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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第六十九話 この世は全員転生者

 全ての始まりは病院に骨折で通院した日だった。

 彼女……高山蛇夢を見た瞬間、新堂飛鳥は電流のような衝撃を覚えたのだ。

 運命なんて言葉、それまでは安っぽいものだと思っていた。

 だがそんな認識など吹き飛んでしまうほどの衝撃……。

 それを感じたのだ。

 まるで、自分達がかつてどこかで会ったことが有るかのような既視感。

 そして激しい親近感と情動……。

 年下の友人である松田という女の子もとある少女に強い運命を感じたというが……。

 もうそれをからかうことは出来ない、そう思ってしまった。


(どうにかして、彼女と話したい……そう思った)


 この運命を逃してなるものか。

 そう考えながら、飛鳥は道に迷ったというのを言い訳に彼女と接点を作ったのだ。

 それが二人の運命を大きく変えるとも知らずに……。

 運命の出会いという例えは、そういう意味で実に正鵠を射た形容なのかもしれない。

 人の運命は時に、左足と右足のどちらを前に出すか程度でも変わってしまう。

 それだけでも変わるというなら、出会いという他者も関わるものはその一つ一つが運命を大きく変える可能性を秘めているのだ。

 そして、運命の出会いと呼ばれる類いのそれはまさしく……可能性の体現。

 人の道行きを大きく動かし、時に足を踏み外させる。

 そう……道をだ。


(声をかけて仲良くなる……ただそれだけの選択が、やがて彼女に首を絞めさせる事になるなんて、思ってもいなかった……)


 ルーヴはそう心中で述懐しながら、回想を続ける。

 二人が出会い、石川と面識を持ってから数週間後。

 高山は飛鳥に連れられて、とある病室にいた。

 辰巳という重病患者の病室だ。

 何故ここに来ているか、その理由は一つ。

 飛鳥の友人である松田は、辰巳に会って欲しいと飛鳥に頼んだのだ。

 しかし一人では緊張させてしまうかもしれない。

 なので、この病院で勤務しているため少し面識がある高山を連れてきたということだ。


「こんにちは、ユウコちゃんだったかな」

「あなたは……?」

「この人はね、女子プロ野球選手の飛鳥さん! 私の友達なの、凄いでしょ?」


 松田の言葉に、辰巳は「わあ、そんなお友達がいるなんて、莉子ちゃん凄いです!」と興奮している。

 聞いた話、彼女は重病によりこの病室から出られないという。

 松田はそんな彼女に、少しでも珍しいものを見せてあげたかったのだ。

 微笑ましい気遣いだ、そう思うと同時に……彼女が運命の相手なのか……と少し微笑ましくも思えてくる。

 若い子供の友情や恋愛は、見ていて微笑ましいものなのだ。


「さて……野球について、聞きたいことはある?」

「ええと……野球って、どんな競技なんですか?」


 辰巳の言葉に、飛鳥は「あっ、そこからか」となると同時に……この部屋の狭さを思い知る。

 ノートパソコンは有るが……狭い病室で生きるなど、幼い彼女には退屈だろう。

 翼があれば自由に空を飛べるのに。

 歌というものはいつもそう歌うが……確かにその通りだ。

 彼女に、自由に空を舞う翼があれば……そう思わざるを得ない。


「野球っていうのはね……」


 懇切丁寧なルール説明を行い、野球について語る飛鳥。

 そんな彼女に、辰巳は何度も頷きながら興味深そうに聞いている。

 そうして一通り説明し終えた後……今度は、視線が高山へ向いた。


「そういえば、高山先生はどんなことをしてるんですか?」

「私……? 私は、監察医っていう未知の病原菌や薬物で死んだ疑いを持つ死体を解剖する仕事をしていて……」


 死体解剖、そう聞いて二人の顔が青くなる。

 その様子を見ながら、高山は「あっ」と口を開いた。

 しかし、地雷を踏んだということはあまり理解していないらしい。


「ごめんね、子供には怖かったみたいだね」

「そうじゃなくて……いつ死ぬか分からない恐怖を抱えて生きている子供に、それはまずいんだよ……自分が死んだら、その死体が……って想像しちゃうんだ」


 小声で語りかける飛鳥。

 そんな彼女に、高山はキョトンとする。

 死後なんて自分の意識も存在しない世界だ。

 そんな世界で起きることが怖い……自分の遺体がどうなるのかが気になって仕方がない、そんな気持ちが理解できないのだろう。

 だが、そんな彼女なりになんとかフォローの言葉を考える。


「大丈夫だよ、もし死後に解剖されたとして、そこから採れたデータが他の人の役に立って……そうして未来へ生きるんだ、言うなれば永遠に生きるってことだね」


 高山の言葉は、一種の希望に満ちた言葉だ。

 死は避けられずとも、それが終わりになるのではなく未来へ繋がっていくのならば、それはきっと永遠に生きていくという事なのだろう。

 命は尽きても遺したものは引き継がれ、無限に続いていく……。

 それは確かに一種の永遠と言えるものだ。

 しかし、そういう類いの希望はある種諦観にも似ている。

 ストレートに生きることなど出来ないから、自分が遺すものに生きて貰う……そうも取れるのだ。

 故に、子供達にはあまり受け入れられなかった。

 そんなものより、自分達が生きたい……そう思うのは当然だろう。


「はあ……話題変えようか、二人は好きなこと……例えばゲームとか有る?」

「あ、私達シャングリラ・オンラインやってるのよ、ねっユウコちゃん」

「はい! いつもシャングリラ・オンラインを見ながらお話ししてるんです!」


 シャングリラ・オンライン……箱庭に生み出されたキャラを見守るゲーム。

 一時的にブームにもなったゲームの話で盛り上がる二人。

 その姿を見ながら、飛鳥は汗を拭った。

 話題が逸れて安心したのだ。


「ごめんね、飛鳥さん」

「いいよ……気にしないでいい」


 ウインクする飛鳥に、高山は静かに頷く。

 そして……シャングリラ・オンラインの話で盛り上がる子供達を見ながら、飛鳥に耳打ちをした。


「シャングリラ・オンライン……そんなに面白いの?」

「どうだろうな……私のキャラは20歳で死んじゃったからなあ」


 見守っていたキャラが20歳で死んでしまったことを思い出し、飛鳥は息を吐く。

 そんな彼女の視界の先で、子供二人は賑やかに笑い合っていた。

 


(ルーヴ・ルージュ……20歳で死んだあたし……そうだ、分かる……世界が繰り返していると聞いた今、かつての世界を思い出した今なら分かる)


 ルーヴは腕を組み、考え込む。

 どういう理屈か分からないが、前世である新堂飛鳥がシャングリラ・オンラインを通して見ていた20歳で死んだキャラというのは、キャラではなく1000年前の自分自身なのだ。

 フレーバーテキストの入力や、キャラメイクのステータス割り振りは自分の意思ではなく、何かしらにより得た来世の情報を入力していたという事をルーヴ理解する。


(……確か、シャングリラ・オンラインでは山賊に……)

 

 本来なら山賊に敗れて死ぬはずだった自分……。

 しかし、この世界ではクリムゾンフレアとピーヌスに出会い、生きている。


(運命が変わった理由は何だ? ウロボロスさんが各地に干渉していたから? いや……違う、クリム達が前の世界ではいない場所に来たからだ)


 そうだ、生きている要因……それはクリムゾンフレア達に他ならない。

 ならば、彼女達は何故あの場所へ来たのだろうか?


(もしかして……だ、あの二人も過去の記憶を持っているんじゃないか?)


 思えばクリムゾンフレアは、元々龍人にしては妙に腰が低く幼い印象だった。

 父より聞いていた龍人の特徴とも大きく異なる在り方……。

 それは、前世の記憶を有していたからではないのだろうか。

 そう考察し、ルーヴは目を細める。

 転生というものの実在が明らかになった今、それをしているのが自分とガットネーロだけなどとは考えられない。

 転生というそれが、世界にとってごく自然なシステムであるならば自分以外もまた輪廻転生を経てこの世に生まれ出でた存在であって然るべきだ。

 そう考えると同時に、もう一つ疑問を抱く。

 かつて飛鳥だった頃の自分は、高山に対して運命を感じていた。

 松田もまた辰巳に対して運命を感じたという。

 輪廻転生がごく自然な現象だとすれば、それは一度きりとは限らない。

 自分とガットネーロにせよ、松田と辰巳にせよ……。

 幾度もの転生を経て、幾度も巡り会っている可能性がある。

 世界の構造……それを理解したいな、と考えながらルーヴは息を吐く。

 一度気になってしまうと、どうも突き詰めたくなってしまうのだ。

 そんな彼女の視界の先で、ガットネーロが振り返った。


「……ルーヴ、こいつ起きたよ」

 

 どうやら男が石川似の目を覚ましたらしい。

 ルーヴは立ち上がり、ゆっくりと近付いた。

 やはり男の顔はよく似ている……忌ま忌ましきジャーナリスト、石川光彦に。


「お前は……石川の生まれ変わりなのか?」

「……今度こそ、お前を殺せると思ったのに」


 ルーヴの問いかけに、石川は忌ま忌ましげなうめき声を上げる。

 だが、どうしてこの男が思い出しているのか分からない。

 自分だって思い出したのは“あの瞬間”と同じアングルの光景を見たからなのに。


「どうして思い出したんだ?」

「……覚えてないか、俺はルイン村でお前達が食事をした屋台の店員だった」

「ああ……あの時は酒で意識が曖昧だったからな」


 石川曰く、彼は屋台の雑用スタッフだったという。

 だが、ガットネーロとルーヴを見た瞬間、湧き出るようにして違和感が膨れ上がり……数日後、自分の前世を思い出した。

 それによりガットネーロとルーヴが自分にとって因縁深い相手だということを確信したのだ。

 前世で自分がどう死んだかを思い出す……それは、絞め殺された彼にとっては恐怖でしかない。

 その恐怖はこの世界でも絞め殺されるのでは、という疑念になり……。

 やがて、その強迫観念に突き動かされながら、彼はルーヴ達を探し……そして、帰城途中の彼らを目にし、クリムゾニア軍の所属だと知ったのだ。

 そして襲撃するチャンスを探し……彼らが少数で行動する今を狙った。

 しかし、その結果が絞首により死にかけるというオチなのだから笑えない。


「アンタ……殺された理由も覚えてないの? 逆恨みも良いところじゃない」

「ひっ……!」


 ナイフを目の寸前まで動かすガットネーロに、石川が声を上げる。

 そうだ、全ては自業自得なのだ。

 この男は殺されても仕方がなかった、それはハッキリと言える。

 そう考えながら、ルーヴとガットネーロはこの男の犯した罪を思い出していた。

 二人が、この男を殺して逃げ出すハメになった罪を……。

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