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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第四十七話 憤怒爆発、嗚呼イライラ

「ここが、ヒルンドー……」

「ああ、アタイらの故郷だ、ったく……何も変わっちゃねえな」


 極北の地、鳥の巣ヒルンドー。

 北部地域でも最北端に存在し、ここより北には海と別大陸が広がる文字通りの大陸最北。

 しかし交易などは行っておらず、基本的にはこの地を閉ざしているという。


「この地を閉ざしている、ね……それは宝の持ち腐れじゃない? 別大陸との交渉ができれば、きっと大儲けできるでしょうに」

「しょうがないんだ、ここは北海の賊に悩まされてきたから、まあでもアタイらはその閉鎖性が嫌で外に出たんだが」


 そう言うと、ソヌスは腕を組む。

 故郷だというのに、正直あまり嬉しそうではない。

 それはカントゥスも同じようだ。


「……なんていうか、外には良い事なんてあるわけないって、音楽修行も認めてくれなかったからねえ……めんどいんだよ、ここ……」


 嘴を開いてあくびをし、目を細めるカントゥス。

 ソヌスも「そういうこと」と賛同しながら頷く。

 そうして歩く彼らの前に……やがて関所が見えてきた。

 その上にいる男……ソヌスやカントゥスと同じ、全身を羽毛で覆われ、嘴や鱗の手足などの鳥の特徴を持つ鳥人は、クリムゾンフレア達を見て身構える。


「誰だ! 貴様ら!」

「我々はクリムゾニア、東部独立地区にできた新興国だ、この地域には交渉のためやってきた!」

「帰れ、我々はよそとは交渉しない!」

「こちらには、貴君らの同胞……ソヌスとカントゥスもいる!」

「何……?」


 訝しむ鳥人。

 すると、ソヌスとカントゥスが飛び上がり、彼の前に移動した。


「ようカシム、泣き虫のお前が立派になったな、ガキの頃はカントゥスに面と向かって振られてピーピーしてたのに」

「本当にソヌスとカントゥスじゃないか……!」

「ふわあ……そうだよ、懐かしい顔でしょ……」


 あくびをし、手をヒラヒラとするカントゥス。

 その様子にカシムは振られた経験からかばつが悪そうにするも「変わっていない」と呟く。

 しかし訝しげに首をかしげると、二人をじっと見つめた。


「だが、故郷を捨てたお前達が何故? この村を侵略でもするつもりか?」

「違う、もう故郷だけの閉鎖的な世界じゃいられねえのさ、世界に目を向ける必要が出てきた」

「なんというか……ブラエドを滅ぼさないと、世界がヤバイんだって」


 二人の言葉を、カシムは訝しむ。

 だが嘘をついているようにも思えない。

 北部民にとってブラエドといえば、メテオール領をはじめ小領地を数個潰し、そして山賊に負けて撤退したそう強くない国だ。

 しかもその後は、再侵攻を企てた部隊がズワールト・メテオール一人に壊滅させられている。

 もっともそれはズワールトが人から生まれた怪物、トンビが産んだタカというだけだが。

 何にせよ、世界を滅ぼす力があるとは思えない。


「ま、その辺りの説明もあるんだ、道を空けろってことだよ」

「……俺一人じゃ決められない、族長に話してくるから待っていてくれ」


 首を左右に振り、飛び去っていくカシム。

 その背中を見送り「お役所仕事が」とソヌスは呟く。

 だが、正体不明の軍を同胞が所属しているからなどという理由で招くかは、現場の一存で決めて良いことではないだろう。

 そういう点ではカシムの判断は妥当と言える。

 勿論ソヌス達からすれば幼馴染みへの人情を優先しろという気持ちがあるのも当然なのだが。

 そこは難しい話だろう。


「あ、カシム帰ってきたよ」


 カントゥスが指さす先に、カシムの翼が見える。

 だが彼の表情は芳しくない。


「族長からはオッケー貰えたか?」

「いや……族長は不審な軍も故郷を捨てた者も信じないと」


 カシムからの返答に、ソヌス達は「だよな」と言わんばかりに息を吐く。

 そして関所越しに胸ぐらを掴むとカシムに顔を近づけた。


「娘のアタイ相手でも?」

「そ、そうだよ!」


 ソヌスに凄まれるが、カシムは一切屈しない。

 その強情さに呆れ果てて、ソヌスは肩をすくめる。

 カントゥスもまた呆れ顔だ。


「ふわあ……相変わらずつまんない男……」

「つまるつまらないで通せるか! 俺の人生がかかってるんだぞ!」

「んなもんアタイは知らん」

「ひでぇ」


 押し問答を繰り返すカシムと二人。

 しかしキリがないので、二人は諦めて帰ろうとする。

 しかしその背をカシムが呼び止めた。


「あ、待ってくれ二人とも、族長は一応条件があると」

「きーさーまー! それを! はよ! 言えやコラァ!」

「言う前に凄んだんだろう! あっ、やめ、酔う!」


 胸ぐらを掴まれ、揺さぶられるカシム。

 カントゥスが止めたことで解放された彼は、一瞬脈があるのではと考えるが……。

 彼女の目が畑の罠にかかってこれから解体される野兎を見るくらいには冷たいので、一瞬で「あっ、脈ないなこれ」と思い直す。

 そして気を取り直すと、族長からの伝言を手渡した。

 ……というよりは、読み上げようとしたら乱暴に奪われたのだが。


「何々……えーと……はあ!? あのババアふざけやがって!」


 叫ぶソヌス。

 彼女は肩を怒らせながら降りてくると、手紙をクリムゾンフレアに突き出した。

 その不機嫌さと圧には、流石のクリムゾンフレアとて少し圧されてしまう。


「え、えーと……何々……?」


 手紙を読み始めるクリムゾンフレア。

 黙読で読んでいる彼女が、段々と顔をしかめていくのを見て、周囲はどんな内容なのかと息を呑む。

 そしてクリムゾンフレアは呟いた。


「あ、煽られている……」


 煽られている、この緊迫した状況にそぐわない気の抜けた響き。

 それを聞いたピーヌスとケラススは思わず転倒しそうになる。

 そして二人は、ゆっくりと手紙を覗き込んだ。

 そこに書かれている文章はこうだ……。


「拝啓バカ娘、勝手に家を捨てて音楽と駆け落ちしたくせにどの面下げて帰ってきやがった、それで入れろだ? 都合の良いこと抜かすなボケが」

「読み上げるな!!」

「入れて欲しければせいぜいうちに貢献してみせな、北のバイキングを潰したら認めてやるよ、まあ武術の鍛錬を捨てて音楽に走ったお前らにできるわきゃねえけどな、大人しく諦めて土下座でもしてみろよ、まあそれじゃ入れてやらねえけど」


 ピーヌスの読み上げを聞き、クリムゾンフレアは言外の意とでもいうのだろうか。

 かつての世界におけるネット表現で言うところの、草が生えている……といった雰囲気を感じた。

 ソヌスが怒るのも当然といえるだろう。

 正直言えば、直接煽られたわけではないクリムゾンフレアですら、絶句半分イライラ半分の気持ちを抱いた。

 内心では「なんだこのヤンキー」と呟いていたくらいだ。

 なので思わず、ソヌスの手を堅く握ってしまう。


「頑張ろうな……ソヌス」

「ああ……! だがどうするよクリム陛下、北海のバイキングを討つにも、ここには北大陸で研究されてるような魔術砲とかはないぞ」


 どうやら、ここには砲台といったものはないらしい。

 となれば陸から攻撃をするのは難しいだろう。

 ブレスを最大チャージしても、船を潰せるかは怪しい。

 病院時代にこっそりハマっていた巨大特撮の怪獣みたいに岩を投げるなんていうのも勿論無しだ。

 45メートル級の体格でもない限り決定打にはならないだろう。

 では飛行して船を襲撃するのは……?

 いや、北が砲台を研究しているのならば海賊船にもそれが積まれている可能性は高い。

 なら撃墜を避けるためにも飛行による接近は外すべきだろう。

 となれば、船舶による接近も論外。

 一気に洗脳するというのも、ソヌス曰く海賊達は元は貧困により賊になったものの、今や確固たる信念で海賊をしているらしくまず無理だ。

 となると、戦いの場は……。


「陸戦か……」

「だな、で……問題はバイキングがどこへ降りるか、だ」


 バイキングの本拠地をソヌス達は知らない。

 北部の技術を扱う以上北大陸なのだろうが……。

 そこまで総出で行くならば船舶が必要だろう、しかしクリムゾンフレア達には船舶がない。

 では飛行可能な者だけで飛んでいくか?

 いや、そんな人数で済むならば今頃奴らは海の藻屑だろう。

 人数を減らすならば、それに併せて奴らの力をそぐ方法も考えなくてはいけない。

 あと、跡をつけていると気付かれないための手段も必要だ。


「いっそ海に毒でも撒く?」

「いや……飲み水でもないのだから、意味はあまり……」


 尻尾から毒を垂らし、雪を溶けさせるピーヌス。

 そんな彼女に毒はあまり意味が無いと否定するが……クリムはふと顎をさする。

 協力を取り付けた北部傭兵団には、当然吹雪を起こした風・水使いもいる。

 彼やその同胞たる魔術師の力を借りれば、毒のブレスと組み合わせて色々出来るかも知れない。

 そうだ、力を単品で使うという考えが間違いだったのだ。

 集団でいる以上、集団なりの使い方……“力を組み合わせる”というやり方がある。


「それで行くしかないか……」


 考えをまとめ、クリムゾンフレアは拳を手の平に叩きつける。

 算段じゅうぶん、後は上手にやるのみ……。

 自分の考え、手腕……そして今回の者に関しては覚悟が試される状況だ。

 不安とためらいが少しあるが、やるしかない。


「作戦を考えた、聞いて欲しい」


 意を決して、作戦を伝えるクリムゾンフレア。

 彼女に視線が集中する。


「作戦はこうだ、北部傭兵団の魔術師諸君、君達の風・水魔法で船の上に雨雲を作る」

「雨雲ですか……吹雪を起こすのと同じ原理ですからできますが……嵐を起こして船を転覆させるのですか?」

「いや、それでは船の一隻を沈めることにしかならず、海賊の全滅には至らないだろう」


 確かにそうだ、海賊は全てが外に出るわけではない。

 確かに船で出陣する者は主力かも知れないが、軍が兵力を複数に分割するように……彼らの拠点には確実に残りがいるのだ。

 潰すなら、そこも潰す必要がある。


「そこで……ピーヌスの出番だ」

「え、私?」

「ピーヌスの毒魔法を使う、毒の雨作戦だ」


 毒魔法は治癒術の応用、治癒術を反転させることで生まれた魔法だ。

 そして治癒術には、病への抵抗力を高めるために使われるものも存在する。

 ではそれを反転させればどうなるだろうか?

 勿論、病への抵抗力が下がる。

 そこに更に体力回復魔法を反転させた毒魔法を入れれば……人為的な重病のできあがりだ。

 正直……ここが躊躇いを生んでいる。

 人災による重病は辰巳ユウコの人生を狂わせたもの。

 それと同じ事を自分はしようとしているのだ。


「なるほど……それで奴らを一網打尽に? でも私の毒には伝染性はないわよ、流石に」

「ああ、それは理解している、なので……私とピーヌスがこっそり跡をつけ、拠点にも同様の病を流行らせる」

「なるほど、病気で不調になれば、それで精一杯で後方警戒も疎かになるものね、そうすれば拠点を突き止めてそこに毒をまけるか……」

「そうだ、そしてそこを……」


 一網打尽にするのか、と皆が息を呑む。

 だが……。

 クリムゾンフレアが発した言葉は予想と少し違った。


「偶然通りかかった我々は治癒術が使えると示唆し、一週間かけて彼らの毒を除去する、死の寸前までたんまりと苦しめたうえでだ」

「え……除去するのか? なんでだよ」

「恩を売るんだ、マッチポンプというやつだよ……それで更生するよう促す、その間皆は北部で山賊退治を進めて欲しい」


 キョトンとするソヌスに、マッチポンプ作戦を説明するクリムゾンフレア。

 死の淵に陥らせることで、命を奪ってきたことを後悔し反省するよう促す。

 そして、回復させて恩を売ることで恩人の言葉として更生しなくてはという気持ちが確固たるものになるのだ。


「でも……それでもし更生しなかったら?」

「その時は……今生に救いの道はないと諦めて殺すしかないな、飽くまで手強いのは奴らが船にいるからだ、陸に上がったカッパなど征するは容易い」

「カッパ?」

「猫又之国に伝わる妖怪だ……って、それはどうでもいいだろう」


 極力多くを生きさせたい、その為なら洗脳やマッチポンプだって使う、手段など選ばない。

 しかし無理ならば殺すしかない、一を殺めて多を生かす……一殺多生だ。

 この考えは一貫して揺るがない、絶対の決定事項。

 人災による病というかつての自らと同じ状況に陥った者を殺めるのはいただけないが……それしかないならしょうがない。


「待って、でもそれ……もし私がマッチポンプだって密告したらどうするの?」


 手を挙げて質問するルーチェに、視線が集中する。

 確かに海賊達から離れた後に密告されれば、海賊は再び略奪者に戻るだろうし魔法対策もされるかもしれない。

 その時はまたヒルンドーや北大陸の者が苦しめられてしまう。

 だが、クリムゾンフレアは動じずにルーチェの目をじっと見つめた。


「ルーチェ、何を言っているのだろうか……君は洗脳という卑怯な手段を嫌うのだ、ならば君が密告をして更生した者を略奪者に戻すなんて卑怯な真似はすまい」

「う……!」

「それに君は山賊をやめて愛するズワールトと暮らす喜びを知ったのだ、ならば略奪者をやめた者を略奪者にするなど……耐えられないだろう?」

「くう……チッ!」


 舌打ちをして腕を組みながら、ズワールトに撫でられるルーチェ。

 その姿を見ていると……恨まれているというのに、何か微笑ましさを感じてしまう。

 しかしそれを口にすればますます拗ねるのは想像に難くないので、クリムゾンフレアは黙っておくことにした。


「よし……では、以上の作戦をこれより開始する! 作戦名、北海マッチポンプ作戦! 皆、心して挑むように!」

「了解!」


 雪原に号令を響かせ、一行は海へと進んでいく。

 そして……奇しくも南でも、海に関する戦いを明後日に控えていた。

 沈ませない戦いと、沈ませる戦い……。

 どちらも成功するよう祈りながら、人々は運命の地へと向かう。

 そんな彼らを太陽は激しく照らすのだった。

 さながら運命の苛烈さのように……。

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