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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第六十六話 絞殺と考察

 リゾート地への護衛を引き受けた面々が、脅迫やら因縁やらと若干不穏な空気になっている頃……。

 クリムゾニア城では、ふと新たな疑問が生まれていた。


「お疲れ様、クリムちゃん」

「ああ、ありがとうピーヌス」


 仕事が一段落付いたらしく、労を労われているクリムゾンフレア……。

 そんな彼女に、ピーヌスが茶を運んでくる。

 味覚は大分曖昧になってしまったが……それでも気分が安らぐものだ。

 なんだか、鼻孔をくすぐる香りがどこか懐かしい気がする。


「この香りは……ハーブティーか?」

「そうよ、前の世界で好きだったでしょ?」


 辰巳ユウコの時の記憶はしっかりと残っている。

 なので、確かにハーブティーに喜んでいた記憶はあるのだが……。

 しかしそれは実のところ、ハーブティーが好きというよりは莉子が持ってきてくれたものだから……といった面が強い。

 そこからだんだん、ハーブティー自体も好むようになっていたというわけだ。

 だがそれを言うのは気恥ずかしいので、今は黙って香りを楽しむことにした。


「すっかり莉子の記憶も戻っているんだな」

「ええ、すっかりね、ピーヌス・ウェネーヌムとしての私と松田莉子としての私が……こう、ごく自然に一つになった感じ、パズルのピースがきっちりハマる感覚かしら」


 ピーヌスの言葉に、クリムゾンフレアは「なるほど」と呟く。

 しかし同時に、一つ疑問が浮かんだ。

 ピーヌスも自分も、前世がどんな存在だったかを思い出した者……。

 しかしその意志の在り方は、少し違うように感じたのだ。


「クリムゾンフレアと辰巳ユウコは、二つの魂が一つの肉体に入っている……というような状態になっていたからな、そして二つを統合した今でも、気を抜くと一人称が私になったり我になったり……口調が少し混ざってしまう」

「ああ、なるほど……どっちがメインなのかしらと思ってたけど、どっちもなのね」

「そうだ、しかし対してピーヌスは安定しているな……と思った」


 確かにピーヌスは、前世の記憶を取り戻してからも一貫して立ち居振る舞いが変わらない。

 いつも通りのピーヌスといった雰囲気だ。

 そう言われて、ピーヌスは少し考え込む。


「うーん、仮説なら有るけど……聞きたい?」

「ああ、ぜひ」


 どうやら転生後の人格の統合について仮説があるようだ。

 こういったところはやはり頼りになる。

 当人は「飽くまで仮説だけど」と言っているが、聞いてみる価値はあるだろう。


「たぶん、転生前後の人格の差異が大きいかどうか違いだと思うのよね」

「人格の違い……」

「ほら、私と莉子はそんなに違いがないけど、クリムちゃん……ああ、クリムゾンフレアの方ね……とユウコちゃんは大分違うじゃない」


 曰く、夢の中で見てきたので本来肉体の主であるクリムゾンフレアの人格も理解しているらしい。

 そう言うと、ピーヌスは更に説明を続ける。


「人格が似通っているなら、きっと私のようにすんなり合致すると思うのよね、逆に双方の人格に大きな差異があったりすると……」

「なるほど、その場合は人格が統合されずに二重人格状態になる、ということか」


 確かにその仮説は間違っていないかもしれない。

 ピーヌスは「飽くまで仮説なんだからね?」と念を押しているが……。

 すんなりと受け入れられる、わかりやすい理屈だと思った。


「この理屈がもし正しいとするなら……隠してる人もいるのかもね」

「隠している?」

「前世の記憶を得たことを、それでいつも通りに振る舞ってる人もいるのかも」


 確かによほど計算高い人物などといった場合は、そういうこともあり得るのかもしれない。

 前世の記憶を思い出すも、それを隠して利用する……。

 もしそういうことを出来る者がいれば……。

 少しだけ、怖い人物なのかもしれない。

 クリムゾンフレアはそう思った。

 それも仕方がないだろう。

 前世の記憶が戻れば普通は混乱するものだ。

 しかしその動揺を上手く隠したうえで利用できるとすれば……それはきっと、手に負えない人物なのだろう。

 願わくばそういう人物とは敵対せず共にありたい。

 そう考えながらクリムゾンフレアは息を吐くのだった。



「そういえばお姉ちゃん」

「ん、どうした?」


 リゾートへ向かう道中、ふとガットネーロがルーヴの顔を覗く。

 何かを尋ねたい、といった顔だ。

 どこか期待が入っているようにも見える。


「実は……昔会ったことが有るっていったらどうするッスかね」

「は……? そんなこと有ったか? 狩猟に出た時にでもか?」


 ルーヴの反応に、ガットネーロはうんうんと頷く。

 そして……満足げに腕を組んだ。


「その様子じゃ覚えてないみたいッスね」

「あたしがとぼけてたらどうする?」

「いや、とぼけて隠せるタイプじゃないでしょ」


 失礼な発言だが、否定も出来ないのでルーヴはぐぬぬとうなり声を上げる。

 そして、握り拳を下ろすと息を吐いた。

 その様子に、ガットネーロはやはり心底安堵しているようだ。


(……あの記憶があなたになくて良かった、あれは辛い記憶だから)


 辛い記憶、それが何なのかはガットネーロにしか分からない。

 だが……一つハッキリしているのは、あの記憶というのがかつての世界の記憶ということだ。

 ガットネーロの中にはかつての世界の記憶がある。

 そしてガットネーロは、ルーヴこそその世界で愛しさを感じていた者の生まれ変わりだと確信しているのだ。


(実は特訓中に感じたあの動揺の瞬間、全部思い出してたんだよね……)


 愛しさ、後悔、悲しみ、そして憎悪と怒り。

 表に出さないようにするのは簡単だ、いつも通り虚無の仮面と笑顔の仮面を重ね着すればいいのだから。

 しかし……表に出さなくとも裏には当然たまるのだ。

 どうしたものかな……とガットネーロは笑う。

 実際、裏にためたそれをあっさり堪えきれなくなったからこそ……記憶を得たことは表に出さなかったものの、動揺を上手く利用してああいう関係に至ってしまった。

 今後そういった衝動を堪えきれなくなることはあり得ないとは言い切れないのだ。

 だからこそ……そういった芽になりかねないルーチェに釘を刺していたのだが。


(もしあの子が危害を加えてたら、それこそ刺してたもんね)


 傭兵なりたての頃に全財産を巻き上げられた恨みというのも当然あるのだが。

 それ以上に今の自分はルーヴへの危害に敏感になっている。

 もし誰かが危害を加えれば、それこそ相手がクリムゾンフレアでも牙を剥いてしまうだろう。

 それで自分が死ぬだけなら別に良いのだが、万一ルーヴも死ぬようなことがあってはいけない。

 それを避けるためにも危険の芽は事前に摘んでおくべきだ。

 そう考えながらガットネーロは息を吐き……。

 そして、少し考える。


(しかし、私とルーヴがこの世界でも出会ったこと……これは偶然なの?)


 ガットネーロは、このルーヴとの出会い……いや、再会が偶然とは思えなかった。

 偶然と偶然が重なり合って出会ったようでいて、その実互いに惹かれ合っていたとすれば……?

 それは偶然ではなく、運命……そして魂と魂が呼び合い引き合う引力というものではなかろうか。

 もし運命が、そして引力が実在するのであれば……。

 もしかすると、前世からの繋がりというものを持つ存在は多いのかもしれない。

 そう考えながら、ガットネーロは息を吐く。


(……何はともあれ、この縁を大事にしないとね……)


 えにし、よすが、そういったものが自分達を引き寄せたのならば……。

 やはり自分にはこの女しかいない、そういうことなのだろう。

 守ってやりたい、愛してやりたい。

 その為ならば、ルーヴに危害が及ばない範囲で何人殺したっていいのだ。

 何故なら……。


(そう、あの世界でだって私はそうしたのだから……)


 手に握ったロープの感覚を思い出す。

 目の前で力無くつり下がる体、そして……尻餅をついたまま下を向いていた“彼女”が顔を上げて自分を見る。

 驚愕の顔、握られる手、二人で逃げ出した記憶……。

 思い出してしまった、もう忘れられない遠い日の思い出……。

 そうだ、もしもルーヴに危害が及ばないのであれば、いくらでもあの日の再現をすれば良い。

 それだけなのだ。


「ねえお姉ちゃん」

「ん……?」

「大好きッスよ」

「ば、馬鹿、何を急に言い出してんだよ」


 ガットネーロの言葉に、思わずうろたえるルーヴ。

 そんな彼女にガットネーロはただただ笑みを向ける。

 とても穏やかな光景だ。

 ルーチェは内心「私を脅してきた人もこんな穏やかなところが有るんだ……」と舌を巻く。

 しかしガットネーロの目はうっすらと開いており、どこか狂気的な面が見え隠れしている。

 その事に気付いたワルトは、彼女にしては珍しく……静かに息を呑むのだった。

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