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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第七十話 ずっといっしょだよ

 高山と飛鳥が出会って数ヶ月。

 共に過ごすうちに、二人はどんどん仲良くなっていった。

 が……そうなれば、そこによからぬ目を向ける者というのも当然いる。

 石川はまさにそんな男だった。

 スキャンダルを狙い、日夜二人に付き纏っているのだ。


「……あの人、また見てるね」

「だな……いい加減にしてほしいもんだ……」


 いつも通りの食事帰り、その日もまた石川が二人を見ていた。

 その様子に二人は思わず辟易してしまう。

 こう何日も付き纏われては嫌になる。

 ストーカーで警察には伝えたのだが、上手いこと姿を隠して警察がいなくなると出てくる……というのが現状だ。

 おかげで証拠は何も残せていない。

 しかし、こちらから手を出せばそれが犯罪として扱われてしまうだろう。

 ならば先制攻撃は出来ない。

 万一にもスキャンダラスに映るようなことはしない……と気を付けるしかないだろう。

 そう考え、二人は気を付けながら会うようになっていった。

 勿論それでも二人でいること自体が楽しかったのだが……しかし、ストレスとは思いのほかたまるもの。

 思うがまま触れあえない、というのは中々のフラストレーションだ。

 思えばそれも、絞殺という行動に走ってしまった理由の一つなのかも知れない。

 そして……殺意を抱くほどのストレスがたまっていたのは、高山達だけではなかった。

 石川もまた、ぼろを出さない飛鳥に苛立ちを覚えていたのだ。


「じゃあまたね、高山」

「うん、飛鳥さんもお休み、気を付けてね」


 手を振り、二人は別れる。

 そして……石川は、高山の跡を付けていった。

 そのまま忍び寄り、距離を詰める石川。

 高山もまさか、取材対象として狙われているわけでもない自分が追われるとは思っていなかった。

 その為、完全に油断していたのだ。


「……うっ!」


 後頭部を堅いもので殴られ、昏倒する高山。

 そんな彼女を石川は連れ去っていく。

 初犯ではないのだろうか、いやに鮮やかな手口だ。

 もしかするとスキャンダルの裏ではでっち上げだけでなくこういった犯罪をも繰り返し、自殺に見せかけて殺された者もいるのかもしれない。

 何はともあれ高山は誘拐され……殺されてはいないが、いずこかへ連れて行かれた。

 そして……そのまま朝が来たのだ。


「ん……朝か……ふう……ん? メール……高山からか……? ……っ!」


 目が覚めた飛鳥は、高山のメールを確認し目を見開く。

 そこには、床に倒れている高山の写真と一緒に地図が添付されていたのだ。

 まさか……と最悪の想像をしてしまう。

 パニックのあまり、飛鳥は警察に連絡することも忘れて地図の場所へ向かった。

 それだけ、この状況は予想外だったのだ。

 ひたすらに走り、廃工場へと辿り着く飛鳥。

 そんな彼女の目に入ったのは……倒れ伏す高山と、その隣に立つ石川だった。


「よく来たな、新堂飛鳥」

「お前の仕業か……!」


 叫ぶ飛鳥に、石川が悪辣な目を向ける。

 そんな彼に飛鳥はバットを向けた。

 すると……シャッター音が響く。

 手に持ったデジタルカメラで写真を撮影したらしい。


「新堂飛鳥、療養中に廃工場で喧嘩か……良い記事になりそうだ」

「ふんっ!」


 笑う石川、だが次の瞬間飛鳥が一瞬で距離を詰め、石川のカメラをたたき落とす。

 アスリート特有の瞬発力に、石川はただ痺れる手を押さえて睨み付けるしか出来なかった。


「貴様……!」

「これでカメラはおじゃんだな……来いよ石川、床の味を堪能させてやる」


 バットを向け、挑発的に笑う飛鳥。

 彼女に肩を殴られ、石川は声にならない声を上げる。

 骨は確実に逝っているはずだ。

 露見すればもう球界にはいられなくなるかもしれないが……。

 それすらもどうでも良くなるほどの怒りが飛鳥の中には満ちていた。

 だが……。


「くそっ!」

「……!!!!」


 咄嗟に放った蹴りが、飛鳥の骨折している腕に命中する。

 治りかけではあるが、まだギプスを外せていない腕だ。

 そこに命中したことで、飛鳥は思わず激痛にひるんでしまう。

 その隙を突いて、石川は腹に蹴りを入れた。


「ぐ……!」


 尻餅をつき、バットを落とす飛鳥。

 そんな彼女に、折れていない腕でバットを拾った石川が歩み寄る。

 立ち上がろうとしてもすぐには上手く立てず、接近を許してしまった。

 万事休す、といった状況だ。


「何故だ……何故お前は、私に執着する?」

「別にお前だけじゃない、俺はヒーロー扱いされる奴が嫌いなんだよ! この世の全てのヒーローは、俺が潰して快感を得るための……道具だ!」

「その為に……あの投手も殺したのか!?」

「そうだ、そしてお前も死ぬ! とっとと諦めろ!」


 バットを振り上げる石川。

 南無三、最早ここまで!

 そう考えながら、飛鳥は顔を下に向ける。

 だが……痛みは不思議とない、即死して痛みも感じなかったのかと思うが……違う、変わらない感覚が確かに有る。

 混乱するも、恐怖から顔を上げられない飛鳥。

 そんな彼女の耳に、バットが床に落ちる音と苦しそうな呻き声が聞こえる。

 明らかな異常事態だ、もう下を向いてはいられない。

 恐る恐る顔を上げると、そこでは……。


「あ、が……」

「……」


 起き上がった高山が石川の首をロープで絞めていた。

 石川は必死にロープを外そうともがいていたようだが、既に力を失い唾液をぶちまけながら死んでいる。

 廃工場に差し込む朝日、その輝きを受けて逆光になっている姿は……不思議な迫力を感じた。


「た、高山……」

「……」


 飛鳥が声をかけるが、高山は返事もせず鬼のような形相で首を絞め続け……石川の首が異様に細くなる。

 目を見開いたままの石川……彼の苦悶の表情もあってか、目の前の凄惨な光景からは高山が抱いた激しい憎悪が見て取れた。

 ここで、話は少し遡る……。

 高山が目覚めたのは、二人の格闘が始まった辺りだった。


(う……ここは……)


 目を覚ました高山は、ゆっくりと頭を振りながら起き上がる。

 どうやら、縛られてはいないようだ。

 しっかりと動くことが出来る、体に欠損もないらしい。


(……飛鳥さん)


 目の前で行われている格闘に、高山は何が起きたか察する。

 自分が気絶させられたせいで、自分が弱いせいでこうなってしまった。

 そう考えると不甲斐なくて仕方がない。

 同時に……憎悪も溢れ出す。

 何故あの男は、自分達の邪魔をするのか。

 何故そっとしておいてくれない、何故私利私欲のため他者を苦しめる。

 生まれて初めての“楽しい”を何度も邪魔されて、苛立ちが堪えきれなくなってきた。


(……コイツが私を拘束もしなかったのは、私を舐めているからだ)


 だから、ロープが隣にあるのに縛られてもいない。

 それもまた高山を苛立たせる。

 そして……。

 ロープを手に、高山は立ち上がった。

 もう堪えきれない、自分を舐めているというのなら思い知らせてやる、自分達の邪魔をしようというならできなくしてやる、飛鳥を殺そうというのなら……お前を殺してやる。

 その一心で、高山はロープを使い石川の首を絞める。


「……!?」


 石川がもがくが、手は緩まない。

 そのまま、締めて、締めて、締めて、締めて……。

 尻餅をついたままうつむく飛鳥を見ながら、高山は手に力を込め続けた。

 ただ、この男が憎い。

 飛鳥に危害を加えるこの男が許せないのだ。

 その一心で首を絞め続けて……気付けば、飛鳥に手を握られていた。


「高山……」


 泣きそうな顔で高山を見つめる飛鳥。

 その涙をそっと拭う。

 今まで、楽しいという気持ちも何かを大事に思うという気持ちも理解できなかった。

 そんな虚無で生きてきた自分がこんなにも誰かのために動ける、それが少し誇らしい。


「ごめん、私のために……」

「良いの、私は望んでこうしたんだよ」


 蛇のような無表情を捨て、笑顔を向ける高山。

 人を一人殺めた後とは思えない穏やかさだ。

 そんな彼女の手を、飛鳥は骨折していない手で握り走り出す。

 もはや球界復帰も何もかも捨てるしかない。

 自分のせいで高山は殺人を犯してしまったのだ。

 自責を抱きながら、飛鳥はただ走る。

 そして、二人はどこかへと消えていった。

 石川の死体だけを残して……。

 


「……前世の記憶っていうのは、思い出しても少し曖昧なものなんだな……大きなエピソードは思い出せるが、細部が……」

「だね、あの後確か……アタシ達は山で隠れ住んで……死ぬまで二人だったような……」


 話しながら、ガットネーロはナイフを手に取る。

 一方。ルーヴは石川に轡を噛ませているようだ。


「……! ……!」

「何をする、って思ってるの?」


 問いかけながら、ガットネーロはナイフを回転させる。

 そして石川の目の前に突きつけ……片眼を刺し貫いた。


「……!!!!!」

「アンタ、前の世界でもアタシ達を邪魔して……この世界でも邪魔して、目障りなんだよ……だから、二度と邪魔できないように……その魂魄の根底まで、永遠に消えない恐怖を刻み込んでやる」


 そう言いながら、ガットネーロは空になった薬を取り出す。

 ルーヴはその様子を、止めもせず見守っているようだ。


「さっき飲ませた薬、血が出てもある程度生きられるようになるんだよね、心臓を潰さない限り平気、ってやつ……凄いよね今の世界は、魔法と科学じゃ比べられないけど……拷問道具の便利さは今の世界の方が上だ」


 そう言いながらガットネーロは石川の体をナイフで刺す。

 激痛に身もだえするが、気絶を抑制する効果もあるのか意識を閉ざすことは出来ない。

 そんな石川の視界に彼の手が差し出された。

 手首からは血が滴り落ちて、ガットネーロの毛皮を濡らしている。


「久々の解剖だけど、上手く切除できたと思わない?」

「……!!! ……!!!!」


 首を左右に振ってもがく石川。

 そんな彼に、ガットネーロは笑顔を向ける。

 この程度で怯えて、青いなあと言わんばかりだ。


「ほら……片手程度で怯えないで、次はこれ……分かる? アンタの肝臓、人においては最大の臓器であるって言われてるね」

「……!!!!!! ……!! ……!!!!」

「怖いか石川、もっと怯えろ……次に生まれてきたときは、絶対にあたし達に何も出来ないようにな」


 臓器を眺め、怯え震える石川。

 そんな石川に次々に臓器が見せつけられる。

 膵臓、胃、脾臓、胆嚢、尿道、膀胱、睾丸。

 様々な部位が切除され、顔の前に並べられていく。

 横たわった石川は、痛みに悶えながらそれを見るしかできない。

 謝罪の弁も許されず、二度に亘り身勝手な行いで二人を苦しめた男はまるで地獄のような拷問を受けるのだ。

 そんな彼の血で毛皮を濡らしながら、ガットネーロは笑う。

 ルーヴも静かに笑顔を浮かべているようだ。

 前世から続く憎悪というのは余程大きいのだろう。


「嘘つきジャーナリストの舌、いただきました!」

「……!! ……!!!!」


 喉を潰されて轡を剥がされた石川、そんな彼から舌が切除され、三枚におろされる。

 嘘つきの三枚舌、とでも言いたいのかも知れない。

 続けて歯がナイフで抜かれ、一本ずつ並べられていく。


「ははっ、得意の嘘はどうした石川、何も聞こえないなあ?」

「……!!!! ……! ……!!!」

「さあて……じゃあ最後は心臓だけだね、ははは!」


 いよいよ目前に迎えた死。

 それに石川は怯えるが、腕も足も切断された体ではもがくことすら出来ない。

 そのまま心臓にナイフが振り下ろされ……。

 薬の効果だろうか、最後まで微弱に残った意識の中……。

 石川が最後に目にしたのは、鼻先に突きつけられた自分の心臓だった。


「さ……証拠隠滅しますか」

「だな、こんな奴食う価値もない……死体が存在するだけで害だ、世界の毒だ」


 細切れにした体を、火の中にくべていく。

 勿論骨だけは残ってしまうが……それも人骨だと分からないよう、砕いていくのだ。

 骨粉は風に舞いどこかへ飛んでいく……肉の焼けた灰もまた同じ。

 その行き先は誰にも分からない。

 しかし二人は、一切気にも留めなかった。


「そろそろ夜が明けるね」

「だな……ちょうど近くに川がある、皆が起きる前に水浴びでもして血を流してくるか」


 手を取り合い、川へと向かっていく二人。

 その姿を、ワルトは薄目を開いて見つめていた。

 相変わらずの“ルーチェに危害が及ばないなら静観する”スタイルだ。

 それはさておき、彼女は少し気になっていることがあった。


(前世……と言ったな、輪廻転生、生々流転……か)


 本で読んだ、生命は尽きれど魂になり流転するという概念。

 その実在を意図せずして知り、ワルトは息を吐く。

 別に自分の前世が誰なのか、ルーチェと縁があったのかはどうでもいい、飽くまで自分は今の自分であり、ルーチェはルーチェだから愛している。

 では何故前世に興味があるかと言えば……父や領民の魂もいずれ新たな命となり、再びこの大地に生を受けるのだろうか……そう思ったのだ。


(ならば……ブラエドに負けられない理由が一つ増えたな)


 いずれまた生まれ来る愛しい者達に、良き世界を。

 彼らが本人でないなどということは重々承知。

 しかし、流転するというのであればその魂を再び迎え入れるための土壌をしっかり作るというのも、また墓守の勤めなのだ。

 決意を新たにしながら、ワルトは笑みを浮かべる。

 そして水浴びの音に耳を傾けながら、朝を迎えるのだった。

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