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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第五十六話 門閉じる鎖は解けて

 閉鎖的な街、ヒルンドー。

 そこに訪れたクリムゾンフレアが真っ先に思ったこと。

 それは……時代が遅れている、という感想だった。

 文明が、ということではない。

 遅れているのは武器技術だ。

 北部の治安が悪化してからの十数年、何も北部には災禍だけがもたらされたわけではない。

 悪化する治安、山賊……そういったものに対抗すべく、金属の製錬技術や武器の鋳造技術は大陸屈指に跳ね上がっていった。

 北部山賊が凶悪だったのは、これらの武器を殺害などで強奪して使用していたから……というのも大きい。

 対してヒルンドー兵が持っている武器は、クリムゾンフレアが持つ千年前の記憶を辿る限り……現在の北部が持つ技術よりも、十数年前のものなのだ。

 何故ここまで差が付いたのか、その原因は恐らく……いや、間違いなく……。


「ここだよ、クリム陛下」

「ん、ああ……ありがとう」


 集会場へ案内され、クリムゾンフレアは気を取り直す。

 何はともあれ、考え事はここで一時中断だ。

 ここからは交渉、考え事をしている場合ではないだろう。


「失礼させて頂く」

「おう、きな……アンタが報告の有ったクリムゾンフレアか」


 集会場の奥、族長用と思しき大椅子から射貫くような視線がクリムゾンフレアを刺す。

 その主はソヌスを大人にしたような姿のタカ鳥人……カルラだ。

 娘同様の柄の悪さが目立つが……それだけではない。

 全身から溢れる威厳のオーラは彼女が厳格な人柄で有ることを嫌でも想起させる。

 一筋縄ではいかない相手なのは間違いないだろう。


「ふん、バカ娘達も一緒か、音楽は上手くなったのかよ」

「……なったよ、今じゃ軍楽隊を率いてる」


 ソヌスの言葉に、カルラは肩をすくめる。

 そして静かに首を左右に振った。


「ハッ、戦争のための音楽……それがお前の今したい音楽か、外の世界は本当にろくでもないな」

「アンタに何が分かる、狭い世界で外に目も向けてないアンタが……世の中には、戦いがどうしても必要な時だって有る!」


 怒鳴るソヌスに、また殴打沙汰になるのではないかと周囲の鳥人達が戦々恐々とする。

 しかし、カルラは目を細めると静かに腕を組んだ。

 うろたえてはいない様子だ……これも年の功だろうか。

 何はともあれ、彼女の印象は文面とは大きく異なる。

 文面で受けた印象はヤンキーだが、実際に会うとヤクザの組長のような印象を受けると言えばいいのだろうか。

 クリムゾンフレアの中に有る辰巳ユウコの記憶、病院で知り合った老爺が実は組長で見舞いに来た舎弟に凄んでいた記憶を思い出す。

 何はともあれ、その凄みに怯えすくんでは話にならない。

 そう考えて息を吐くと、クリムゾンフレアは気を取り直した。


「我々の戦争には正当性が有るのです、ブラエドはサーペンタインへの度重なる悪質な干渉、そしてテルメ村やニライカナイへの虐殺行為をしました、そして今でも各地に手を伸ばしています」

「ふん……ブラエドらしいな、あの国は北部にも昔来て、小領地を壊していった」


 小領地の破壊、それが聞こえたのだろう。

 外で待っているワルトが顔をしかめる。

 親や領民を喪った件はやはり忘れられないのだ。


「だがブラエドは山賊に負けて撤退するような連中だ、そんな奴らとの戦争に参加する理由なんてこっちにゃない、切実さが足りないな」

「いや……奴らは悪しき発展を続けています、このままいけば……大陸を征するほどの技術を得るでしょう、そして……世界は滅ぶ」


 滅び、唐突に告げられたそれに族長は「は?」と声に出す。

 そうなるのもしょうがないだろう、滅びなどあまりに荒唐無稽だ。

 だが事実なのだから仕方がない。


「1000年前、文明は一度リセットされました……旧ブラエドの悪しき発展によって」

「悪しき発展……」

「同じく悪しき発展により滅んだ1万年前の世界、それを再現するかのような大量殺戮兵器……それを作り上げたのです、このままいけば……5年後に同じ事が起きます」


 5年後に津波が起き、また全てが流される。

 そうなれば今度は今の世界が放棄され、また1からの創世が待っているだろう。

 予言によりそれが分かっているということを、クリムゾンフレアは懇切丁寧に伝える。

 だが……カルラはしかめっ面だ。


「サーペンタイン領主の予言ね……百発百中とは聞くが、それを信じ門を開くことの利点は?」

「お袋……! まだそんなことを……!」

「黙りな! 大人の話にガキが首突っ込むんじゃないよ!」


 カルラの問いかけも至極当然のものだろう。

 半信半疑でしかない予言の話……それを信じるとして、では信じることの利点は?

 領主と領主の関係はただ信じるなどという明るい話だけでは成り立たない。

 信じることで何が得られるか、その利点が大事なのだ。


「そうだな……では、ルーチェ、少し良いか」

「……えっ、私……? 何よいきなり」


 声をかけられ、ルーチェは訝しむ。

 そんな彼女の腰に有る斧を、クリムゾンフレアはゆっくり指さす。

 そして、ヒルンドー兵の一人……関所番のシフトが終わったのだろう、近くまで来ていたカシムに目を向けた。


「そこの君、カシムだったか」

「え、ああ、そうですけど……」

「よろしければ、君の剣とルーチェの斧で一合打ち合ってくれないか」


 一合打ち合う、そう聞いてルーチェは顔をしかめる。

 何を意図しているか理解できないのだ。


「意図が読めないんだけど……」

「何、打ち合えば分かるさ」


 打ち合えば分かる、そう言われてしまえばいつまでもしかめっ面をしていられない。

 聞いて答えてくれないなら、やるしかないだろう。

 カシムも訝しげだが、やる気ではあるようだ。


「ええと……カシムだっけ、行くわよ」

「は、はい……」

「よし、痛い目見せてやれルーチェ!」


 ソヌスの声に、ルーチェは「痛い目見せてどうすんのよ」と息を吐く。

 そして……斧を勢いよく振った。

 対するカシムも流石は門番といったところか。

 的確に剣で斧を受け止める。

 だが……。


「……! 新品のはずなのに、刃こぼれが……」


 打ち合いが終わり、刃こぼれを起こした剣を見て愕然とするカシム。

 猫又之国の刀と違い、他地方の剣は刃こぼれしづらいはず。

 それがたった一合でこうなるとは思いもしなかったのだ。


「ヒルンドーが門を閉じて十数年、外では山賊へ対抗するために金属精錬や鋳造の技術が大幅に進歩した」

「ああ、そうか……この斧、山賊から奪った物だったわね……」

「そう、山賊は街や商人から奪った最新武器を持っていた、運良く襲われなかったおかげでこの街は無事だったが、もし襲われていたら防護はあっさり破られ滅んでいただろう」


 カルチャーショック、とでも言えばいいのだろうか。

 十数年の時間が生んだ格差に、族長は愕然とする。

 まさか外の世界がそこまで進歩していたとは思わなかったのだ。


「なるほど……提示したい利点が分かったぞ、交易だな」

「その通り、協力してくださるのであれば交易路を築くようにエアフォルシェンに交渉しましょう」

「それはいい……だが、まだだ、まだ一歩足りないぞ」


 まだこれだけでは、外の世界への不信は拭いきれない。

 そう言いながら族長は腕を組む。

 そして……ソヌスをじっと見つめた。


「利益は分かった、じゃあ次は……精神的な利点だ」

「は……? な、なんでアタイを見んだよ……」

「見せてみろ、お前が外の世界で何を得てきたか……音楽で示すんだよ、外の世界がお前の精神を健やかに育てたなら、いい音出せんだろ?」


 母は自分を試そうとしている。

 そう察したソヌスは息を呑む。

 そして少し躊躇うが……意を決し、カントゥスと頷き合った。


「軍楽隊は使ってもいいか?」

「好きにしな」


 族長の言葉を聞き、ソヌスは顎をさする。

 そしてゆっくりと軍楽隊へ楽譜を渡し始めた。

 その楽譜を目にしたカントゥスは「なるほど」と笑顔を浮かべ、バイオリンを取り出す。

 それを見ながらソヌスもまたバイオリンを取り出した。


「……む、この曲は」


 明るく、どこかワクワクする曲。

 この曲をクリムゾンフレアは聴いたことがある。

 北部民謡、友愛と和睦のマーチ第3番。

 敵意がないと北部の街へ示すために奏でて貰った曲だ。

 族長も静かに、その曲を聴いている。


「……先代族長、夫が好きだった曲だ……そしてお前らが初めて弾いた曲、へ……味な真似を」


 感慨深げに目を閉じ、頷く族長。

 今だけは族長カルラではなくただのカルラとして、夫との思い出に浸っているのかもしれない。

 そんな彼女に最高の音を届けるように、ソヌス達は演奏を続ける。

 そして……演奏が終わるころ、族長は小さく息を吐いた。


「キレたらすぐ人を殴るガキが、いい音を奏でるようになったじゃねえか」

「別に……で、協力するのかしないのか、どっちだよ」

「照れないの」

「るっせ」


 カントゥスにからかわれているソヌスを尻目に、族長はクリムゾンフレアへ手を伸ばす。

 そして、固い握手を交わした。


「夫や数名の民が賊徒に殺されて以来、この街の門は閉ざされてきたが……開けることの利点はよく分かった、門を開いて交易を行うとしよう」

「多大なる感謝を、それと……」

「皆まで言うな、戦争に協力しろってんだろ、まあしょうがないか……」


 族長の言葉に、クリムゾンフレアは内心ほっとする。

 これでエアフォルシェンが協力条件として提示した「ヒルンドーとエアフォルシェンの友好関係の樹立」は成功だ。

 同時に、クリムゾニア軍への協力も取り付けられたのなら……これはもう成功を通り越して大成功だろう。


「改めて多大なる感謝を、これからも良き関係を築いていきましょう」

「おう、よろしく頼む!」


 背中をパンパンと叩く族長。

 そんな彼女に苦笑しながら、クリムゾンフレアはソヌスを見る。

 母への複雑な思いは、表情を見る限りまだ残っているのかもしれない。

 だが……この街の門は開いたのだ。

 これからは、時間が有れば好きなときに戻ってきて話をすることが出来る。

 きっと彼女達の関係は、これから良くなっていくのだろう。

 クリムゾンフレアがそう考えると同時に、集会場にカントゥスの大あくびがこだまする。

 そして、穏やかな笑いがあふれ出すのだった……。

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