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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 教えてリス悪魔ラタトスク! クリムとピーヌス編

 北大陸の港町……そこへ、三人の獣人が現れる。

 リス獣人、鷲鳥人、蛇獣人……。

 一見して普通の獣人にも見える彼らは、実際の所ただの獣人ではない。

 彼らは神の被造物、悪魔だ。

 その証左のように、彼らは一瞬で人里に相応しい衣服を身に纏う。

 まずリス悪魔ラタトスク、彼女は自称ジャーナリストだけあり、黒いハンチング帽に袖のない赤のカジュアルウェアといったラフな服装だ。

 一方で、フレースヴェルグはフォーマルな黒いチュニックドレス。

 ニーズヘッグは白黒アシンメトリーのパッチワークウェアと、それぞれの個性が出ている。


「で……クリムゾンフレアはここにいるの?」

「ええ、観測仲間からのタレコミによれば……おっ、いましたよ!」


 ラタトスクの視線の先では、黒く禍々しい龍人が歓待を受けている。

 話を聞くに、海賊を改心させた英雄ということらしい。

 ニーズヘッグは「あれがクリムゾンフレア……」と呟きながら顎をさする。


「クリムゾン、って見た目じゃないわね」

「確かに……黒いね」

「ふふん、そこの経緯からおはなししましょう!」


 まず、彼らの事情を語るにおいて話はかつての世界……一万年前にまで遡る。

 クリムゾンフレアの前世、辰巳ユウコ……。

 最後の病死者と呼ばれる彼女は、不運な人物だった。


「不運、か……彼女は生まれからして恵まれていなかったからね」

「そうそう、あんな親の元に生まれたのが間違いでしたね、勿論親を選ぶ事なんて誰にもできないんですけど」


 辰巳夫妻、ユウコが生まれるよりも前の時代……七島戦役で活躍した学者の一人。

 戦役で気が狂い、戦いを終わらせた超兵器の力に魅入られた彼らは細菌をばら撒く新型の爆弾を作ろうとした。

 一応は、次に戦いが起きたときにすぐ戦いを終わらせるためだったのだが……。

 しかしその試みは予想外の形で終わる。

 爆発事故……誰の罪もない、完全なミス。

 それにより研究施設は爆発、市街地に偽装されて存在していた施設は、周囲に大きな被害をもたらし辰巳の腹の中にいたユウコに重病をもたらした。


「確か、病気は大人には大した物じゃなくても、子供には大きな後遺症をもたらしたのよね」

「そうです、体の大きさが違えば病原菌のまわりも違いますからね……ですがそれは、辰巳ユウコの肉体から採れた抗体で快復に向かった、すくなくとも死病ではなくなったのです」


 研究施設の事故を秘匿したこともあり、辰巳夫妻は一気にヒーローとなったという。

 死病を覆した救世主、偉大な医者……。

 その影に実験動物とされた娘がいることも知らず、人々は彼らを讃えた。

 そして辰巳夫妻は思ったのだ。

 人より抗体を作る量が多いユウコを実験動物にし、ありとあらゆる病に耐えられる不死身の生命体を作り……そして、その体組織の移植で人々を不老不死に仕立て上げたい。

 人々に神と崇められる存在になりたい……と。

 こうしてユウコは、実の親によりあらゆる病気に感染させられ、抗体排出装置として利用されるようになった。

 病院に拘束され、趣味のためのPCや友人、兄に妹をあつらえられて生きる希望を与えられながら……。


「でも、辰巳ユウコは……」

「長生きできなかったのよね……?」

「はい、不幸なことに」


 兄の死、親友である莉子が知らないところで死んでおり会えなくなったこと、妹からの責めるような問いかけ、アカシックレコード観測装置シャングリラ・オンラインで来世の死を目の当たりにしたこと……。

 それらは急速に彼女から生きる希望を奪っていった。

 そして……彼女は抗体を上手く作ることが出来なくなり、不老不死生物計画が順風満帆だったこともあって……。

 用済みとして、実の親に毒殺されたのだ。


「……辛かったでしょうね」

「うん、恨めしかったはずだ」

「だから……彼女の意志は来世に受け継がれたんです」


 来世、龍帝(カイゼリン)クリムゾンフレア。

 龍の世界を治める王のもとに産まれるが……狭い洞窟に閉じ込められ、外への羨望を育てた者。

 彼女は国を焼く紅蓮の炎、厄災クリムゾンフレアと父親に忌み嫌われ、殺されかけた。

 そして咄嗟の反撃をした結果父は死亡。

 憎悪のままに攻撃したとはいえ、意図せずして親殺しになった彼女は名を与えられなかった子から一転……龍の国の女帝となったのだ。

 だが、あるとき彼女に恐怖を抱く実母の一派により罠にはめられ、異世界へと追放。

 そしてこの世界へとやって来た。


「龍の世界……か」

「その本質は……っと、この話はまたで良いですね」


 逸れそうになった話を戻し、ラタトスクは話を続ける。

 クリムゾンフレアはその後、この世界で終生の仲となる女ピーヌス・ウェネーヌムと出会う。

 二人は愛し合い、手を取り合い……ピーヌスの故郷近くに一つの国を興した。

 それが一度目のクリムゾニアだ。

 しかし、その国も長くはなかった。

 国を興して数年……大国ブラエドが、クリムゾニアの民を捕らえて実験動物にしていたと発覚。

 民意に押される形でクリムゾンフレアは戦争を起こすが、彼女は親殺しの経験により他者を憎みきれないという致命的欠点があった。

 それによる詰めの甘さでクリムゾンフレアはピーヌス共々敗死。

 遺品となった龍玉は王墓となった王城に安置され、国は終わった。


「それから少しして、世界は浄化されたのよね……?」

「ええ、そして世界は繰り返し……1000年後、更に来世に生まれ直したクリムゾンフレアが、この世界に来たのです」


 この世界に来た瞬間、クリムゾンフレアは過去の無念を全て思い出した。

 そして同時に、自身ではブラエドに勝てないと悟る。

 そこで彼女は、自らに宿る辰巳ユウコを予定より早く目覚めさせたのだ。


「予定より早く……?」

「あっ、言い忘れてました! 辰巳ユウコは実は前世の時点でクリムゾンフレアの中で目覚めていたんですよ、もっともその記憶は転生時にリセットされてるみたいなんですけど……」


 クリムゾンフレアの中の辰巳ユウコは、表で喋ったりはしなかった。

 ピーヌスや“娘達”と話すのもクリムゾンフレアという仲介を通してであり、彼らにはもう一人のクリムゾンフレアとして慕われていたが、それ以外には存在すら知られていなかったのだろう。


「よくそんなのを知ってるわね、あなた」

「ふふん……信頼できるタレコミがジャーナリストにはつきものですから」


 タレコミ、そう言いながらラタトスクは腕を組む。

 その顔は自信満々といった様子だ。


「さて……この世界で再度意志を持った辰巳ユウコは、クリムゾンフレアに見守られながら旅をしました」


 ニライカナイ近郊の山に始まり、テルメ村で終わった旅……。

 その最中に、何度もブラエドの蛮行を目にし、最後は第二の故郷と目したテルメ村をブラエドに滅ぼされたことで、ユウコは激しい憎悪に目覚めた。

 その憎悪は龍玉と呼応し、全身に新たな力を目覚めさせ……火龍から黒龍に進化したのだ。

 しかし、憎悪だけでは彼女が目的を果たすには足りなかった。


「憎悪だけでは、ユウコの中の躊躇いを拭えないかもしれない、でもクリムゾンフレアは人を憎みきれないところがある」

「それだけ聞くと、どん詰まりだね」

「だから……二人は互いの意志を一つにし、もう一度生まれ変わったんです」


 互いの意志を一つに混ぜ、そして不要な部分を切り捨てる取捨選択。

 それによりユウコの憎悪とクリムゾンフレアの国家元首経験者としての力、それらを併せ持ちながら躊躇いと弱さを捨てた新たな龍が生まれた。


「それが今のクリムゾンフレア……魔龍帝(トイフェル・カイゼリン)クリムゾンフレア」

「そう、だから腕や目、翼が二人分存在するんです」


 ラタトスクの説明に、二人はなるほどと頷く。

 そして……視線が、もう一人の龍人に集中した。


「ところで……さっきから気になっていたんだけれど、そっちの紫の龍は?」

「ああ、彼女はピーヌス・ウェネーヌム、クリムゾンフレアの終生の人ですよ、つまりお嫁さん」


 ピーヌス・ウェネーヌム。

 彼女の話をするならば、やはりその前世まで話が遡るだろう。

 前世……松田莉子。

 爆弾がばら撒いた毒による被害者の一人で、ユウコより5歳年上のお姉さん。

 彼女は病院を出たり入ったりしていて、その縁からユウコの生きる希望を作るための友人として、彼女と同じ病室にあてがわれた。

 そこで彼女はユウコと仲を深めていき、愛を向け……。

 退院後も足繁く病室に通うようになった。


「でも、爆弾の毒で病を得たものということは……」

「そう、彼女もいい人生は送れなかったんです」


 莉子の人生、その終わりは唐突だ。

 ある日、莉子は親に虐待されている子供を見つけた。

 その子供を助けようとした結果……親に突き飛ばされ、花壇の鉄柵に刺さって内臓に裂傷。

 そのまま失血死したのだ。

 愛する者にもう一度会いたい、そう願いながらも叶わなかった……。

 その経験が強い未練を生み、転生先で記憶をうっすら保持するに至ったのだ。


「強い未練によるエラー、か……」

「ユウコという名を聞いてすぐ引っかかりを覚えたわけですから、結構な未練ですよね」


 さて、そんな未練を抱きながら転生したピーヌス・ウェネーヌムとは、どんな人なのか。

 まずピーヌスは、小村テルメ村に生まれた村娘だ。

 母は村の温泉宿で働く雇われ女将、父は農家。

 そんなごく普通の家に生まれた一人っ子。

 それがピーヌスだ。


「そこまで聞くと普通の少女ね、それが何故龍人になったの?」

「それは……彼女の夢と関係していますね」


 ピーヌスの夢、それはずばり龍のお嫁さんになること。

 ピーヌスは幼い頃から、自分が龍と人の魂を持つ誰かと旅する夢を見続けていた。

 そして……その結果、いつしかその龍は実在する、迎えに来てくれたらお嫁さんになろう、と思うようになったのだ。

 だが待てど暮らせど龍は来ない。

 なので彼女は自ら村の外に出て、魔術の修行をしながら龍を探し始めたのだ。

 全ては自らも龍となるために……。


「自分も龍になる……凄い発想ね」

「あ、ちなみに龍が女性ということは夢の時点で知ってたらしいです、つまりバリバリの同性愛者ですね」

「えっ、最後の情報いるの?」


 そして旅の途中、サーペンタインにて指導者ウロボロスに師事した彼女は魔術の腕をメキメキと上げ……。

 ひとり立ち後にニライカナイ近郊の山で、クリムゾンフレアと出会ったのだ。

 そして旅を通して仲を深めていったのだが……。

 ある日、旧クリムゾニア王墓に導かれ、迷い込むという事態が発生した。

 そしてその時……転生前のクリムゾンフレアが残した龍玉、そこに残った未練の意志が、彼女を龍へ変えたのだ。

 胸に宿った龍玉は全身に魔力を与え、体を龍に変える。

 ピーヌスは強い魔力を持っていたこと、また龍になるという夢を抱いていたことから力に馴染み……。

 毒魔法の使い手だったため、立派な毒龍に転生したのだ。


「毒龍……なるほど、だから毒々しい紫色なんだね」

「尻尾が毒腺になっていて、そこから毒魔法の濃縮液を注入できるんですよ、なんかエッチですよね」

「ねえ……最後の感想いる?」


 注入されてしまえ、と毒づくフレースヴェルグ。

 一方、ニーズヘッグはピーヌスの詳細を聞いて、何故龍人がもう一人いるのか納得し頷いている。


「よし……じゃあここにいる人で、私達が注目しているのはこれくらいですから、次の街に……」

「ちょっと待って、ラタトスク」

「あれ、どうかしましたか?」


 フレースヴェルグに呼び止められて、ラタトスクは振り返る。

 そこには……二人だけではない、眠っている子供を抱えた、薄青髪の女性がいた。

 いや……ただの女性ではない、この気配を3人は知っている。


「あれ……もしかして……投影の悪魔……ええと、1000年前に名乗ってた名前は……アルマ・アスルちゃん!? だいぶ久しぶりですね! 雰囲気変わりましたねえ」

「そういうお前は……中継のラタトスク、変わっていないな」


 投影の悪魔、そう言われてフレースヴェルグ達は驚きを隠せないようだ。

 確かにこの気配は会ったことが有る悪魔の者だと思っていたが……。

 まさか、1万年前には粘体の姿だった悪魔が人型になり、しかも性格も寡黙になっているとは。


「悪魔の気配がすると思って見に来たが、何をしている?」

「私達はラタトスクの趣味に付き合わされて、観測趣味の悪魔達が注目してるっていう人間の情報をまとめるための移動役をさせられているの」

「アッシーっていうわけだね」


 なるほどな、とアルマは呟く。

 その表情には若干の安堵が見えた、敵意がないと知り安心したのだろう。

 旧知の仲と敵対するのは悪魔とて嫌なようだ。


「で、そういうアルマちゃんは何を?」

「僕たちみたいに観測をしに来たわけじゃ無さそうだけど」

「私は……色々有った」


 色々、そう言ってアルマは少し躊躇うが……。

 その後、伏し目がちになり「罪を犯したんだ」と呟く。

 人を喰ってしまった、癇癪で殺してしまった。

 その罪を償うためにここにいる、と。


「へえ……罪を」

「これから私はクリムゾニアと一緒に戦う、どうだお前達も」

「んー、ごめんなさい、私は観測だけするつもりなんで!」


 きっぱりと言い切るアルマ。

 フレースヴェルグとニーズヘッグも申し出は嬉しいけれど、と乗り気ではないようだ。

 対するアルマは予想していたとおりの返答だったようで「そうか」とだけ返す。


「あまり出歯亀も大概にしておけよ、じゃあ……また会おう」

「そうですね、それじゃあ!」


 互いに手を振り、4人は別れる。

 そして……。


(懐かしい顔を見た……もしかすると、今後アイツに会うことも有るのだろうか)

「いやあ、懐かしい顔を見ましたね」

「本当ね、今後知った顔を見ることもあるのかしら」

「少し楽しみだよ、旧交を深めるのって」


 互いに似たことを考えながら、それぞれ別々の場所へ向かうのだった。

 アルマはクリムゾンフレアの元へ歩いて……そして、3人は次の目的地であるエアフォルシェンへ転移して……。

 彼らの足取りが今後また交わるのか、一切交わらないのか。

 それはまだ分からない。

 いずれにせよ……今はただ、互いに旧交の懐かしさに浸るのだった。

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