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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第五十五話 平和を望む場所

 さて、約束の一週間後……。

 ヒルンドー関所前にてクリムゾンフレア達と合流したクリムゾニア軍なのだが、ケラススは怪訝そうに一人の女性を見つめていた。

 薄青の髪で、少年を連れた女性……アルマだ。


「誰だ……?」

「アルマ・アスル、一応薬剤師ということになっている……よろしく頼む」

「あ、どうも……ええと、オレオルです!」

「はあ……どうも、ケラスス・スペルビアだ、よろしく」


 挨拶をし、握手を交わすケラスス達。

 その姿を見ながら、ソヌスとカントゥスは「何だと思う?」「行きずりの未亡人」などと話しているようだ。

 一方でアルマは「名乗る以上ちゃんと勉強をしなくてはな……」と薬剤師の勉強をする決意を固めている最中らしく、未亡人扱いには気付いていないらしい。


「さて、こちらは北部の海賊を改心させ、出頭させた……そちらはどうだろう」

「ああ、山賊は粗方潰したよ、勿論出頭勧告も忘れてない、討ったのは抵抗した連中だけだ」


 互いの成果を報告し合うクリムゾンフレア達。

 一方、ソヌスとカントゥスは飛び上がると関所にいる兵士……カシムに近寄っていった。


「おらカシムゥ! とっとと関所開けろぉ! 聞いてんのかカシム・イブラハム!」

「ひぃっ!?」


 唐突に怒鳴られ、すくみ上がるカシム。

 だが彼は、未だ訝しげだ。


「た、確かに密偵から海賊が出頭したという報告は受けたし、族長様も開けて良いと言っているが……」

「ならぁ! とっとと! 開け放てや! っのタコナスがあああぁぁぁ!!!」

「ひいっ!! 羽毛を引っ張らないでくれぇ!!」


 羽根をまき散らし、慌てながら開閉装置へ向かうカシム。

 その姿を見ながら、カントゥスは息を吐いた。


「ほんと、つまらない男……」

「だな……ったく、エアフォルシェンとの交渉に必要じゃなきゃ、誰がこんなとこ……」

「私達の戦力になるってマキャベルさんは言ってたけど……大方、この土地を開けさせて北大陸との交易拠点にできるようにするのが目的だよね……言いように利用されてるなあ……」


 ぼやくソヌス達の前で、関所が開く……。

 それを見ながら、ソヌスは故郷を捨てるに至った運命の日を思い出していた。

数年前、ケラススが北部へ修行に来ていた頃……。

 当時もソヌスは苛立っていた。


「なーにが、族長の娘たる者だよ!」


 治安悪化の一途を辿る北部……。

 ヒルンドーはその脅威から身を守るべく、門を閉ざすことを選んだ土地だ。

 その閉鎖性は時に生き方すら縛ろうとする。

 ソヌスは武術の才はあれど、それよりも音楽が好きな子供だった。

 外の地より流れてきた楽器を手に取り、同じく音楽好きで妹同然のカントゥスと日がな一日音楽の練習をする。

 その方が修行より余程性に合うのだ。

 だが母カルラは、次期族長として民を率いる義務があると押しつけてくる。

 ソヌスはそれが嫌だった。


「それに比べてカントゥス! お前といる時間はやっぱ最高だ! お前はアタイよりよっぽど上の天才だよ!」

「ふわあ……練習は面倒だけど、嬉しいよ……そういうの」


 笑い合いながら、ソヌスとカントゥスは毎日のように練習を重ねる……。

 だがそんなある日だ。

 雪原を走る人影が目に入った。

 どうやら、人が山賊に追われているらしい。


「大変だお袋、人が山賊に追われている!」

「お、そうか……じゃあ、門を絶対開けるな」

「は……?」


 山賊の危害がヒルンドーにまで及ぶようなら、反撃に出る。

 だが一切被害がないのであれば無視し、追われている女性も見捨ててしまえ。

 山賊による旅人襲撃の報を受けた族長は、そう言ったのだ。


「おかしいだろそんなの! なんで見捨てるんだよ!」

「そうだよ……普段練習してるくせに……なんで本番で使わないの……? 宝の持ち腐れじゃん……」

「黙りな小娘共が! 山賊に手を出して村が狙われるリスクに比べれば、関係ない奴が一人死んだところで何だってんだい!」


 族長の言うことも、一つの正論ではある。

 村全体の安寧を願うのであれば鍛え上げた力は専守防衛にのみ行使し、外の世界で誰が襲われていようと見捨てて過ごす……。

 間違っている、とは言えない。

 だからソヌスも退くしかなかった。

 だが……カントゥスは違った。


「絶対おかしい……絶対そんなのおかしい……!」


 珍しく強弁すると、カントゥスは集会場を飛び出した。

 そして雪原へ向かったのだ。

 せめて女性を掴んで飛んで逃げる……それくらいはしようと。

 その時の行動力は、流石の一言だった。

 普段は気だるげだが、本番になると全力を発揮し集中力も抜群となる……。

 そんなカントゥスの性格がよく出ていた。


「アタイも行くよ!」

「おい、待て!」


 負けじとついていくソヌス。

 族長が静止するが、二人は止まらない。

 そして……雪原に降り立つと、女性に手を伸ばした。


「掴まれ!」

「近くの街まで連れて行くよ!」


 それはまさしく救いの手。

 握り返しながら、女性は顔を明るくする。

 今にも泣き出しそうな笑顔だ。

 そのまま女性に案内され、二人はエアフォルシェンまで飛んでいった。

 そして……。


「ありがとう、二人のおかげで助かったわ」

「お、おう……別にアタイらは当然の事しただけだし」

「照れないの」

「るっせ!」


 曰く女性は旅商人であり、数時間前の吹雪で道に迷ったところを山賊に襲われたという。

 もしかしたら物資ごと命を奪われていたかもしれない……。

 そんな状況を救った二人に、女性は大いに感謝していた。


「そうだ、商品をどれか一つずつあげるわ」

「えっ、いいのか!?」

「凄い……! 嬉しい……」


 女性の申し出に大喜びする二人。

 彼女達は揃って、楽器をねだった。

 勿論二人が知らないだけで楽器はかなりの高級品なのだが……。

 命の恩人相手だ、女性は嫌がらずに楽器を一つずつ譲ってくれた。

 それどころか、いつか音楽で食べていきたいという夢に対して、応援まで……。

 後に楽器の相場を知った二人は、それはもう驚いたという。

 何はともあれ、二人は新たな楽器バイオリンを手に入れて家路を急ぐ。

 だが……。


「なんで言うことを聞かなかった?」


 ヒルンドーへ戻った二人に向けられたのは、族長からの厳しい目だった。

 何故言うことを聞かずに山賊から証人を救ったのか。

 もしかしたら、助けたせいでヒルンドーが襲われるかもしれないというのに。

 そう族長は二人を責めたのだ。

 ……集会場の床が、いつもより冷たく感じる。


「……死んだ方が良かったって言うのかよ」

「そうだ、それでここの安寧が守られるんなら、大した犠牲じゃねえ」

「犠牲に大したもへったくれもねえだろ!」


 双方正しいことを言っている、だから一歩も退けない。

 どちらが間違っているというわけではないのだ。

 住まう場所の安寧を守りたいのも一つの正しさで、山賊に襲われている者を見捨てられないのも一つの正しさ。

 ともなれば、ここからは意地の世界だ。

 互いにムキになって睨み合う。

 そんな中、カントゥスは面倒くさそうに息を吐いた。


「なんであなたって、そんな理解してくれないの……?」

「なんだと……?」

「商人のお姉さんは、音楽で食べていきたいって言ったら楽器をくれたのに」


 カントゥスの言葉に、族長は彼女が持っている荷物が楽器だと察する。

 そして……手を伸ばした。


「ちょっと……何を!」

「こんなものは捨てる! 言うことを聞かないお前らへの罰だ!」


 怒鳴りながら、バイオリンを奪おうとする族長。

 対して、奪われまいとするカントゥス……。

 その争いを見ていると、ソヌスの中で何かがぶつりと切れた気がした。

 そして……。

 鈍い音が響き、族長が倒れる。

 気付けばソヌスは、頬を押さえる族長を見下ろしていた。


「親を殴るのか……娘のテメエが……!」

「アンタが子供のことを理解しないからだろ! 自分の意見ばっかり押しつけて、大事なものを壊そうとして!」


 怒鳴るソヌスに、族長は話にならないと血の混じったタンを吐く。

 そして肩をすくめた。


「何が音楽で食うだ、気に入らなければこうして殴るやつが、どうして音楽なんてやっていける!」

「こうしたのは、アンタが何も聞いてくれないからだろ!」


 睨み合う二人……そして、先に踵を返したのはソヌスだ。

 肩を怒らせ、不機嫌そうに歩いて行く……。

 そして、入り口で振り返ると隣に歩いてきたカントゥスを抱きしめた。


「もうこんな場所、いられるかよ! アンタなんか嫌いだ、死んじまえ!」


 ソヌスの罵倒に族長は何も帰さなかった。

 いや、帰せなかったのかもしれない。

 何はともあれ、ソヌスはその日のうちにカントゥスを伴ってヒルンドーを飛び出した。

 そして……一週間前まで、一切戻ってこなかったのだ。


「……喧嘩になるかもしれねえな、ああ……顔出すのがしんどいぜ」

「……覚悟決めよ、みんなも頑張ってるし……私達だけ頑張らないわけにもいかないじゃん、きっと今が私達の本番なんだよ……ねっ?」


 カントゥスに言葉をかけられ、ソヌスは「そうだな」と呟く。

 そして目を閉じ、息を吸い……。

 ゆっくりと歩き出すのだった。

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