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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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外伝 教えてリス悪魔ラタトスク! 大陸地理編

 大陸中部のとある高台……。

 そこには三つの影があった。


「人間の世界もだいぶ様変わりしたわね」

「でしょう? いやあ面白い」

「そう? ラタトスクが言うほど面白いかな?」

「面白いですよ、得た情報をまとめて発信するのは本当に楽しい!」

 

 悪魔の数は多く、中には戦闘能力を持たない者もいる。

 そのうちの一人がこの悪魔……中継の悪魔、ラタトスクだ。

 神々が作り出した伝令であるこの栗鼠は情報を見抜く目を持ち、裁きの際には同胞である嵐の悪魔フレースヴェルグや血の悪魔ニーズヘッグと情報伝達をしていた。

 そんな彼女の1000年前での役目は人を見守り、彼らの情報を数値化して神へ送ること。

 当時彼女の送った情報は、アカシックレコードを通して過去の世界にも伝わり、アカシックレコード観測装置……シャングリラ・オンラインにおけるパラメータ表示にも使われていた。

 さてさて、そんな活動をしていたからだろうか……。

 現在の世界では特に使命も無く暇をしているラタトスク、彼女には一つの趣味が出来ていた。

 それは世界各地の注目度が高い者達を記録し、その情報を個人用に作ったテンプレートでまとめることである。

 それを同じ観測趣味の者と共有する……一種の報道行為。

 ラタトスクはこの楽しさに目覚め、今や悪魔のジャーナリスト、お昼休みのウキウキ・ウォッチャー・ラタトスクを名乗っている。


「前の世界じゃ新聞でしたっけ、あれで情報共有してる人間がいましたけど、ああいう感じですよね」

「それはいいのだけれど……何故私達まで呼び出されたの?」

「ねっ、久々に声をかけられたと思ったら……」

「良いじゃないですか、二人もお暇でしょ」


 趣味の全国行脚には、現在フレースヴェルグとニーズヘッグも巻き込まれている。

 二人はラタトスクと違って完全な戦闘型なのだが、それ故に裁きが無いと暇で仕方がないのだ。

 無論、本来なら有する概念以上の精神を持たない悪魔がそこまで暇を持て余すことなどないのだが……。

 人を調べているうちに先んじて感情に目覚めたラタトスクが二人を執拗に煽ったため、それに苛立って二人でラタトスクを攻撃したことにより感情が発露したという。

 鷲の足による蹴りと蛇の尾による打撃は普通に痛かった、とはラタトスクの談だ。


「まったく……で、今日はどこへ行くのかしら」

「ふふん、最近のトレンド……それはクリムゾニア帝国です」

「クリムゾニア? 千年前にも有った名前だね、彼らは古い歴史を再現するようになってるらしいし……そりゃ現代にも有るか」


 しかし、何故そんな一国程度が悪魔も注目するトレンドになるのか。

 それを理解していない様子の二人に、ラタトスクはニヤニヤしながら指を左右に振る。

 分かっていないなあ、と言わんばかりだ。

 その様子に二人は苛立ち、フレースヴェルグは斧を、ニーズヘッグは弓を取り出す。

 現在二人は鷲の鳥人及び蛇の獣人の姿をしているため、武器が持てるのだ。

 そんな容赦ない二人を見ながら、ラタトスクは慌てて両手を挙げる。

 現在のリス獣人を模した肉体はとても気に入っている、なので壊されたくないのだ。

 実際に肉体を壊され、再生に100年はかかった経験もこの気持ちに拍車をかけている。


「もう! こんなビッグイベントの最中に100年寝たきりなんて嫌ですよ!」

「ならさっさと話しなさい」

「そうだよ、一々煽ってないで早く」


 二人の叱咤に、ラタトスクは渋々「はあい」と返事をする。

 そして、一つの肖像画を取り出した。

 目を覆う長い髪の女性……クルテルの肖像画だ。


「これ……人間?」

「ただの人間じゃないわね、この見た目は確か最後の病死者の……つまりこれは」

「そう、かの希死念慮の神様! この御方が今、この国に注力しているんです!」


 希死念慮の神は若い神といえど、悪魔達から見ればやはり敬意を払う存在だ。

 それは、彼女が一種のエラーを起こした個体として他の神から見捨てられても変わらない。


「なるほどね、そりゃ注目するわけだ」

「でも……それって越権行為じゃないかしら? 悪魔だけで共有するんじゃなくて、他の神に言うべきかもしれないわ」

「何言ってるんですか! 所詮人の世なんて箱庭で、私達にとってはゲームですよ、それが面白くなるならこれでいいじゃないですか!」


 かんらかんらと笑いながら、とんでもないことを口走るラタトスク。

 その様子にフレースヴェルグ達は「見守るしか趣味がないとこうなるのね」「相変わらず性根が腐ってる」と呆れ顔だ。


「いいじゃないですか、さあ行きますよ! あなたの瞬間移動を使いましょう、フレースヴェルグさん!」

「いいけど……でも私、地理を全く知らないんだけど……飛ぶには地理の知識がいるわ」

「そうだね、僕たち自慢じゃないけど、新世界が出来てからは動向を耳で聞く程度で、全く外には出なかったし」


 フレースヴェルグとニーズヘッグは、共に人間の世界に疎い。

 だが、ラタトスクはそんな二人のために用意しましたと、一枚の地図を取り出した。

 ラタトスク自ら足繁く世界を見回って作った、とっておきの地図だ。


「まず、今私達がいるのは中央大陸っていうところです」


 この世界は、北大陸、南大陸、東大陸、西大陸、そしてそれらの中央に位置する中央大陸……これらの大陸と、小規模な島国から成っている。

 クリムゾニアが存在する大陸は、中央大陸……現在いる場所だ。

 これらの大陸は、北海バイキング、閉鎖的なブラエド、東部未開地などを間に挟んだり、単純に南大陸との距離が遠かったりで、基本的に交流が殆ど無い。

 むしろ北大陸がマキャベルの技術を盗んだりと、負の関わりの方が多いのではというくらいだ。


「中央大陸、ね……ここはどんな雰囲気の場所なのかしら」

「うーん、雰囲気は場所により違いますね」


 大陸西部は封鎖的な国風のブラエドが支配している。

 10年続いた内乱……いや、始まりは内乱だったが、最西の小国や大陸外の小さな島国に救援を求めたことで、大規模な戦争となった戦いが終わったばかりで、未だ荒れている国だ。

 アルテューマ辺境伯領を最東端に持ち、堅牢な守備を誇るブラエド……。

 ここへ攻め込むのは至難の業だろう。


「なるほど、大国なのね」

「そうですね、10年戦争も地方領主が救援を呼ぶことで合理的に戦争の口実を作り、島国や西端諸国を支配するためのものだった……という見方も出来ますし、北部に攻め入った話も聞きますので、領地を広げることにはかなり精力的ですよ」


 さて、そんな精力的な大国ブラエド……ここから東に行くと、そこは大陸中央部。

 大規模な交易拠点である自由都市ニライカナイ、ウェアウルフの村落である密林の独立自治区ルージュ村、南方の漁村群などが存在する。

 現在はルージュ村はもぬけの殻となった後に焼かれ、ニライカナイも襲撃を受け、事実上のブラエド領にされている地域だ。


「事実上のブラエド領ね……こういう地域は圧政が行われるものだけれど」

「おっ、フレースヴェルグさんご明察、今や交易で築いた財は吸い上げられてボロボロですよ」


 ここまで手を伸ばしたブラエドの蛮行……無論、それは戦争の火蓋になる。

 交易拠点という重要な場所を攻めたならば尚のことだ。

 これにより東部地区は完全にブラエドへの敵対を示した。


「東部地区……それはどんな国があるんだい?」

「何を隠そう、ここがクリムゾニア帝国の領地なんですよ!」


 クリムゾニア帝国……龍人である魔龍帝(トイフェル・カイゼリン)クリムゾンフレアにより治められる国。

 この国は、実に三つの地域に分かれている。

 まずは最西端に位置する都市、サーペンタイン。

 ここはカエデの樹液を加工したシロップを名産品とし、その交易により一財を築いた国家だ。

 指導者は不老不死の予言者、ウロボロス。

 彼女はアカシックレコードを読む力により、この国を繁栄に導いてきたのだ。


「アカシックリーダー……!? 神の被造物に近い領域の力じゃない」

「まさか現世にそんな力の持ち主がいるとはね……」

「ふふん……もっと驚きなのは、彼女が現世の生まれじゃなく、旧世界で生み出された生物って事です、もっとも予言の力も完璧ではなくて、戦争とかになると見えなくなっちゃうらしいですけど」


 さて、このサーペンタインとニライカナイの間には、コキュートス大河と呼ばれる川とその上をかかるキケロ大橋が存在している。

 本来ならこの橋を通して行き来できるが、現在は橋が崩落しウロボロスの妹である大蛇ミドガルズオルムが睨みをきかせているため、ニライカナイ側からの通行が出来ない状態だ。

 逆に言えばサーペンタイン側からならば、ミドガルズオルムが兵を背に乗せることで通行も可能ということになる。

 だがそれを行うのはもう少し先になるだろう。


「東部は他にどんな場所があるんだい?」

「そうですね、次は……東部中央、独立地区です」


 東部中央独立地区、俗に東部独立地区と呼ばれる場所だ。

 ここは、発掘者が集まって出来たルイン村や、温泉地に宿を作ったことでできたテルメ村他諸々など、土地として若い……歴史の浅い自治体が存在している。

 それ故にまとめることも容易く、1000年前も現代も、クリムゾニア帝国はこの土地に作られた。

 全体的に新興国家、新興村落が多く存在するフレッシュな土地と言えるだろう。


「へえ……件のクリムゾニアは若い国なのね」

「ええ! だからこそ面白いんですよね!」


 嬉々として語るラタトスク。

 その様子は、新興国が大陸を突き動かす様子を心底楽しんでいるといった具合だ。

 正直、邪悪さを感じてしまう。


「……で、東の国はこれで終わり?」

「いえいえ、あと一つ! 猫獣人の国がありますよ!」


 大陸でも最東端の未開地域を除けば、極東に位置する国。

 それが猫又之国だ。

 旧世界の日本に近い文化を持ち、温泉観光と漁業を主産業にしている。

 基本は穏やかな国風ではあるのだが、それでも国である以上ピンキリの差は生まれるもので、貧困層にはギャングとなる者もいる……そういう面も含めて日本的な国と言えるかもしれない。

 この国はサーペンタインと同じく、ウロボロスが知識を与えて大きくなった国だ。

 それ故に、蛇獣人や神話においてそれを遣わした事になっている龍人への信仰心に厚い。

 クリムゾニア帝国の一部として併合されたのも、そういう面が大きいだろう。


「猫獣人の国……それだけ聞くと凄いファンシーだけれど」

「いえいえ……リスの私としては、目が怖くてファンシーどころじゃなかったですよ」


 食物連鎖に震えるラタトスク。

 捕食の概念がない悪魔にとっては、捕食されるかもしれないなど恐怖でしかないのだ。

 勿論、個の思考に目覚めた悪魔は趣味として食事をしたりするのだが……。

 それにしても、別種の知的生命体に食欲を向けるほど貪欲ではない。


「奴らの貪欲さはいずれあの国を発展させますよ、マジで」

「うーん……僕も蛇獣人の姿だし、行くとそういう目で……あ、いや、蛇獣人は信仰対象か、役得だな」


 顎をさするニーズヘッグ。

 そして震えるラタトスク。

 その姿を見ながら、フレースヴェルグは息を吐く。

 話が横に逸れている気がするのだ。


「で……大陸の説明はそれで終わり?」

「いえいえ、あともう一つ! 北部地域を忘れちゃいけません!」


 北部地域、大陸の北側に位置する雪国だ。

 元々は小領地の点在する独立国家で、諸侯同盟といった具合の地域。

 だが土地の貧しさに端を発した内乱により国家としての体はなくなり、多くの賊徒を生んだ。

 その精強さと来たら、北を侵攻しに来たブラエド軍を追い返してしまうほど。

 過酷な北の大地は、大陸有数の賊を生みだしたのだ。

 同時に、北部には最強の剣豪も生まれた。

 それもまた北部の大きな特徴であり、北部が無法地帯と呼ばれる理由の一つだろう。

 かくして北部は、小規模な村や街といった自治体と山賊が相争う地となった。

 だが……。


「その土地が、今急速に平定されていっているんです!」

「急速に……なるほど読めたぞ、それがクリムゾニアによる仕業なんだ!」

「その通り、クリムゾニア軍は北上して荒れ果てた北部を平定しながら、ブラエドに侵攻すべく力を蓄えているんです!」


 興奮気味に語るラタトスク。

 だがその様子に、フレースヴェルグは首をかしげた。


「ねえ、でも何故大国にわざわざ戦争をしかけるの?」

「あ、確かに、新興国が何故……?」


 二人の問いかけに、ラタトスクは「気になるでしょう、気になるでしょう」と頷く。

 この反応を待っていたといわんばかりだ。

 彼女は勢いよく北大陸の南端にある港町を指す。

 そして、笑みを浮かべた。


「ここに今、クリムゾニアの皇帝……魔龍帝(トイフェル・カイゼリン)クリムゾンフレアがいます! 転移で向かいましょう!」

「ふう……なるほどね、結局はこの展開に行き着くと……」

「タクシー代わりに使われて、造物主様はどう思うだろうね」

「そういうこと言わないでくれるかしら……巨木の神様は笑って許してくれるでしょうけど……私にも罪悪感はあるのよ」


 三人共通である造物主の笑顔を思い浮かべながら、息を吐くフレースヴェルグ。

 彼女は渋々ながら、転移の力を展開する。

 そして三人はゆっくりとその姿を消すのだった。

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