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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 ウキウキ☆ドキドキ☆身体測定 後編

「おい、クルテル、お前も身体測定……に……?」

 

 クルテルを探しに彼女の部屋へ来たケラスス……。

 彼女の目に入ってきたのは、黒い霧の漂う部屋だった。

 その中に、逆さの顔を持つ怪獣がいる……。

 知らない存在のはずなのに、何故か知っているような……。

 そんな気がしてしまう。


「……クルテル、なのか?」

「……お姉様、うん、私……ごめん、すぐに人間の姿に」

「いや、そのままでいいさ」


 ケラススはゆっくり歩み寄り、怪獣の甲殻から出た蛇頭の触手を撫でる。

 やはりこの怪獣を自分は知っているのだ。

 そう……この怪獣は、神と呼ばれる存在……。

 かつて自分が戦った相手。

 そうだと確信できる。

 見えるのだ、何かしらの手段で空を飛んでいる自分が眼前に彼女の姿を捉えている……そんな光景が、くっきりと。

 主観視点での光景である以上、これは自らの記憶なのだろう。


「それがお前の神としての姿……なんだな」

「うん、そしてあなたがかつて壊した存在……希死念慮の神」

「希死念慮……死にたい気持ち、ねぇ……」


 今まで、クルテルが神と言われてもピンと来なかった。

 だが……この姿を見ていると理解できる気がする。

 彼女が神だということも、その神をかつて打ち破ったということも。

 何故なのかは分からないが……遠いどこかの記憶が疼く、とでも言うのだろうか。

 確かにあったことだ、という確信があるのだ。


「なあ、なんでお前さんは今更その姿に?」

「……色々と、すべきことを見つけたの……」

「すべきこと?」


 すべきこと、それが何を意味するのかは分からない。

 神が何を考えているかなど人間のケラススには分からないのだ。

 いや……もしかすると、神相手ではなくても、人同士だって何も言わずにわかり合うなんて出来ないのかも知れない。

 相手を理解することが出来ているつもりになったって、所詮そんなものはつもりでしかない……おこがましい思い上がりなのだ。

 互いの脳みそは別々で、考えていることも別々……自分の意識は自分にしかなく、その人の思考など本人にしか分からないはずなのに。

 いつの間にか人は相手の意識を勝手に自分の中で思い描いて、一方的に理解したような気持ちになってしまう。

 所詮そんなもの、勘違いも甚だしい“相手の気持ちになったつもり”という思い込みでしかないにもかかわらず、だ。

 それはとても愚かしいことで、だからこそ言葉で話し合うのが必要なのかも知れない。


「その内容を言ってくれ、もし手伝えるなら手伝ってやらぁ」

「……! お姉様……ありがとう……」


 内容を聞かれる、それは予想外の事だったのだろう。

 クルテルは怪獣の大きな目を見開き……そして、目を伏せた。

 何を考えているのだろうか?

 心には背丈と違って測りがない、言われなければ完璧に推し量ることなどできないのだ。

 仕草からすると……うろたえているように見えるような気もするが……。

 作っている仕草の可能性だってある。


「……でも、あのね……」

「……言いたくないか?」

「……言えば覚悟が鈍ってしまいそうだから」


 覚悟が鈍る、それがどういう意味なのかは分からない。

 だが……ケラススの中には嫌な予感があった。

 ……ラクエウスから聞いていたことを思い出したのだ。

 それを思い出すと、彼女が……どこかへ行ってしまいそうに思えてしまう。

 杞憂ならいいのだが……聞かずにはいられない。


「最近、お前……色々なことに積極的になったが、同時に思い出になったって口にするようになったらしいな」

「……」

「……」


 怪獣の表情は読めないが、下を向く仕草からしてばつが悪いのだろうということは分かる。

 勿論、それも思い込みかも知れないが……。

 それでも彼女の動きを見ていると……どうしても聞きたくなってきた。

 自分の中の嫌な予感、その核心を突く問いかけを。


「……もしかしてお前は……お前のすべきことってえのをしたら……消えちまうのか?」


 ケラススは神に人と同じような死があるのか知らない。

 だが、思い出作りを急にしだすような状況など……彼女には一つしか思い浮かばなかった。

 それは、別離を目前に控えたときだ。

 別離というのが死なのか、それとも遠くへ行くのかは分からないが……。

 何にせよ、人の世にはもういられないのではなかろうか。

 そう危惧したケラススの問いかけに、クルテルは黙り込む。

 そして……。


「……ごめんなさいお姉様、今回は壊されたくないの……決意が鈍ると、もう何も出来なくなりそうだから……でもあなたの気遣いはきっと忘れない……」

「……あ、おい……!」


 引き留めるより早く、霧が深くなりクルテルの姿が消える。

 逃げられた……そう思いながらケラススは拳を握りしめた。

 追おうか、そう思うが……しかしクルテルの言葉が気になってしまう。

 彼女は、決意を鈍らせたくないと言ったのだ。

 クルテルがやろうとしていることは、きっと存在意義レベルで重要なことなのだろう。

 それを本当に邪魔して良いのか?

 姉としてすべきこととは?

 正直な話、ここで止めずに彼女が死ぬようなことがあれば、一生ものの後悔になるだろう。

 だが……その死こそが彼女の最終目標であり到達点ならば……。

 それを自らの後悔したくないという欲のために止めるのは、間違いではないのか?

 我欲のために止めてしまえば、それで後悔するのはクルテルのはずだ。

 ならば彼女の道行きを見守ることが正解なのではないか?

 そんな葛藤が渦巻く。


「どうすればいい……?」


 問いかけに応える者はいない。

 ケラススは、ただ一人思い悩むしかなかった。

 石造りの廊下が、今はただ寒く思える。

 晩秋の季節が来たから、というだけではないのだろう。


(温泉に入りてえなあ……暖まりてえ……)


 心中で呟き、息を吐く。

 吐き出された息は山の標高もあってか、既に白いようだ。

 それがますます、心中の寂しさをかき立てる……そんな気がした。



「んー、こうして測ると猫獣人の小ささを思い知るッスねえ」


 さて、ケラススがいない間に身体測定はラクエウスの次へと行っていた。

 身長151センチ、17歳にしては小さめだが猫獣人としては平均的な身長だ。

 27センチ差ということもあり、ルーヴとの身長差はほぼ頭一つ分といったところか。

 軽業に長け、隠密も得意な種族らしい小柄さと言える。


「ガットネーロ、お疲れ」

「お、どーもお姉ちゃん」


 コーヒーを受け取り、ガットネーロは勢い良く飲む。

 苦味は痛覚不全を起こしているガットネーロでも感じられる味なので好きだ。

 勿論痛覚によって感じる味など辛味しかないので、他の味は全部好きと言うことにはなるのだが。

 そんな中でも、苦味は一番好きなのだ。

 元々は顔をしかめておけばそれっぽく振る舞えるからという理由で飲み始めたのだが。

 今は結構なコーヒー通になったといえる。


「相変わらず、熱いのでもグイッと行くな……火傷するなよ」

「あー、痛みを感じないからついいっちゃうんスよね」


 熱湯などによる痛覚の反応、それがないので熱いものでも平然と食べられる。

 それはルージュ村で焼いた肉を冷ましもせずに食べていた姿からも分かるものだ。

 便利なものではあるが、同時に火傷をしても一切気づけない諸刃の剣でもある。


「まったく……少しは自分を大事にしろよ」

「ふふん……じゃあ……」

 

 心配げなルーヴ……。

 そんな彼女に、ガットネーロはすり寄っていく。

 そして……。


「これからは毎日、お姉ちゃんにフーフーして欲しいッス」

「ぶっ、ふぉ!!! おま、んっ!? はあ!?」


 飲んでいたコーヒーを噴き出し、うろたえるルーヴ。

 そんな彼女を見ながら、ガットネーロはクスクスと笑う。

 まるで悪戯っ子のような笑顔だ……。

 怒りたかったが、彼女の笑顔を見ていると何も言えなくなる。

 そんな葛藤をしながら机を拭くルーヴの視界の先で、カペルが伸びをした。

 どうやら幹部級の測定は粗方終わったらしい。


「136センチ……改めて言われると凄い屈辱というか……測定の間だけでも本気モードになれば良かったかしら……」

「……聞いた話、それって一度使うとしばらくチャージがいるんだろ……? なら、そんなくだらない理由で使うのはやめとけよ……」


 本気モード、即ち大人の姿……。

 それになれば良かったかもしれない、そう考えるカペル。

 それに対して、ルーヴは冷静にツッコミを入れる。

 そんな彼らの姿を見ながら、ユウリィとウルスは見つめ合った。


「ボク達も……いつかはあそこに入りたいね」

「う、ん……そう、だね……」

「入れますよ、お二人ならきっと」


 まだ剣術の向上途中であり、正式な軍属ではないユウリィ。

 右に同じく修行途中のウルス。

 二人は今回の測定に当然参加していない。

 そんな二人の頭を、アラクネは優しく撫でた。

 146センチのユウリィと150センチのウルスにとって、162センチのアラクネは結構な大きさだ。

 いつか自分も彼女のような背丈になれるだろうか。

 ユウリィは、凜々しくなって剣を振るう大人の自分を思い浮かべる。

 いつかはきっと、そうなりたい……。


「ねえ、ユウリィくん」

「ん……どうかした? オレオルくん」

「ユウリィくんは軍人になりたいの?」


 オレオルの問いかけ、それは純然たる興味によるものなのだろう。

 だがその問いかけに、ユウリィは少し考え込む。

 なんと説明したものか迷うのだ。

 自分がなりたいもの、それは軍人というより……。


「自立できる立派で格好いいボクになりたいんだ、だから戦争が終わったら軍を離れるかも知れない、オレオルくんは何か夢はある?」

「自立……格好いいなあ、僕はお姉ちゃんの薬剤師のお仕事を手伝えるように、学者になるんだ! お薬になる葉っぱを勉強して、こういうの植生学者っていうらしいよ!」

「へえ、立派な夢だなあ……ボクよりよっぽど具体的だ」


 笑い合う二人。

 その姿にウルスは少しムッとする。

 同じくらいの背丈である二人が笑い合っていると、まるでカップルのようなのだ。

 オレオルはお姉ちゃんにベタ惚れで、ユウリィは性自認が男性なので杞憂なのだが……。

 まあしょうがない話だろう。

 ウルスは精神的にまだ幼い、独占欲があって当たり前なのだ。

 だがそんなウルスにオレオルが笑顔を向ける。


「ウルスちゃんは何か夢って有るの?」

「う……夢……」


 教育を受け、夢というのが何なのかは既に理解している。

 しかし改めて夢と言われると……一つしか思い浮かばなかった。


「私……ずっとユウリィと、いる! それ……夢!」

「ウルスちゃん……! うん、ボク達ずっと一緒だよ! どこへ旅に行くときも、絶対一緒に行こうね!」

「わあ……! 凄く仲が良いんだね!」


 抱き合うユウリィとウルスを、オレオルは拍手しながら祝福する。

 そんな子供達の姿を、大人達は遠巻きに笑顔で見つめていた。

 あのルーチェすら、穏やかな顔で見ている。

 ……その内心には「私とワルトさんに子供がいたら」などという妄想が渦巻いているようだが。

 まあ、それはさておいてだ。

 何はともあれ、今のクリムゾニアには……戦時中であることすら忘れるような、穏やかな雰囲気が満ちていた。

 こういうのをもしかすると、幸せというのかもしれない。

 願わくば戦争が終わった後も、こんな幸せを満喫できるように……。

 そう考えながら、彼らは穏やかな時間を過ごすのだった。

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