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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 七島戦役 一幕 奇跡の女西へ

 海、それは命の源……。

 全ての命は海から来た、そんな風にも言われる母なる地……。

 時に静かに揺れ、時に激しく荒れるその姿に人々は神秘性を見たという。

 海は必ずしも良い側面を持つわけではない。

 例えば害獣が上陸してくる等といったことも有るのだ。

 ワルトはその事を、内陸地の出故に本で読んだくらいだが……何故か、実感を持って知っているような気がしていた。


「ふむ……」


 それ故か、辿り着いたリゾート地で彼女は目を細めて海を見つめている。

 じっと、静かにだ。

 日の光を受けながら、ただただ佇んでいる。

 そんな彼女の隣で、ルーチェは不安そうに顔を見つめた。


「ワルトさん……その黒コートで暑くないんですか?」

「……暑い、常夏の地は凄いな……」


 コートをはだけさせ、赤いインナーを晒しているが……。

 滝のように流れる汗は止まらない。

 そんな状態で息を吐く姿は、どこか艶めかしい魅力がある。

 ルーチェは思わず、息を呑んでしまった。


「はー……あたし達も暑いな、とっとと帰りたいもんだ」

「無事交易が完了するまで、暇ッスよね……ふう……護衛の辛みだなあ……」


 暑さにうんざり……といった様子のルーヴ達。

 そのよく聞こえる耳に、チリンチリンと鈴の音が聞こえてきた。

 その方を見ると……何やら、台車を引いた猫獣人の商人が歩いている。


「おっ、そこのお嬢さん方、秘蔵の氷菓子はいかがかな?」

「氷菓子……? なんスかそれ、猫又之国の食べ物じゃないッスよね」

「他大陸から伝来したと言われる、砂糖や卵や牛乳……そういったものを氷魔法で固めたものだな、北部では気候上流行らなかったが……なるほど、ここでは売れそうだ」


 ワルトの解説に、商人は「よく知ってるねえ」と頷く。

 そして一個20アウルムと書かれた看板を指し示した。

 暑い中待たされているのだ、まさしく渡りに船と言ったところ。

 恐らくは商人もこの商機を見抜いて近付いてきたのだろう。


「よし、アタシ二個!」

「じゃあ……あたしも一個貰うか」

「えーと、じゃあ私も一つ……あ、ワルトさんはどうしますか?」

「ふ……人斬り墓守に嗜好品を買う金の余裕が有ると思うか、年中金欠だ」


 言っていて悲しくなりそうな開き直りをするワルト。

 基本的な生活スタイルが自給自足の狩猟、農耕生活かつ故郷であるメテオール領跡をあまり離れない以上、交易経験も殆ど無い。

 せいぜい使わなくなったコートや、コート作りに使用した毛皮やなめし革のうち余りの端切れをベンティスカに売りに行く程度か。

 それ故になけなしの金で嗜好品を買うことは滅多にない、せいぜいたまに牛乳や来客時用の食材を買う程度で……あとは本や砥石など向上に必要な物の買い足しが主な使い道だ。

 ベンティスカとの交渉に使用した酒ですら、自ら買った物ではなく山賊の所持品を入手したが、飲まないので持て余していたもの。

 そんな生活をしているからだろうか、基本的に彼女は金銭と縁遠い。

 そのくせルーチェのような気に入った者には料理を奢ったりもするのだから、金がなくなって当然というもの。

 しかし、ルーヴとガットネーロは首をかしげる。

 金銭を持っていないことに少し疑問があるのだ。


「え、ピーヌスが北部行きの連中に、北部加入者含めて給金を配ったって聞いたが?」

「何……? そうなのか……?」

「あっ……!!!! あああ……!!!」


 顔をしかめるワルトの隣で、ルーチェが声を上げる。

 やっちまった、なんてこったい、と言わんばかりの絶叫だ。

 そして暑さ由来では無さそうな汗を垂らすと……鞄の中から取りだした封書を差し出し、土下座した。


「すいません、ワルトさんの分も渡しておいてと言われていたのを、うっかり忘れていました……」

「そうか……次は気を付けてくれ……日常におけるうっかりはまだ笑えるだけだが、戦場でやれば死に繋がるからな」

「はい……肝に銘じておきます……」


 静かに注意をするワルト。

 やはり不思議と……こうやって指導を行うのは懐かしさのような、馴染む感覚が有る。

 もしかするとこれが所謂前世なのかもしれないと考えるが、だが気にするほどでも無いな、とすぐに気にしなくなった。

 そして、金を受け取って商人に向き直る。


「私にも一つ頼もう」

「あいよ」


 アイスを購入し、口へ運ぶワルト。

 その口内に牛乳をベースにした優しく甘い味が広がると同時に……チリンチリンと鈴が鳴る。

 この音、この味……この感覚。

 これもどこかで感じたことがある気がした。

 どこか、遠い夏の……うだるような暑さ、照りつけるような日差しの下で……。



「遅いな……」


 運命の時、世界の滅びより実に十数年前。

 長崎の海沿いにある小さな街で、(もり)(つぐ)(うらら)は人を待っていた。

 10代の若さにして防衛軍学校を首席卒業した期待の新人……。

 そんな彼女は、新しい基地である長崎南西の島……七島の基地へ配属されることになったのだ。

 配属決定当初は浮かれていたが……こうも暑いと気分が下がる。

 若干うんざりし始めた頃……ふと、待ち合わせの公園にアイス販売の手押し車が来ていることに気付いた。

 まさに僥倖、これ好機と言ったものだろう。

 森次は引き寄せられるようにアイスを買いに行った。


「おじさん、アイスを一つ」

「はいよ」


 復刻品だというバナナアイスを購入し、かぶりつく森次。

 そんな彼女の傍らで鈴がチリンチリンと鳴る。

 穏やかな時間だ……そんな時間の中で、森次は静かにアイスを堪能していたが……。

 ふと公園に、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてくる。

 最初は近隣の運動部が走り込みでもしているのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 目を向けるとそこには、軍服の女性がいた。

 胸に付けている隊員章には科学班と書かれている。


「す、すいません遅れました……うっかり寝過ごしちゃって」

「そうか……まあ次に気を付けてくれれば良い、今は待たされただけで済んだが……整備時のうっかりはパイロットの命を奪うからな」

「はい、すいません……」


 見た目だけなら森次よりも数歳幼い様子だが……実際は一つ下の少女、彼女は自らを樹里杏(きさとあん)と名乗った。

 彼女はしっかり反省しているようなので悪感情は抱かなかったが……それにしても、気にしすぎている所があるように思える。

 注意してしまった手前、慰めないわけにはいかない。

 そう感じた森次はアイスの屋台に向かうと、もう一つアイスを購入した。

 どんな味が好みかは分からないので、とりあえずオーソドックスなプレーンだ。


「ほら、元気を出せ……一緒に食べよう」

「良いんですか、えっと……」

「ああいいよ……僕は森次だ、よろしく杏」

「はい、よろしくお願いします! 森次サン!」


 アイスを受け取り、笑みを浮かべる樹里。

 後にいつもの光景となる二人のやり取り……。

 その最初の一回目が、この日だった。


「森次サン、噂はうちの部署にも流れてきてますよ、南名和学園のミラクルウーマンって」

「そうなのか? 少し気恥ずかしいな」


 アイスを食べ終えた後、七島へ向かう軍用船に乗り談笑する二人。

 話題はやはり、首席卒業したという森次のことらしい。

 防衛軍士官学校での優秀な成績……また、卒業試験のドッグファイトは語り草だという。


「まるで、機体が光になったかのような活躍を見せたと聞いてます、本来のスペックを凌駕して試験官の機体を追い越したと」

「光……ああ、あの時は確かにそんな風に感じたな……友人達から声援を受けたとき……こう、心が温かくなって力がわいたんだ」


 当時の感覚を思い出し、森次は握り拳を作る。

 あの時感じた光が、手の中に残っているような気がしたのだ。

 その様子を見ながら、樹里はうんうんと頷く。

 感情によるプラズマエネルギーの発露、などと呟いているが……何か知っているのだろうか。


「強い思いは奇跡を生むって言いますもんね、そういうことって有るのかも……良いなあ、そういう思いが技術を覆すミラクル、好きなんです」

「ふ……技術屋にしてはロマンチックなことを言うな」

「むしろ技術屋だからですよ、浪漫が無きゃ新兵器なんて作りませんもの」


 新兵器、そう言うと樹里はタブレットを操作する……。

 そして、一つの写真を見せた。

 白銀の機体……そんな写真だ。

 だが写真の機体は従来の物と大きく異なる。

 何が違うかというと、この機体は人型ロボットなのだ。


光人号(こうじんごう)七番機(マークズィーベン)……今開発中の新型です」

「新型……見せて良いのか?」

「ええ、許可はちゃんと取ってますから!」


 許可取得済み、そう聞いて森次は安堵する。

 これで守秘義務違反となり軍規違反で軍法にかけられ退役……となったら笑えないのだ。

 再誕退役記録としてギネスブックに乗りかねない。

 ともあれ、許可取得済みと分かれば遠慮せず見られるというもの。

 人型兵器の開発が進んでいるという話も、その試作型である光人号(こうじんごう)A(アー)タイプからC(ツェー)タイプまで作られていたことも知っているが……。

 実際に見てみると、中々に驚きだ。


「この機体は凄いんですよ! 新機軸の実弾兵装として、頭部のカッターを無線で飛ばしたり、そこにレーザーを当てて反射させたりと、パイロットの腕次第で無限の活用が……!」

「な、なるほど……それは凄いな」


 早口で語る樹里に押されながら、森次はタブレットの写真を見つめる。

 そして……技術者を大いに魅了するこの機体に、強い興味を抱いた。

 今回、配属後はテストパイロットとして機体慣らしの任に当たると聞かされている。

 つまりこの機体に乗れるかもしれないのだ。

 無論、実戦には出ず訓練用ドローンなどを相手にするだけだろうが……。

 だがそれでも、パイロットとしては心躍る……そう言わざるを得ない。


「防衛兵力とは言え、戦いのための兵器を前に不純かもしれないが……少し、乗ってみたいな……ワクワクする」


 そう口にし、森次は静かに笑みを浮かべる。

 こうして彼女の七島基地での生活が始まった。

 実に運命の時より十数年前、そして……七島戦役よりも数ヶ月前の出来事だった。

 この先に起きる戦いにより、多くの戦友を喪い多くの人が狂い……そして、やがて来る滅びの足音が響き始めることを、彼らはまだ知らない……。

 しかし時計は着々と、運命の時へと歩みを進めていた……。

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