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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 七島戦役 三幕 先住民族の使者

 基地での暮らしが始まり、数ヶ月が過ぎた秋の夜……。

 すっかり基地に馴染んだ森次は、今日も樹里と食事をしようとしていた。

 年齢が近く、ほぼ同期の間柄ということもあって、なんだかんだ一緒に居ることが多いのだ。

 今ではそれなりに、気の置けない間柄と言える。

 そんなわけで夕食のお誘いに来たのだが……格納庫にやって来た森次は、誘いの言葉を発することができなかった。


「杏、一緒にご飯を……ん?」

「んぅ……ん……」


 どうやら、樹里は机で寝こけているらしい。

 研究で疲れているのだろう。

 森次は風邪を引くかもしれないと思い、しかし起こすのも申し訳ないので自分の軍用コートを背中に被せる。

 そして、何となくPCに目をやると、樹里がまとめている最中の研究レポートを読み始めた。


(グリッター化……?)


 どうやらまとめられているレポートは、かつて森次が卒業時の模擬戦闘で経験したことに関するものらしい。

 機体が他者の想念を集め、黄金に輝く光となる現象……。

 それを科学班はグリッター化と呼んでいるらしい。

 グリッター化のきっかけになっていると思われるのは、機体中枢部に組み込まれている白銀の水晶が如き鉱物……通称、ウルティニウムだ。

 思念に宿るエネルギー……それが実在するならばと言う前提の話だが、この鉱石にはそれを溜める力があるという。


(この鉱石を使用した機器や器具に強い感情を送ると、鉱石が特別な反応を示すことが実証された……か)


 すっかり黙読を重ね、森次は夢中になる。

 グリッター化……この現象を一度経験した身としては、気になって仕方がないのだ。

 何故あの経験をしたのか、また経験することが出来るのか。

 そして、経験したことには何か意味があるのではないか……そんなワクワクが、胸に溢れてくる。


(いずれは、ウルティニウムをより多く使った機体も考案し……最大限の力を発揮できるようにしてみたい……か)


 読みふけり、友人の夢に想いを馳せる森次。

 そんな彼女の隣で、樹里が呻き声を上げる。

 そして……顔を上げると周囲を見渡し、自分が研究中に寝てしまっていたと気付いた。


「ん……んう、あっ森次サン! すいません……寝てたんですね、せっかく来てくれたのに」

「ああ……訓練が終わってな、良かったら一緒に食事でも……と思って来た、ただ起こすのも悪いかと思って」


 ずり落ちたコートを担ぎ、森次は気にするなとウインクする。

 一方、樹里は照れながら「今保存とかするんで、ちょっと待ってください!」と焦っているようだ。

 微笑ましい光景、まさしく青春といった雰囲気だろう。

 そんな彼らを見ている者が二人居た。


「微笑ましいものだね」


 格納庫は司令室と隣接している。

 もっとも1階から3階までを突き抜けるような形になる格納庫と、2階にある司令室なので地続きではないのだが。

 まあいずれにせよ司令室からは格納庫が丸見えなので、桐山はそこから副官と共に彼らを見守っていたのだ。


「まったく……機密を晒しながら寝て……機密を覗いて……互いにたるんどる、後で説教だな」


 腕を組んで息を吐く副長、いかにも壮年の男性といった雰囲気で、桐山司令のバックボーンを知らなければ彼の方が司令官に思える見た目だ。

 彼の名は白金、元はアンチボディ戦役の時代にパイロットをしていた人物で、今は引退して副司令兼教官となっている。

 そんな彼に、桐山は笑いながら向き直った。


「お手柔らかにしてやってくれよ、彼らは優秀な次世代……謂わば希望の星なのだから」

「南名和学園のミラクルウーマンと、大三郷学園の奇跡か……」

「基地に配属されてからもシミュレーター無敗に、秀逸な研究成果の提示とどちらも頑張っている、良いことだよ……そういうわけで少しの居眠りくらい見逃そうじゃないか」


 そう言うと、桐山はもう一度二人を見やる。

 どうやら彼らは保存などを終えて食事に向かうようだ。

 その背中を見送った後……桐山は目を細める。


「確か機体慣らしはもうしてたはずだね?」

「勿論だ」

「じゃあ……そろそろいいか」


 そろそろ、その言葉に桐山が何を考えているのか察する。

 とうとうこの時が来たか、と言わんばかりだ。


「実地での訓練を行うよ、場所は東シナ海上の人工島だ」

「了解、その方向で手配を進めておく」


 手続きを行うため、司令室を出て行く白金。

 彼を見送り、桐山は壁にもたれかかる。

 そして格納庫に目をやると……光人号七番機をじっと見つめた。


「さて……運命はどうなるかな」


 ポケットからコインを取り出し、トスをする。

 しかし格納庫を見ながらだったからか、コインは大きく軌道が逸れて……手の上に戻らず、格納庫へと落下してしまった。


「おっと、これは予想外」


 割れたコインを眺めて目を細める桐山。

 その視線の先のコインは、これから良くないことが起きるという暗示にも、運命など壊せるという暗示にも思えた。



 光人号七番機は、複座式の機体だ。

 故に、基地内での慣らしにおいては一人で搭乗しても、外部演習や実戦においてはコパイロットを乗せて二人で操縦することになる。


「よろしくお願いしますね、森次サン!」

「ああ、よろしく頼む」


 今回コパイロットとして同乗することになったのは、データ取りを行うため……そして息が合う相手ということで、樹里だ。

 樹里ならば一緒に行動しやすいということで、森次も内心安堵している。

 一方……樹里は、大好きな機体に乗ってデータ取りをするという状況に、心躍って安心どころではないようだ。


「兵装格納庫、オープン! 兵装格納庫、オープン!」

「リフトアップ開始!」

「射出機構展開、隔壁良し、耐衝撃・耐煙・耐熱良し!」

「テイクオフ準備完了!」

「アイ・アイ・サー! 七番機(マークズィーベン)……テイクオフ!」


 アナウンスに返事をし、森次はコックピット内の計器類などを指差し確認した後に、機体を起動させる。

 すると……射出に合わせて背部ブースターが起動、初速から段々と加速して目的地へ飛び始めた。


「これが……人型で空を飛ぶ感覚、戦闘機と比べて重いな……」

「でもその分、戦闘機にはないパワーがあるんですよ」


 パワー、それはまさしくアンチボディのような怪物と戦うのに必要なものだ。

 わざわざ人の形を模すに足るものと言えるだろう。

 そう考えていると、コックピットに通信が飛んできた。

 司令室からだ。


「光人号はかつて稼働時間3分の問題を抱えていたが……七番機は新型半永久機関を搭載することで、戦闘行動による激しい消耗がなければいつまでも飛んでいられる、ただし人を待たせているからね、寄り道せずに人工島へ向かうんだよ」

「アイ・アイ・サー!」


 言われたとおり、人工島へとまっすぐ飛んでいく七番機。

 数十分後……そのメインカメラに人工島が映る。

 だが、その映像を見て森次と樹里は息を呑んだ。


「……!? 人工島が煙を噴いています!」

「何、どういうことだ!?」


 ブースターをふかし、人工島のエアポートへ着陸する七番機。

 周りをカメラで見渡すが……手がかりは見つからない。

 一つ言えるのは、島は沈みかける程のダメージを受けており、危機的状況にあるようだ。

 そして……生存者は見当たらない。

 それらの報告を粛々と終えたとき……ふと、通信にノイズが走った。


「聞こえるか、地上の民よ」

「……この声は!?」

「我々はインスマルトの民、海底から来た先住民族だ」


 先住民族、そう名乗る声に森次達は目を見開く。

 どうやらオープンチャンネルで通信しているらしく、司令部からも「先住民族だと……!?」と白金の声が聞こえてきた。

 そんな驚愕をよそに、彼らの姿が今度は映像通信で割り込んでくる。

 言うなればその姿は半魚人と人間を混ぜ合わせたようなものだ。

 所謂マーマン的な完全に獣人的な姿とは違う、人肌のまま顔を伸ばして……更にヒレとエラを付けたような醜悪な見た目……。

 その姿に、樹里が絶句して「うわあ」と呟く。


「その先住民族が何を、まさか島を潰したのは……」

「そう、我々の兵器だ……これは警告とデモンストレーションだと思って欲しい」


 警告、デモンストレーション。

 いったい何のためなのか、そう誰もが疑問に思う。

 その瞬間……海から大きな何かが出てきた。

 二足歩行する巨大な海洋生物……言うなれば鯨が変異した化け物のような何かだ。

 この手の生物に、白金は見覚えがある。


「……アンチボディ……!」

「お前達はそう呼ぶのか、これは私達の生物兵器……この力で、その兵器を潰させて貰おう、応じなければ全ての場所がこの島のようになる」

「……!? 何故だ!?」

「全てはお前達の発展を抑止するため、このまま発展が続けば世界はいずれ滅びる……悪しき文明によって」


 言葉と共に、怪物から生体ミサイルとでも言うべき何かが発射される。

 森次は七番機めがけて放たれたその弾を回避しようとするが……咄嗟のことにブーストが追いつかず、片足を被弾してしまった。


「うあっ……!」

「きゃあああ!!!」


 バランスを崩し、人工島に墜落する七番機。

 そのカメラめがけて、衝撃で吹き飛んだ死体が飛んでくる。

 もはや万事休すなのか、この訳がわからない警告を受け入れなくてはいけないのか、死ぬしかないのか。

 そう思った瞬間、森次は息を呑み涙を流した。

 死にたくない、死ぬなんて嫌だ。

 気持ちはどうやら樹里も同じらしい。


「いや……生きたい……!」


 震える樹里、そのか細い声を聞きながら森次は機体を何とか動かそうとする。

 だがダメージにより、動かせるのは頭部ぐらいだ。

 もう諦めるしかないのか、そう思ってしまう。

 だが……。


「侵略者の戯れ言だ、屈するな!」

「そうだ、そいつらが十数年前までアンチボディをけしかけてきた連中なら、滅ぼされるだけだぞ!」


 司令室からの通信に、森次は歯を食いしばる。

 そして……頭部を動かしてカメラアイの中心に怪物を収めると一つのスイッチを押した。


「やれ……七番機!」


 森次の叫び、樹里の生きたいという気持ち、司令からのエール、副長の怒り。

 それが集まったのだろうか……七番機が光を放つ。

 そして、前額部に搭載されたレーザー砲が、怪物を撃ち貫いた。


「……やった……」


 呟く森次の視界……その先で、怪物が爆発する。

 後悔するぞ、という不吉な声を残して……。

 だがその声に対する不安も恐れも、今は勝利の喜びと生きている嬉しさで打ち消されていた。

 それだけ、生き残ったという経験は大きいのだ。


「まさか、ただの実地訓練がこんな事になるとは……森次、君の予想していた不安は的中したようだ……今ここに、世界はアンバランスな領域へと再突入した」

「アンバランスな、領域……」

「何はともあれお疲れ様……今回収を向かわせている、基地に戻ったらゆっくり休んでくれ」

「はい……」


 返事を行い、息を吐く森次。

 今は疲れを隠す元気すらない、礼儀とは体調や気分が良くてこそ重んじられるものなのだ。

 それは樹里も同じようで、震えながら涙を流している。


「見ちゃった……カメラにぶつかった死体……目が、あっちゃった……」


 震える彼女の言葉に、森次もまた死体を思い出す。

 自分達もそうなっていたかもしれなかった。

 だが今は生きている。

 首の皮一つで繋がったのだ。

 安堵と共に、汗がどっと流れ落ちる。

 そして……ゆっくりと目を閉じると、緊張の限界からそのまま意識を閉ざすのだった。

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