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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第七十五話 真贋の理解

 浸食とは気付けば進んでいるものだ。

 ふと気付くと見慣れたはずの景色がいつもと違う。

 気付かない場所に何かの足音が迫っている……。

 その山賊団の崩壊も、そうして起きた。

 一カ所に起きた浸食は、まるでにじむインクのように辺りを侵していく……。

 一人目は二人目を献上し、二人目は一人目と共に三人目を、やがて彼らは一丸となり四人目、五人目も……。

 そうして芋づる式に一人残らずクリムゾンフレアに洗脳されていった。

 そして……。


「団長」

「ん、どうし……!?」


 山賊団長は、その異様な光景に息を呑んだ。

 振り向くと団員が……老若男女みな笑顔で自分を見ている。

 不気味と言わず、なんと言えば良いのだろうか?

 しかし、その三文字を発するより早く彼らは団長に飛びかかり……。

 為す術もなく、彼は捕縛されていく。

 そして団長もまたクリムゾンフレアに献上されたのだ。


「ご苦労……感謝する」

「お、お前は……?」


 四本の腕を組み黒い炎を人数分携えたまま、砦の外で待ち構えるクリムゾンフレア。

 そして、その様子を眺めるユウェル……。

 禍々しい龍人と神々しい剣を背負う男という、山中では……いや山の下であろうとまず見ることのない者達に、団長は息を呑んだ。


「お前は……いったい……?」

「団長、不敬ですよ……お前だなんて、この方はクリムゾニア皇帝クリムゾンフレア様……私達を救う素晴らしい御方です」

「団長は己の愚かさにまだ気付いていないんです、ふふふ……すぐ分かりますよ」


 ニタニタと笑う娼婦の姉妹。

 かつて襲った街から誘拐し、今や自分に忠節と愛を誓っているはずの彼女達が自分を見下している。

 その様子に団長は、何一つ理解が及ばずに息を呑む。

 そんな団長の隣で、娼婦の頬をクリムゾンフレアが撫でた。

 うっとり……と息を吐く娼婦達。

 もはや彼女達の心が自分には向いていないことを団長は悟る。


(効いているようだな……)


 クリムゾンフレアに他人の女を寝取る趣味はないが……こういった女を侍らせる事で権威欲を満たすような“やり手の”男には、これが効くと思ったのだ。

 結果は予想通り……この男の心は急速に萎れ、折れかけている。

 まるで栄養を断ち切られた草花のようだ。


「さあ……お前達に祝福を授けよう、これからもクリムゾニアに尽くすという証しだ」

「はい、皇帝陛下!」


 クリムゾンフレアの言葉に、山賊達が歓喜の声を上げる。

 そのまま、クリムゾンフレアが行使する黒い炎が山賊達に入り込んでいった。

 複数を一気に動かすのは初の試みだが、なんとか上手くいっているらしい。


「ん、おお……き、きたああぁぁっ!!!」

「ん、ああ、ああ……!」


 声を上げ、その身を怪人へ変じさせていく山賊達。

 一人また一人とその身に炎を宿し、ある者はグリフォンのような怪物に……またある者は、馬獣人を更にケンタウロス化させたような怪物になっていく。

 十人十色の変貌を遂げ、その事に歓喜する山賊達……いや、今や怪人達だ。

 その様子を団長は、震えながら見ていたが……笑い声を耳にして、その方向を向いた。

 娼婦姉妹の笑い声だ。


「哀れな団長……とっても醜いわ、クリムゾンフレア様は死しか未来のない山賊という道から私達を救ってくださるのに」

「山賊なんて低俗で愚かなことしかしてないから、そうやって喜びを理解しきれないのよ、真っ当に生きて罪を償うことの出来る道なのよ?」


 そう言って団長を煽る二人……。

 その隣に黒い炎が移動する。

 彼女達の番が来たのだ。


「や、やめろ! この二人をこれ以上変えないでくれ!」

「愚かな団長……私達は自らこれを望んでいるのに」

「姉さん、もうこんな奴を団長と呼ぶなんて馬鹿馬鹿しくない?」

「ふふ、そうね……じゃあ愚か者かしら!」


 笑い合い、黒い炎を受け入れる姉妹。

 その姿に団長はただ唇を噛みしめる。

 そんな彼の目の前で……娼婦達の体がビクンと震えた。


「んっ……! ああ、来る……来るわ……気持ちいい!」

「愚か者の“テクニック”なんかとは比べものにならないくらい!」


 嬌声を上げる娼婦達、その艶めかしい声はかつて団長に向けられていたものだ。

 しかし今は、それはクリムゾンフレアに向いている。

 身をよじり荒い息を吐く娼婦達、まるで身を内側から焦がされて作り替えられるような快感の中……二人は目を見開いた。

 先に変化が起きたのは娼婦姉妹の姉だ。

 全身を覆う緑の鱗……しかしそれはクリムゾンフレアみたいな龍のものではない。

 トカゲの鱗、それが全身を覆っているのだ。

 呼応するように出来上がるクリーム色の蛇腹。

 爪は赤く鋭くなり、舌は先が割れ……そして顔貌は長く人間離れした、まさにリザードマンとでも言うべきものになった。

 そんな体を愛おしげに一舐めすると、続けと言わんばかりに服を引き裂いて肉厚な尻尾が出てくる。

 だがそれだけで終わりではない。

 背中からは真っ白な羽毛の翼が生え……言うなれば、プチケツァルコアトルとでも言わんばかりの姿になっていく。

 美しい翼と、しなやかな肢体を持つリザードマン……。

 そんな一種神々しい姿になり、彼女は怪人として完成した。


「うふふ……なんて良い体なの……」

「ああん、凄いわ姉さん、私もそうなりたい……」

「ふふ、すぐなれるわよ……ほら、始まった」


 うっとりと姉を見つめる妹……。

 その体が赤い甲殻に覆われ始める。

 ハサミとなる両手、計6対となる手足。

 腹から胸にかけては姉と同じ蛇腹で、足もまた甲殻に覆われたヒールのような足になる。

 一見するとカニのようだが……しかし、毒を垂らす尻尾がそれを否定する。

 彼女はサソリの怪人となったのだ。

 だが変化はそれで終わりではない。

 顔は体と打って変わり、気品有る毛並みに覆われ……獣特有の耳も生える。

 その形は……メスライオンのそれだ、彼女はマンティコアの怪人になったのだ。


「ああん……! うふふ……私も、できちゃったわあ……凄い……!」

「ええ、なんて素晴らしいの……!」

「そ、そんな……そんな……! 嫌だあ!!!」


 叫ぶ団長、その姿を二人は嘲り笑う。

 かつてこの山賊団で2番目に位置しているとすら言われた、お気に入り娼婦達の面影はもうその肢体にしかない。


「ふふ、バカみたい……ねえ団長、私達見ての通り、もう山賊なんて低俗なことはやめて真っ当に生きると誓ったの、だからアンタのものじゃないわ」

「でも……アンタのものに戻ってあげても良い、その為にはどうするか……分かるわね?」

「あ……」


 崩壊寸前の団長、その精神を誘惑するように黒い炎が揺らめく。

 そして、元娼婦達が囁いた……。

 心が揺らぐ、団員は全員洗脳されてしまった……ならばもう山賊であり続けようとする意味は無い。

 なら……頭を垂れて良いのではないか。

 そんな言葉が脳裏をよぎった。

 だが同時に、ここで洗脳を受け入れるのは今の自分がなくなるということ、それは死ではないのかという気持ちも浮かぶ。

 だが……。


「さあ、歓迎しよう……罪を償い真っ当に生きるために、お前は生まれ変わるんだ……転生するんだよ」

「あ、ああ……!」


 クリムゾンフレアの囁きに、抗えない……。

 そのまま体に黒い炎が入り込み、快感の中で元の人格は吹き飛んでいった。


「ん、んっ……! う、ぐう……! ああ、ん……!」


 声を上げ身をよじる団長、その声が男の低い声から甲高い嬌声に変わっていく。

 同時に体は小柄になり、ぷっくりとした幼い膨らみが出来ると同時に筋肉は失せ果てて……まるで大人の男から小さな女の子へと変化していくようだ。

 彼は……いや、彼女はその感覚によだれを垂らす。

 そのよだれが伝った場所は艶めかしいぬめり跡となり……そこから毛が生え始めた。

 白い綺麗な毛だ……その毛がまるで、浸食するように全身へ広がっていく。

 やがてその毛が全身を覆うと、目が赤く染まり大きな耳が生え……更には小ぶりな尻尾と、まさしく兎獣人の幼女と言わんばかりの姿になる。

 だが例に漏れず彼の変化もそこで終わりではない。

 角が生えてきたのだ、鋭い一角……まるでドリルのような角だ。

 辰巳ユウコの記憶にはアルミラージという生物が出るお話の思い出がある、角の生えた兎でインド洋の島に住む存在だったか。

 その姿をイメージしたという絵を、クリムゾンフレアは思い出していた。


「うふふ……すごい……私、今までにない魔力を感じる……! 角に念じれば、触れずに岩だって動かせそう!」

「おめでとう団長、素敵な姿よ……正義に目覚めた証しね」

「ふふふ、食べちゃいたいくらい可愛いわあ……」

「あんっ……ライオン頭で言われたら冗談に聞こえないよ、それと……アタシもう団長じゃないもん!」


 言い切ると、団長だった兎獣人は立ち上がりクリムゾンフレアの方を向く。

 そして跪くと恭しく頭を垂れた。


「私は、クリムゾニア軍の兵士です! 何なりとご命令ください、陛下!」

「良いだろう、では早速……」


 元山賊達に、クリムゾンフレアはテキパキと指示を出していく。

 平時の彼らにはテルメ村復興作業を任せることで、復興をより早く進めようというのだ。

 無論これは、社会奉仕により「彼らは更生している」ということを世間にアピールするためでもある。

 論より証拠、口でとやかく言うよりもこうして行動で示すのが一番早いというのは間違いではないだろう。

 そんな方針である彼らの姿を見ながら、ユウェルは静かに頷いた。


(なるほど……異形の姿に変えることで、大きな力を発揮できるようになった彼らは戦場だけではなく平時の力仕事でも優秀に動く、というわけか)


 それだけではなく、彼らが力ある存在となることでユウェルが思い浮かべたような「刑期を終えた犯罪者が被害者遺族に闇討ちされる事件」のようなものを防げるというわけだ。

 もちろん、ワルトと協力して父殺しを果たしたルーチェのように、例外は存在するが……そんなことはそうそう無いだろう。

 あれは娘に刺された動揺、激しい憎悪による空気の硬直が起こした判断遅れ、ワルトに阻止されて間に合わなかった治癒……そういったものが重なって起きた出来事だ。

 その為、クリムゾンフレアのやり方は理にかなっている……ユウェルはそう感じていた。


「クリムゾンフレア、貴女のやり方を見せて頂いた、貴女は慈悲深く……洗脳や異形化、そういった力を行使するのも慈悲によるものだと理解できた、世界を救うという目的にも嘘はないのだろう」

「こちらこそ、ユウェル王子……貴君の熱意、身を張って他者を守る心、そこに嘘はないのだと理解できる、貴君は素晴らしい方だ」


 固い握手を交わし、二人は笑い合う。

 そして……ユウェルは改めて山賊砦を見た。


「この砦を見事無血で攻略してみせたのは、本当に見事だな……」

「……あまり何度も褒めないでくれ、照れる」


 頬を掻き、息を吐くクリムゾンフレア。

 その姿を見ながらユウェルは……どこか微笑ましい、そう感じていた。

 妹を見るような気持ちと言えばいいのだろうか。

 それが辰巳ユウイチの魂から来ているものなのか、単純にノエルを見ているような気分なのか、それは分からない。

 しかし……その表情はとても穏やかで慈悲に満ちていた。

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