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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第五十三話 粘体は思考する

 薬の材料を採りに行く。

 その名目でクリムゾンフレア達が外出している間……。

 海賊達は孤独感に苛まれていた。

 もしかすると、自分達は見捨てられたのではないか?

 そう考えながら、彼らは震える……。

 だが心中にあるのは「何故自分達がこんな目にあわねば」という気持ちばかりで、反省は未だ無かった。


「何故、どうしてこんな事に……」


 反省すれば病気は治る、その言葉も信じられぬまま、海賊は唸る。

 そして静かにやつれていった時……。

 アジトのドアが、音を立てて開いた。

 クリムゾンフレア達が帰ってきたのか、と海賊は顔を明るくする。

 だが……。

 入ってきたのは、別の者だった。

 赤い毛並みと七つ頭を持ち、七つの王冠を被る獣……七頭十角の怪物だ。


「魂は輪廻し、人は転生する……しかし変わらぬ者は変わらぬ、久しいな海賊……その華美な装束……この時代ではお前は海賊長か、隠れて逃げていたお前が……」

「な、なんだこの怪物は……!? あの遺跡の……!? なんで出てきた!?」

「うるさい、かつてお前は自らの無法の報いを受けて死んだのに、それは魂に何も学ばせなかったようだ、その愚鈍さ醜悪さはもう一度溶けねば治らないか?」


 海賊を掴み、怪物は笑う。

 他の海賊が咄嗟に手を斧で切るが……体はすぐ繋がってしまった。

 その際、少し肉体が液状化したように見える。

 そう……液状化。

 それを見ると、海賊の心が妙にざわめいた。


「バカは死なねば治らない……とかつての人間は言った、さて……お前のバカは何度死ねば治るかな」

「や、やめてくれ……嫌だ、嫌だ……!」


 肌がジュッと音を立て、少し溶ける。

 何とか他の海賊が死力を尽くし助けようとするが、どれだけ斬っても怪物の肉体は接合してしまう。

 ここに炎を扱える魔術師がいれば少しは違っただろうか。

 いや、恐らく病身では爆弾ほどの威力がある炎魔法など集中が続かずに撃てないだろう。

 拘束されている者を巻き込むかもしれないなら尚のことだ。

 もはやこれまで、誰もがそう覚悟する。

 その時だ……。


「そこまでだ!」


 声と共に、颯爽と駆けつける黒い影。

 クリムゾンフレアだ。

 彼女の火のブレスに怪物は、思わず海賊を手放して飛び退く。

 沸き立つ歓声……そして、怪物は忌ま忌ましげにクリムゾンフレアを見つめた。


「その男は大罪人だ、かつて罪を犯し、輪廻転生を経ても罪を犯すクズ……それを何故救う?」

「いかなる罪人であろうとも、反省する機会は有って然るべきだ、反省が出来ないと決まるまでは処断すべきではない」

「甘いな、実に甘い……死ねど治らぬ卑劣漢……それを救ったことをお前はいずれ後悔するだろう、私は奴がクズで有る限り諦めない、何度でも殺しに来ると誓おう」


 捨て台詞を残し、去って行く怪物。

 それを見送った後……クリムゾンフレアは海賊へ向き直った。

 しばらく無言で見つめ合う二人。

 気まずい沈黙だ。


「奴の言っていることは本当だと考えていい」

「……俺は、アイツに殺されたのか……確かに、この体が焼ける感じ、覚えが有る……」

「それが事実だと分かるなら……他の言葉も事実だと分かるな?」


 前世も海賊として無法の限りを尽くしていた、そしてそれが原因で死を迎えた。

 その事実を海賊は噛みしめる。

 沈痛な面持ちだ。


「奴は、前世から続く罪をお前が反省しない限りまた来ることだろう、お前も……お前以外も、次は喰われるかもしれない、そうならないためにも……分かるな?」

「……」

「非を認め、出頭し、贖罪に尽くすと心から誓うんだ」


 諭されるが、まだ葛藤は有るようだ。

 しかし……すんでの所で救われたことは、少しだけ彼らに変化をもたらそうとしていた。

 そこへ……ピーヌスがやってくる、

 隣には、薄青の髪を持つ女……アルマも一緒だ。


「お待たせクリムちゃん、薬剤師を連れてきたわ」

「ああ、ありがとうピーヌス……彼女は我が国の薬剤師アルマ、仲良くしてやってくれ」

「……どうも」


 一礼し、アルマはじっと海賊を見つめる。

 その瞳には、海賊への懐疑心を通り越した何かしらの意志が感じられた。

 それがどういうことなのかは分からない。

 だが……海賊は、その見覚えの有る顔から敵意が向けられている……。

 そう感じていた。


(被害者遺族……? いや、そういうのとは違う)


 言うなれば、敵意ある肉食獣が今にも飛びかからんと爪を研いでいるような雰囲気……。

 それを感じながら、海賊はただただ息を呑むのだった。



(海賊……話を聞いたとき、内心まさかとは思った、ふん……やはりあの男の来世だったか)


 腕を組み、考え事をしながら目を閉じるアルマ。

 その脳裏には、今も焼き付いて離れない初めて人喰いをした時の記憶がよぎっている。

 自分がもし固形生物であったなら、この記憶に耐えきれずに嘔吐していたかもしれない。


(……不愉快な奴め、1000年の時を経ようとも奴は変わらない……いや、変わらないのは私もか、だから私はずっと悲嘆にくれて引きこもることだけに時間を費やしてきた)


 ここが贖罪の第一歩だとするなら、何をすればいいか。

 それを考えながらアルマは目を開く。

 道中、北大陸の都市というものを少し目にした。

 そこに息づく者達の気配……悪魔たる彼女には分かる。

 あの魂の気配は間違いなくかつて愛した者達だ。

 彼らは自分を信じなかった、しかし自分を殺めることは出来なかったのだ、それならば逃げれば良かった……粘体の自分にはそれが出来たはず。

 なのに癇癪に任せて殺してしまったのは罪でしかない。

 それは正当防衛ですらないただの衝動殺人でしかないのだから。


(では、彼らに償うならどうすべきか……私怨としては、あの海賊を殺したい……それはあの都市に生きる者達のためにもなる)


 チラッ、と海賊を見る。

 青い顔をして眠っている海賊……。

 睡眠を要しない粘体のアルマは、いつだって彼の寝首をかける。


「……」


 腕を粘体に戻し、顔を覆う。

 青い粘液に覆われた口と鼻では呼吸など出来ない。

 このまま覆い続ければこの男は死ぬだろう。

 そうすべきなのではないか、という思いがある。

 だが……。


「……ふん」


 顔を覆う粘体を半固形に戻し、手を離す。

 自分にも罪を償うチャンスは存在するのだ。

 ならばこいつにもチャンスがあって良いかもしれない。

 一時の欲望で自分の人生を無茶苦茶にした憎き者の転生体だが……。

 それでも情けをかけてやるのが、同じくチャンスを生きる者としての筋かもしれない。


(……甘いものだ)


 粘体に味覚はない、それでも自分が甘いということは分かる。

 結局、ただ引きこもっていただけの身の上だ、何年経とうと根は変わらないのかもしれない。

 とりあえず今は彼らを見守ろう、処断を下すのは反省の余地無しとなってからでも遅くないはずだ。

 海賊の寝顔を見守りながら、アルマはそう考える。

 そして……少し疑問符を浮かべた。


(そういえば、結局あの時あいつは何をしようとしたのだろうか)


 1000年引きこもりの彼女には、結局あの日の行動は理解できないままだ。

 いずれ性知識を得たとき、彼女がどう思うかは定かではない。

 愚かな人間を軽蔑するか、性衝動などという不合理をあざ笑うか。

 いずれにせよいい感情は抱かないのかもしれない。

 はたまた、窮地に追い込まれた生物が自らの子孫を残そうとする行動に合理性を感じるか。

 いずれにせよ、それはまだ先の話なのだろう……。



 薬剤師を偽り、都合の良いでたらめの医療知識を伝えながら過ごすこと数日。

 運命の一週間目は刻一刻と近付いていく。

 そんな中でアルマは、ずっと思考を続けていた。


(贖罪の術とはなんなのか、どうすればいいのか)


 今までのような消極的自問自答ではない。

 ゆっくりと穏やかに、己が行く道を考える。

 ああ……確かにこれは生きるということなのかもしれない。

 そう思いながら、アルマは伸びをする。

 粘体生物としては伸びなど必要ないが、人と暮らしていた頃に周囲の真似をしていたら癖として身についたものだ。

 そうして伸びにより視点をずらしたことで、ふと自分を見ている者がいると気付く。

 あれは確か、海賊長の息子だっただろうか。


「どうした、ちゃんと寝ないと良くならないぞ」


 人間の肉体には詳しくないが、睡眠が体に良いというのは知っている。

 睡眠の必要が無いことを活かして延々働いていたら、寝ないと体に悪いと言われたことがあるのだ。

 それを話した町民は、病気になった際もよく眠ることが大事だと熱弁していたはず。


(あれ以来、睡眠しているフリをよくしていたな……懐かしい、すっかり忘れていた)


 思考するアルマ、その傍らに少年がやってくる。

 病身だけあってよろよろとした、おぼつかない足取りだ。


「お姉ちゃんは、病気とか平気なの……?」

「ん……? ああ、クリムゾンフレア達も平気だろう?」

「……でも、あの人達は人間じゃないよ」


 少年の問いに、アルマは閉口する。

 中々どうして、子供というのは鋭いものだ。

 確かに病原菌対策の一つもしている様子がないのにピンピンしているというのは怪しまれて仕方がないだろう。


「……しょうがない、実は私には一つ秘密があるんだ」

「秘密……?」

「お姉さんと二人だけの内緒に出来るなら、教えてあげる」


 アルマの言葉に、少年は素直に頷く。

 ……正直参ったものだ。

 ここで素直に頷かれては、迷うなら言えないなと秘匿する算段が大いに狂う。

 まあ……教えると言った以上仕方がないだろう。

 しょうがないので、アルマは体を粘体に戻すことにした。


「私は……人の振りをした悪魔なの」

「悪魔……?」

「神様が作った凄い生き物、だから病気なんて心配ないのよ」


 怖がられるだろうか、そう考えながらもやっぱり教えませんなどという不義理はできないので、しっかり自分が何者か教えるアルマ。

 勿論病気にならない理由は、蔓延する病気がマッチポンプだからなのだが……それを明かすわけにもいかないのでしょうがないだろう。

 さて、反応はどうなるか。

 内心戦々恐々とするが……少年は意外なことに、笑顔を浮かべた。


「よく分からないけど、凄いね!」

「あら……ありがとう……」


 意外なことに、少年は好意的にアルマの端っこを握る。

 一応、手を握っているつもりなのかもしれない。

 しかし怖くはないのだろうか。


「ねえ……怖くないの?」

「なんで? お姉さんはお医者様で、僕たちを治してくれるんでしょう? 怖い事なんて何もしないのに、怖がるわけないよ」

「……そうね、そっか」


 少年はマッチポンプの事実など知らないし、かつての町民のように人を喰う姿を見たわけでもない。

 なら、恐れる理由など無いのだ。

 これが大人なら見た目から怯えたかもしれない。

 しかし、子供のなんと純粋なこと……。


「……あなた、名前は?」

「オレオル、お姉さんは?」

「私はアルマ、アルマ・アスル、蒼き魂魄って意味の古い言葉なのよ」


 ついつい名前を聞き、感情移入をしてしまう。

 これが庇護欲というものなのだろうか。

 アルマには、まだよく分からない。


「お姉さんの秘密、黙っててくれる?」

「うん……二人だけの内緒だね!」


 アルマのお願いに、にこやかに笑うオレオル。

 その顔を見ていると、アルマの顔もまたほころぶ。

 だが……同時に考えてもしまう。

 もし、この病気がマッチポンプだと知ったら。

 母は意図的にピーヌスが殺したとバレたならば。

 そして自分がオレオルの父を抹殺しようとしたと彼が知ったのなら……。

 彼はいったい、どんな顔をするのだろうか……。

 かつて自分を刺した人々のように悪鬼外道と責め立てるかもしれない。

 ……それとも、父母達の行いを罰されて当然と断じるのだろうか?

 いずれ、全てを明かすときまでは……。

 罪人に育まれながらもまだ罪を犯していないこの小さい命を、できる限り大事にしてやりたい、そう思うのだった。

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