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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第六十五話 この軍で最も怖い女

「そういえば、ルーヴと言ったな」

「ああ、そうだが……アンタはズワールトだったか」


 リゾート予定地への道中、鬱蒼と茂った森の中でふとワルトがルーヴに話を振る。

 興味深げ……といった表情だが、ルーヴは「なんだか値踏みされているようだ」と少しうんざり顔だ。

 本の虫であり向上心の塊であるワルトには、北部にいない種族であり強者でもあるルーヴが心底興味深いのだろう。

 そしてルーチェにはそれが気に入らない、ついでにガットネーロはルーヴ以外に容赦がないので、下手をするとルーチェが刺されかねない……。

 ワルトにもルーヴにも、ついでに商人にもこのメンバーを組んだクリムゾンフレアにも自覚はないが、一触即発の状況と言える。


「そう警戒するな、ただお前に興味があるだけだ」

「興味、ねえ……」

「老ガルム殿の含蓄有る言葉を色々聞いたからな、娘のお前にも色々聞きたい」


 どうやら、クリムゾニアに着いてからガルムと色々話をしたらしい。

 それも興味の一因といったところか。

 父の意外な交流にルーヴは思わず舌を巻いてしまう。

 流石は年長者……といったところだろうか。


「ガルムさんは私も凄いと思いますけど……でも、娘も良いこと言えるんですかね」

「む……期待に添えるかは分からないが、聞かれれば答えるぞ」


 娘である以上父と比較されるのは仕方がないが、話をする前から父より劣ると決めつけられるのは腹が立つ。

 そう思ってしまうのは、まだ若いと言うことなのだろうか。

 何はともあれ、ルーヴは聞かれたら答える気が満々のようだ。

 その姿を見ながら、ガットネーロは手を挙げる。


「はい! じゃあ質問ッス! 将来的に子供は何人まで欲しいッスか?」

「何を言い出してんだお前は!?」

「えー、聞かれれば答えるんじゃなかったんスか?」


 うろたえるルーヴに、ガットネーロがクスクス笑う。

 その姿を見ながら、ルーチェは呆れるが……しかし同時にワルトを見つめ、もし自分達に子供が出来たら……と想像してしまう。

 女同士ではあるが……ここだけの話、東部では“同性で子供が作れるようになる魔法”というものが古来より研究されている。

 何故研究されているかといえば、それはウロボロスが大事な母二人に「血の繋がった子供を得て欲しい」という気持ちを抱いたからなのだが……。

 一般にもこの研究は共有されており、それ故に東部の民は同性での恋愛に北部民や西部民、中部民よりも寛容かつ積極的なのだ……色々な方向性で。

 ちなみにクリムゾニア軍における代表的な東部出身者は、ピーヌス、ガットネーロ、ルーチェという面子だ。

 そう言われると彼らの積極性も頷けるだろう。


「しょ、しょうがない……ウェアウルフに二言はないからな……………………ふ、ふたり」

「うんうん……顔を赤くしながら小声で呟く姿、いいッスねえ……」

「お前なあ……もういいわ……」


 脱力し、息を吐くルーヴ。

 その様子にワルトは内心同情する。

 しかし同時に、年下がこうして狼狽する姿は微笑ましくもあった。

 自分がどこかへ置いてきた若い頃の気持ちをみている気分とでも言えばいいのか。

 勿論、26などまだまだ若造の範疇なのだが。

 しかしこの年代の6歳差がそれなりに大きいのもまた事実なのだ。


「あの……ワルトさん」

「ん?」

「ワルトさんは何人欲しいですか?」


 ルーチェの問いかけに、ワルトは東部で研究されている技術を思い出す。

 この辺りは流石本の虫たるインテリ剣士といった所だろう。

 ワルトは動じることなく笑みを浮かべ、しょうがないと言わんばかりに口元を緩めた。

 そして……。


「全てが終わったら、お前が望むだけ……といったらどうする?」

「……!!!」


 耳元で囁かれ、ルーチェは顔を赤くする。

 そして、顔を両手で押さえながら若干距離を取った。

 完全にやられた、と言わんばかりだ。


「くうう……! ずるいですよ、そういうの……」

「ふ……オレを動揺させるには10年早いな……」


 もっとも、10年経てばこちらも10年分の落ち着きを得ているが。

 そう言いながらワルトは腕を組む。

 やはりこの人には敵わない……。

 そう考えながら、ルーチェは彼女を動揺させようとした自分の浅はかさに息を吐くのだった。


「ふふっ……! なんだよそれ」

「ちょっと! あなたも動揺してたじゃない!」

「お、お前みたいに返り討ちには遭ってないって……!」


 腹を抱えて笑うルーヴ。

 そんな彼女に、ルーチェは「ぐぬぬ」と言いながら顔を更に赤くする。

 もはや真っ赤なトマトのようだ。

 比喩表現ながら、この形容もそうそう的外れではないだろう。


「そう拗ねるな、ルーチェ」

「うう……分かりましたよ、私ももう25ですもんね……」

「……25!? 5歳上なのか!? あたしより!?」


 25、そう言われて驚愕してしまうルーヴ。

 そんな彼女に、ルーチェは思わず鋭い目を向ける。

 25歳には見えない、と言われるのがやはり一番へこむのだ。

 もう取り返しの付かない年齢なだけに、尚のこと……。


「いや、すまん……つい驚いた」

「別に良いけど……ふう……というかそっちは、その背丈で20なのね」

「ああ、ウェアウルフはあたしと同じくらいが平均だ」


 178センチ、人間換算で言えば中々の高身長だが……。

 しかし、ウェアウルフからしてみるとこれでも平均身長らしい。

 その辺りは、流石の狩猟民族と言ったところか。


「種族全体が鍛え上げられた肉体を持つ、か……良いな、ますます力を見てみたくなった」


 全体が強者である環境の中でも他のウェアウルフを率いるほどの強者。

 果たして、そういった存在はどれくらい強いのか……。

 強くなることをひたむきに追い求める存在としては、非常に興味がある。

 手合わせを出来ればそれが一番なのだが、同じ軍に所属している以上それはできない。

 同軍同士の私闘など軍の規律を守るうえで以ての外だからだ。

 軍の協力者となるのは初めてとはいえ、ある程度は近隣の町とのコミュニケーションも取ってきた身として、そういう秩序維持の重要さは理解している。

 そんなワルトを見ながら、ルーヴは首をかしげているようだ。

 どうやら、ワルトの考え方に興味があるらしい。

 ルーヴも未来の族長としてより相応しい存在になるべく見聞を広める者という意味では、求道者であり強くなろうとする者だ。

 そういう在り方ゆえの親近感……のようなものが有るのかもしれない。


「なんでアンタはそこまで強くなりたいんだ? 一合も交えたことがないし、アンタの逸話もよく知らないが……聞いた話、既に大陸各地に名が轟くほど強いんだろう?」

「どれだけ強くなれど、より強い者が現れないとは限らないからな……オレは滅びし故郷の守り手だ、今は故有って故郷を託し離れているが……いつ故郷にどんな敵が来ても良いよう、常に最強を目指す必要がある」

「なるほど……墓守の使命感、ってわけか」


 同じく故郷を失った者として気持ちは少し分かる。

 ルーヴの場合は家族や民は喪われずに済んだが、それでももし同じように家族が奪われていたら同じ事をしていただろう。

 そう考えると、少し親近感がわいてくる。

 一つの土地を継ぐはずだった者、その土地を失った者、向上心を持つ者、問題児を抱える者、しかして家族や民を喪っているか……という一点で異なる者。

 そんな、似て非なる者どうしの少し不思議な親近感だ。


「……」


 彼らがそういう親近感を向け合っているのが、ルーチェは気に入らないようだ。

 少し顔をしかめている彼女だが……そこに、ガットネーロが軽く肘でちょっかいをかける。

 そして、にこやかな笑みを向けた。


「ほらほら……アウトローの顔が出てるッスよ、元山賊さん?」

「……! どうしてそれを……?」


 ガットネーロの言葉にルーチェの表情が凍る。

 山賊であった過去を知っているのは、北部に同行した者達と天生隊だけのはずだ。

 そして彼らには、クリムゾンフレアから余計な軋轢を生まないために箝口令が敷かれている。

 つまりガットネーロが知っているのはおかしいのだ。


「お、やっぱ忘れてるッスね、まあアンタ達からしてみれば略奪を仕掛けた女の一人でしかないしそれも当然か、あの時は大変だったなあ……流石に数が多すぎて、アタシもアンタに有り金を差し出すしかなかった、おかげで三日は食事も買えず……」

「……!!!」

「ははは、いい顔ッスねえ、まあそういうわけなんであんま信用できないんスよ……だから、他はともかくお姉ちゃんに手を出したら……ねっ?」


 微笑みながら、周りに見えない位置で腹にナイフが突きつけられる。

 あと一歩進めば、刃が腹の肉を突き刺すであろうギリギリの距離にルーチェは息を呑んだ。

 最近は恨む立場になり忘れていたが、自分もまた恨まれる立場だったことを思い出してしまう。


「……その、その節は……ごめ」

「ああ、謝罪とかはいいんスよ、今は同じ軍の一員じゃないッスか、ふふふ、ただ……いつも見てるんで、その事は忘れないで欲しいッス」

「……わ、分かった……」


 実戦経験は一切なかったとは言え……元ギャングらしく、脅迫の技術を見せるガットネーロ。

 そんな彼女の猫の目が、怪しく光ってルーチェを見つめる。

 それは、いつだって警戒しているぞという意思表示なのだろう。

 その姿を横目で見ながら、ワルトは息を吐く。

 ガットネーロに殺意があれば助け船を出していたが……。

 今回は殺意のない脅迫であることが見て取れたため、静観していたのだ。


(……これまでは恨むばかりだったルーチェが、他者の恨みに触れたか……)


 それがどんな結果をもたらすかはまだ分からない。

 だが、これが何か良い結果をもたらす可能性を考え、ワルトは命に別状がない限り静観をするつもりのようだ。

 一種似たもの同士であり、しかし似て非なる部分も持つガットネーロとの出会い……。

 それは確かにまたとない機会だろう。


「ほらほら、怯えないで」

「お、怯えてなんて……」

 

 親と死別した者、親と離別した者、労役奴隷だった者、ギャングの元で死に物狂いの訓練をした者、山賊として略奪に励んだ者、ギャングとしては一度も活動せず宮仕え隠密から傭兵と真っ当に生きた者……そして、一途に一人を愛する者どうし。

 また、本性を仮面で隠して生きるガットネーロとの出会いは、自身の気持ちを隠せないルーチェに良い影響を与える可能性もある。


(何はともあれ、今後次第だな……)

「おいワルト、聞いているのか?」

「……ああ、すまない、もう一度頼む」


 何が起きているか気付いていない様子のルーヴに返事をしながら、ワルトは腕を組む。

 その後ろで、ルーチェは今にもワルトに助けを求めたい気持ちを抱えていた。

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