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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 七島戦役 二幕 確証なき安定世界

「樹里、戻ってきたか」

「あ、どうも無有徒(ないあると)さん」


 七島基地に戻ってきた樹里、彼女を軍港で出迎えたのは一人の男だった。

 白衣を纏い、肩まで届く髪を首元で結んだ如何にも医者といった雰囲気の男……胸には医療班と書かれた隊員章がついている。

 少し神経質な雰囲気はあるが、同時に柔和な雰囲気も漂っており……悪い人間では無さそうだ。


「その娘が噂のミラクルウーマンか、無有徒綴夫(ないあるとてつお)だ、よろしく頼む」

「よろしくお願いします、無有人さん」


 握手を交わし、お辞儀をしあう二人。

 そんな中、樹里は森次に耳打ちをした。

 吐息が少し耳にかかってこそばゆい。


「無有徒さんはこの基地の医務室長なんですよ、もしかしたら今後お世話になるかもしれません」

「なるかもしれませんじゃなくて、世話にならないよう努力して欲しいがね……」


 苦笑しながら、無有徒は眼鏡を整える。

 そんな彼の元へ……一人の女性が走ってきた。

 日に焼けた肌と、色素の薄い髪が特徴的な女性だ。

 時代が時代なら、ガン黒ファッションと脱色髪と勘違いされていたかもしれない。


「あなた、搬入予定の医薬品だけど……」

「ん、ああ今行く」

「あら……そこの方は新しく来た人?」

「はい、今日から配属される森次麗です、よろしくお願いします」


 握手を求める森次に、女性が握手を返す。

 そして女性は笑顔になると、静かに一礼した。

 その手には無有徒と揃いの指輪がはまっており、夫婦であることがうかがえる。


「辰巳姫百合です、医療班の副長をしているの、夫の綴夫共々よろしくね」

「ご夫婦で一緒に仕事をされているのですね」

「ええ、それが縁で最近結婚して……職場では混乱するから夫は旧姓を名乗ってるんだけどね」


 聞いたところによると無有徒は日米ハーフで、かつては米国アーカムに有る総合大学で医術を学んだエリートだという。

 変わった苗字なのは、本来は外国語の名前を日本へ帰化する際に無理矢理日本語に落とし込んだからだそうだ。

 アメリカ……それは国内から出たことがない森次にとっては未知の土地。

 昔から読書好きである森次は、そういった場所に興味があるが……しかし余り裕福ではない家のため行けず、行ったことがない憧れの場所となっていた。

 そんな土地に想いを馳せながら、森次は静かに彼女達の話を聞く。

 辰巳夫妻……後に、辰巳ユウコ達の両親となる者達。

 この時、森次はまだ知らなかった。

 十数年の長い時が流れ、七島基地の思い出も風化した頃……同僚だったという事も忘れ、娘達に撃ち殺された彼らの死に顔を見ることになるなど……。


「さて、そろそろ医務室に戻るか……じゃあ森次……もし何かあれば来てくれ、何もないのが一番だがな」

「はい、肝に銘じさせて頂きます」

「頑張ってね、勿論体を壊さない程度に」


 敬礼し、二人を見送る森次達。

 尊敬できる医療従事者への敬意がその胸には溢れていた。

 そう、この頃の彼らはまだ尊敬される存在だったのだ。

 しかし運命とは、時とは残酷な物……。

 時間は人を大きく変え、歪めていく。

 そんなことも知らず……風はただ静かに吹くのだった。



「さ、森次サン……こっちが司令室です」

「ああ、ありがとう」


 辰巳夫妻と別れ、司令室へ進んでいく二人。

 到着後は着任の挨拶をするため、真っ先に向かっていくこととなっているのだ。


(司令は確か……桐山司令、だったな)


 (きり)(やま)(おさむ)、元宇宙飛行士であり今は基地司令を務める優秀な軍人。

 穏やかで甘いマスクが特徴だが……俗に言うウラシマ効果で若いだけで、実年齢は60近いとされている。

 そのため周囲には老獪で油断ならない人物、とも揶揄されるようだ。

 もっとも、味方である以上はその老獪さはプラスでしかないだろう。


「失礼致します」

「ああ、どうぞ……開いているよ」


 ノックを行い、中から返ってきた声は若々しい青年のものだった。

 森次と樹里はドアを開いて中に入る。

 そして、そこに居た金髪の青年に敬礼した。


「本日付で配属となりました、森次麗です」

「ようこそ……私は桐山治だ、よろしく」


 手袋を外し、握手を求める桐山。

 森次は握手を返し、彼をじっと見つめた。

 当然そうなれば、桐山の目も森次をじっと見る。

 互いに見つめ合う状態になり数秒……ふと、桐山は口を開いた。


「防衛軍はかつてこの国の花形だった、昔はアンチボディと呼ばれる怪物が出ていたからね、それはご存知かな?」

「はい、物心つく前ですが資料で存じ上げています、人類を滅ぼそうとする怪物に世界が一丸となり戦ったと」

「しかし今はそうじゃない……かつてが嵐の時代ならば、今は平和で静かな……謂わば凪の時代だ」


 アンチボディ、日本語に訳すと抗体……。

 そう称される怪物が人類を襲うという事態が十数年前まで有った。

 しかしある時を境に彼らは姿を消し、以後もいざという時のためにと防衛軍は残ったが……それから十数年、新たな戦いは未だ起きていない。

 正直な話、現在の防衛軍は所謂一つのお飾りだ。

 軍務経験という就職に使える餌を目当てに、申し訳程度に所属するという者もいるような状態……。

 正直に言って、純粋な意思で入りたがる者も少ないだろう。

 樹里ですら、入った理由は研究費用が下りるからと言う不純な動機なのだ。


「さて……君は何故、お飾り状態のこの部隊に志願したのかな?」

「……そうですね、不自然だとは思いませんか?」

「ほう、不自然か……」

「そうです、世界が謂わば……高バランスゾーンとなったこの時代、それに不自然さを感じるんです」


 不自然さ、森次は常にそれを感じてきた。

 何故長年続いた戦いが急に終わったのか、物心つく前のこととは言え……おかしいと思ってしまう。

 本当にアンチボディは全ていなくなったのか?

 彼らが打ち止めになったならその理由は?

 彼らはどこから来て、どこへ消える?

 もしかしたら、明日にでも戦いが再度始まるのではないか?

 今ある世界の均衡は突如として崩れ去ってしまうのでは?

 そうなったとき、力が無ければ自分も大事な存在も全て蹂躙されてしまう。

 そう思うと……力を得るために軍に入らずには居られなかった。


「なるほどね……気持ちはよく分かるよ」

「……」

「かつてアンチボディは人類の文明を抑制するかのように戦いを挑んできた、これは公開されていない情報だが……彼らの力は明らかに科学者や研究者に向いていたのさ、君はいい目を持っている、だから特別に教えよう」


 そう言うと、桐山はブラインドを指で動かし、窓から外を見る。

 そこはちょうど格納庫になっているらしい。

 光人号七番機……それがちょうど整備されているようだ。

 その横には、最新鋭戦闘機である飛鷹二式(ひようにしき)も並んでいる。


「敵の存在により人類は一丸となり、一丸となった人類により敵は消えた……そして争いによる淘汰がなくなり、戦いで発展した分も含めて人類の文明は飛躍的に進んだ……」

「人型戦術機械はその象徴……そう言えますね」

「ここまで来たんだ、いずれ新たな生物を人類が作り出す日も来るかもしれない、寿命問題すら消せるかもしれない、それくらいにだ……しかしそこまで進もうとも人類は力を発展させることをやめない、ではその先に待つのは何だ?」


 桐山の問いに答えられる者はいない。

 何故ならその先など誰も知らないからだ。

 発展の先に待つのは栄光?

 それとも滅び?

 何が起きて、何が得られて、何が失われるのか……。

 誰一人として分からない。

 だからこそ……。


「先が分からないからこそ、人は力を求めるのかもしれない……その先に、君や私達が不安に思うような危機が待つことを恐れて」

「恐れ……」


 恐れ、強い力はその象徴だと言うのだろうか。

 不安を拭うためには不安を拭えるだけの力がいるならば……この力は人をどんな道へ導いていくのだろう。

 そう考えながら、森次は七番機をじっと見つめる。

 この機体のテストパイロットを行うというのは、思っていた以上に責任重大なのかもしれない。

 そう考えると少し怖く……同時に、気合いも入ってきた。


「ははは、怖がらせすぎたようだ……すまないね」

「いえ……お気になさらず」


 一礼し、気にしないで欲しいと言う森次。

 そんな彼女に桐山は「真面目だな」と苦笑する。

 そして、改めて手を伸ばした。


「改めて……よろしく森次くん、これから君はテストパイロットとして機体の慣らしをして貰うことになるが、よろしく頼むよ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 握手をし直し、一礼する森次。

 不安は有るが……なんとかこの基地での生活が、問題なく始まろうとしていた。

 まだ辰巳夫妻は爆弾作りの過ちを犯さず、森次は後進育成に回らず、樹里は仲間を喪う痛みを抱えず……。

 皆、輝いている時代だった。

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