも感じたのだろう……桐山から遠ざかりつつ、倒れた片方の死体をもう片方が担ぐ。

 額に一発……的確な射撃だ、穴から流れている血は赤く、彼らが人類と近しい生物だということを嫌でも感じさせる。

 これで血が青だの緑だのならば、虫か何かのように感じられただろうに。


「いずれ、人類は後悔する! 我らが海の底に住まなくてはならないように、己の世界を底の底へ追いやられて初めて知るのだ! 過ちを!」

「そうなるかは後の歴史だけが知る事だよ、今どうこう言うことじゃない」


 囁くように語り、銃を構える桐山。

 今にも撃たんといった状態だ。

 彼の正確な狙いならば、きっとインスマルトを撃つことは容易いだろう。

 しかし……インスマルトは逃げ出してしまった為、予想に反して二発目が出ることはなかった。


「司令……あの……」

「お疲れ様……今回収班がコパイを助けに来るから、君は樹里と一緒に休んでいなさい」

「はい……ありがとうございます……ゆっくりさせていただきます」


 息を吐く森次。

 少し頭が熱っぽい……疲労が一気に体調不良として押し寄せて来たのかもしれない。

 そう考えながら、彼女は樹里と共に医務室へ向かおうとする。


「そうだ」

 

 だがその背中に、桐山が声をかけた。

 二人は立ち止まり、振り返る。

 すると桐山は……一つの受信器を懐から取りだし、二人に見せた。

 座標が計測されている……海中の座標だろうか。


「これは……?」

「GPS弾と連動している受信器さ、ここまでいえば分かるだろう?」

「まさか……」

「我々の反撃も近い、ということだね」


 そう、だからこそ桐山は一人しか撃たなかった。

 そして頭蓋骨により弾丸が突き抜けずに停止する確率の高い額を狙ったのだ。

 それを察する二人に、桐山はウインクする。

 そして会議をすべく、招集のため通信を行い始めた。


「……これで終わるんでしょうか?」

「どうだろう……分からない」


 荒い息を吐き、医務室へ向かう二人。

 自分のことばかりで気付いていなかったが、樹里もかなり疲れが出ているようだ。

 今にも倒れてしまいそうな青い顔をしている。

 そんな彼女と互いに支えながら医務室へ向かうが……そこは大きく荒れていた。


「……誰? また誰か死んだの……?」


 問いかける辰巳、その目は据わっており……クマができている。

 限界が来ている、と一目で分かる姿だ。

 だが彼女は首を左右に振ると、ゆっくり立ち上がった。


「……酒臭くてごめんなさい、飲まないとやってられなくて……昨日なんて、私の友人が……いえ、ごめんなさい、ダメね……もっとしっかりしないと」

「いえ……大丈夫ですか、辰巳さんも休まれては」

「良いの……私や夫が休むわけにはいかないから」


 そう言うと、辰巳は力無く笑う。

 不安だったが……しつこく聞いてはむしろ負担を与えるはず。

 森次も樹里もそれが分かっているからこそ、ここは大人しくすることにした。


「じゃあ……疲労と心労による心因性発熱がうかがえるから、この栄養剤を飲んで部屋でゆっくり寝てね……」

「分かりました、あの……ところで、無有徒さんは?」

「夫は……少しね、用事で基地を離れているの……じゃ、おやすみなさい……」


 見送られ……森次達は自室へ向かう。

 そしてそれぞれの部屋に戻ろうとするが……その時、樹里が森次の手を掴んだ。

 そして静かに涙を流す。


「……暖かい……森次サン、生きてる……」

「……ああ、生きてるよ」

「良かった……本当に良かった……ねえ、もう出撃なんてやめましょう、どこにも行かないでずっと一緒に……」


 戦いが終わり、安全な場所へ来たことで緊張の糸が切れたのだろう。

 樹里は懇願して震える。

 だが……ここではい、そうしますとは言えなかった。

 皆も戦っているのに二人で逃亡するなどできない、それに……そんなことをしてもいつ市街地まで来るか分からない戦火に震え続けるだけなのを理解している。

 なら、ここで退くわけにはいかない。


「……ごめん、それはできない」

「……ですよね」

「でも……その分、一緒に居るよ……こうして、出撃してない時は……一緒に、そうだ! 良かったら一緒に寝ないか?」


 一緒に寝ないか、その申し出に樹里は顔を赤くする。

 それもそうだろう、言葉だけ聞けば卑猥な意味だし、そういう意図がなくとも誰かと寝るのは恥ずかしいものだ。

 勿論森次にはそういう意図はない、純粋に不安なら温め合おうというだけで樹里が邪推しすぎ、ないし耳年増なだけである。


「……? どうかしたか?」

「い、いえ……では、その……喜んで……」


 顔を赤くし、もじもじしながら裾を掴む樹里。

 その姿に、森次はやはり熱があるのかと心配に思い、顔を覗き込む。

 だが樹里はますます顔を上気させ、目を逸らすのだった。

 さて……その夜彼らに何かあったのか……はたまた何もなかったのか……。

 それは神のみぞ知る、といった話。

 何はともあれ、彼らの夜はゆっくりと更けていくのだった……。

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