外伝 ウキウキ☆ドキドキ☆身体測定 前編
「おいおい、ガルム! アンタもいるとはな」
「これはカルラ……! 若い頃を思い出しますな」
挨拶回り中に、見知った顔を見つけカルラが声を上げる。
その声に反応し、ガルムもまた笑みを浮かべた。
どうやらソヌスの親とルーヴの親は互いに知り合いらしい。
「すっかり丸くなりやがって……マーナは元気してるか?」
「いえ……マーナは娘が幼い頃に病気で……そちらは、グルルはお元気ですかな?」
「あー……こっちも娘がガキの頃に賊にな……」
親しげに昔を懐かしむ二人。
その姿を見ながら、母にこれ以上暴露をされてなるかとついて回っていたソヌスは目を点にした。
母の意外な人脈に驚いているのだ。
「知り合いだったのかよ」
「互いに若い頃にな、4人で見聞を広めたんだよ」
一族を継ぐ者として旅をした過去。
4人で冒険をした懐かしい思い出……。
恐らく、その頃にウロボロスとの出会いも生まれたのだろう。
「へっ、しかし互いに年を食ったな」
「ええ、実に老け込んだものです」
「そこはあなたはまだ若いです、とでも言うもんだろ?」
和気藹々と話し、笑い合う二人。
その姿を見ていると、ソヌスは「二人にも若い頃があったんだな」と感慨深くなってくる。
そして同時に……若い頃は背丈も今より高かったんだろうと考え……。
「そういえば、この軍で一番背が高いのはクリム陛下とピーヌスだとして……残りの面子はどんな背丈なんだろうな」
ふとした疑問を口にするのだった。
その疑問はもうすぐ解消されるとも知らずに……。
「失礼します! 陛下、猫又之国より訪問者です!」
「ああ、ご苦労……君は?」
「お初にお目にかかります、私はカジ・ミナキ、猫又之国の鍛冶屋です」
カジ・ミナキ、そう名乗ったメスの白猫獣人はぺこりと一礼する。
可愛らしい見た目だが腕の筋肉は中々に発達しており、鍛冶職人としては結構な場数を踏んでいるのだろう。
「此度は皆様に装備一式を新しく作るようにと部下共々猫又之国より派遣されました、サーペンタインからも鍛冶屋が派遣されると伺っております」
「そうか、それはありがたい、行軍に交戦と……みな装備が劣化していたからな」
北部で精錬された金属類も協定により流れてきている今、装備の刷新はありがたい。
まさしく重畳と言わんばかりのタイミングだろう。
そこはまさしく、国家元首の先達様々と言ったところか。
「つきましては……装備のサイズなどを確認すべく、皆様の身長などを測定させて頂きたいのですが」
「む……身体測定か」
「はい、よろしいですか?」
確かに、体格を調べないことにはそれに見合った装備は作れない。
現在は行軍の予定も無いので、クリムゾンフレアは彼女の提案を承諾することにした。
こうして……第一回、クリムゾニア軍身体測定が開始したのである。
まずは幹部級だけを揃えて、それから一般兵も測定するという形なのだが……。
幹部級が並ぶだけでも、中々に圧巻だ。
「こうして並ぶと……私達龍人の大きさがよく分かるわね」
背の順の先頭に並んで立ち、感慨深げに腕を組むピーヌス。
そんな彼女にクリムゾンフレアも「そうだな」と頷く。
当たり前になってしまったので気にもしていなかったが、思えば中々に大きくなったものだ。
最初期の身長よりも、多くの変化を経たことで更に大きくなっている。
現在はだいたいセンチメートルで260くらいだろうか。
「では計測させて頂きますね」
宣言と共に計測が始まる。
まずはクリムゾンフレアからだ。
このサイズを測れる尺が有るのが驚きだが……龍人信仰の国なのだから、いざという時のために用意していたのかも知れない。
「ええと……身長が260、バストが150、ウエストが87、ヒップが130……体重は筋肉量と身長からして160くらい……Eカップと……流石龍人、規格外ですね」
「お、おいおい……そこまで計測するのか……恥ずかしいな」
カップサイズ、体重……そこまで晒されることに、クリムゾンフレアは少し恥ずかしそうだ。
だが量らないことには正確な装備が作れないため、カジは量るし記録要員に口で伝えていく。
しょうがないと諦めるしかないだろう。
「お次は、ピーヌスさん……身長は230、バストは125、ウエスト84のヒップ124……体重は筋肉量からして125で、だいたいMカップでしょうか、やはり龍人は流石ですね」
「褒めてくれてありがとう、といいたいのだけれど……なんか手つきがいやらしいわね……」
若干の下心だろうか、そういうのをカジから感じ取り、ついついピーヌスは尻尾の毒腺を向けてしまう。
だがカジは動じることもない。
一種の大物と言えばいいのだろうか……。
クリムゾンフレアとピーヌスは半ば呆れながら見つめ合う。
「ではお次は、リオンさん」
「ふふ……ここに位置できたのは、男児の面目躍如といったところでしょうか」
さて、ここからは龍人よりは大分平均的な人間や獣人のサイズ測定だ。
もう椅子は必要ないようで、カジも少し安堵している。
「身長は180……バスト75のウエスト62、ヒップ70の体重は68くらいでしょうか……背は高いですが、大分痩せ型ですね」
「ははは、これはお恥ずかしい、筋肉はそれなりにあるつもりなのですが」
やはり研究職だからなのか、リオンは少し痩せ型のようだ。
それにしても、男性だからと言うのもあるのだろうが、本当に数字が一気に減っている。
龍人が如何に規格外のサイズかよく分かるだろう。
「お次は……ルーヴさんですね」
「ギリギリで身長が負けたか……悔しいな」
指を噛み、悔しさを露わにするルーヴ。
リオンが来るまでは龍人を除くトップの身長だっただけに、思うところがあるのだろう。
「身長は178、バスト97のウエスト65、ヒップ96……筋肉量からして体重は72くらいとして、Fカップ……! 流石はウェアウルフですね……」
「ウェアウルフではこれくらいが普通だが、そんなに凄いものなのか?」
「ええ、それはもう……!」
問いかけられ、興奮した面持ちになるカジ。
しかし、その後頭部に何かがぶつけられた。
ガットネーロのチョップだ。
「とっととするッスよ」
短く言い、元の位置へ戻っていくガットネーロ。
話が横に逸れているからというよりは……明らかな私情を感じるが、気にしてはいけないだろう。
「ごほん、では続きを……お次はケラススさんですね」
「応、まあほどほどに量ってくんなぁ」
「ええと……身長172、バスト85、ウエスト62、ヒップ87、体重は……68くらいかな、Bカップ……凄く平均的ですね」
高身長ではあるが、平均体重の標準サイズ……。
防御できない剣技を放つ凄腕の剣聖とは思えない体格だ。
絶えない生傷からたくましい印象を受けるものの、彼女の技術は体格よりは技量に裏付けされたものという証拠かも知れない。
「ったく……一言余計だよお前さんは、というかカップサイズまでわざわざ量る必要があんのかねえ……」
「……さあ、次へ行きましょうか」
「おい」
カジの反応に、ピーヌスが「えっ、わざわざ恥ずかしい思いでカップサイズを読み上げられたのは、ただの趣味だったの!?」と声を上げる。
それに対してカジが「良いじゃないですか、全員分量るんですよ、そんだけ苦労するなら少しくらい趣味に走っても!!」と叫ぶ。
身体測定は、一気にわちゃわちゃとした雰囲気になってしまった。
それを眺めながら、ワルトは小さく息を吐く。
身体測定には参加せず、ルーチェと共に椅子に座ってコーヒーを飲んでいたのだ。
「ルーチェは参加しなくて良いのか?」
「クリムゾンフレアが用意した装備なんてぜっったい嫌なんで」
そんなの使うならよそで買ってきます、と言いルーチェは鼻息を荒くする。
そう思うのも、まあ仕方がないだろう。
ワルトも今回の身体測定には、鎧は性に合わないということで不参加だ。
やはりコートが一番性に合う。
ただ……雪国生まれだけあって、東部に来ると秋でも少し暑いのがネックなのだが。
(正直……このコーヒーも内心熱い)
しかし、それを口に出してしまうのは流石にわがままだろう。
そう考えて、ワルトは静かにコーヒーへ息をかけるのだった。
「そういえば、ワルトさんの背丈は結構高いですよね、ルーヴでしたっけ、あの狼より少し小さいくらいですし」
「ああ、そうだな……お前はオレより頭一つ小さいくらいか、改めて身長を気にするというのも楽しいものだ」
身長、体格……そんな話をしながら二人は笑い合う。
そんな中……ふと、ルーチェは一つのことが気になってしまった。
いけない、いけない……そう思いつつも視線はワルトの胸へいってしまう。
その様子に気付いたのか、ワルトは笑みを浮かべる。
「ふ……青いな」
「あ、青いって……一つ差ですよ、私達」
ばつが悪そうに顔を赤らめるルーチェ。
そんな彼女へ、ワルトは不敵な笑みを向ける。
彼女にしては珍しい、悪戯っ子のような笑みだ。
「見たいのか?」
「そ、それはその……」
問いかけられ、言葉に詰まるルーチェ。
彼女はしばらく黙り込んだ後、撃沈して机に顔を押しつける。
頭から湯気が出ているのを幻視してしまいそうな撃沈ぶりだ。
「みたいに決まってるじゃないですか……! うう……!」
「ふ、だったら……今度また一緒に温泉にでも入るか」
微笑むワルトに、ルーチェは「ずるいずるい」と赤くなり続ける。
そんな二人の様子を見ながら、ガルムとカルラは目を細めているようだ。
「若くていいですな……」
「な、若さっていい」
すっかり老け込んだと自覚している彼らにとって、やはり若者は微笑ましい。
特に恋模様など最高のおやつだろう。
いつまでもこの城に集う若者達を見ていたい気持ちは有るが……。
だが、カルラはこっそりと立ち上がった。
「おや、もう行くのですか」
「ああ、族長の仕事があるんでね、娘が世話になってる連中への挨拶も娘をからかうのも済んだし、もう満足だ」
荷物を手に取り、一緒についてきた臣下達を手招きするカルラ。
もしかしたら、内心娘としっかりお別れするのが気恥ずかしいというのも有るのかもしれない。
何はともあれ、彼女はガルムに伝言を頼むと、残留しない部下を連れて城をこっそり後にするのだった。
一方……クリムゾンフレア達はまだわちゃわちゃとしている。
「良いじゃないか、サイズくらいどうだって」
「よくないわよ……」
「落ち着け、全員落ち着け!」
呆れるルーヴ、怒るピーヌス、なだめるクリムゾンフレア……。
他の面々も、ガットネーロが「Fか……」と呟きながらルーヴを凝視しているなど、みなやりたい放題だ。
この混沌はしばらく終わらなそうだ……そう考えながら、ガルムは目を細める。
彼らの青さも年寄りには眩しいもの、とても微笑ましい風景……彼はそう思うのだった。




